勘違い系主人公
「うっそだろ、ベイジが一瞬で乙ったぞ……!?」
「あいつ最近AGI200超えたって自慢してたよな……?」
「なんだあの理不尽な弾幕、反則すぎんだろ……」
PK達が困惑している。俺も困惑している
今起こったことを思い出す
後ろから不意打ちを狙ってる相手に向けて、ボール系魔法でのホーミング攻撃をした。威力も弾速も低い、初歩の魔法だ
しかも、真後ろの敵に向けてなので、観測は『魔力感知』頼りだった。目で見るよりもホーミング性能が下がっていたはず
それなのに結果はこれだ。俺を狙っていた輩は、物言わぬ骸と化している
『魔力操作』と『魔力感知』から伝わってきた後ろの様子はたしか…………2,3秒は避けていたようだが、一つのボールを避けきれず被弾。体勢が崩れた影響か、残りのボールも避けられなくなっていって次々着弾し、最後の二つが同時に着弾したところで、魔力反応が消えた
………自分なりにまとめてみたが、やっぱり理解できない。PKやるくらいゲームセンスに自信があるはずの連中が、なんでこの程度を避けられなかったんだ?
テトロの時なんて、弾速の速いアロー魔法で、がっつり視界に捉えた状況で、さらに『ターゲット』も併用してたのに、当然のように全回避されたぞ?
ここで、俺の中にある一つの仮説が立った。……いや、まだたまたまミスしただけの可能性もある
俺は仮説が本当か確かめるため、もう一度同じことをやってみることにした
『二重詠唱』の恩恵でもう一回使えるボール魔法で、別のPKに向けて無限ホーミングをけしかける
「なぁっ!?ちょっ、今度はあたいぃ!!?」
手慣れた動作でホーミングを開始する。ただ相手を追尾するだけではない、ちょっとした小手先の技も含まれている
魔法の弾速をバラバラにするのは朝飯前。急に停止させたり、わざとゆっくり動かしたり
一瞬魔力を多めに込めてボールの当たり判定をでかくしてみたり、回避する先に回り込ませてみたり。避けにくい肩と脚の同時攻撃なんかもちょくちょく挟んでいる
別に、特別に集中して操作している訳ではない。この程度のコントロール、頭の片隅でできるレベルにならないと『決闘鯖』ではやっていけないってだけだ
現に俺は、無限ホーミングをしながらも他の4人も常に警戒しているし
「くっ、『シャドウダ…嘘っ!?無理、ギブゥ!?」
「姐御!『アクセル』!!」
「た、助かったぜ……」
「……ほう?」
1人目と同じように、すぐ避けきれなくなって被弾し始めた2人目のプレイヤーキラー。そこに別のやつが割り込んできて、魔法を身体で受け止めて庇ったようだ
2人にダメージを与えたが、倒すことはできなかった。だが、これで俺の中の仮説は正しいと確信できた
やっぱりこいつら、中身はそんなに強くない!!
「……どうだった?実際に喰らってみて」
「いや無理無理無理、あんなの避け切るとか絶対無理だわ!なにあれ?単純な自機狙いじゃないし、緩急つけてタイミング崩してくるし、逃げようとしても回り込んでくるし。魔法一個一個に意思があるのかと思ったぜ……」
「そんなにやべぇのか。姐御なら何回くらいか経験したら安定して避けれるんじゃねぇか?」
「……いや、正直1000回やっても避け切れるビジョンが見えねぇ」
「マジで?あの姐御が?」
「6匹のちっせぇトッププレイヤーに全方位から攻撃されてるようなもんだ。知ってっか?人間の目って後ろにはついてないんだぜ?」
他のPKも、俺の攻撃を恐れているようだ
やはりそうだったか。たまたま狙った2人が下手だったわけじゃなく、こいつら全員同程度の技量ってわけだな
そう考えれば、細かな疑問にも説明がつく
なぜ高レベルのスキルを持っているのに、こんな初期のエリアにいるのか。それは、戦闘が上手くなくて同レベルのプレイヤーが狩れず、自分より低いレベルしか狩れないからだろう
つまり、こいつらは「初心者狩り」か。流石にそれは見過ごせないな。PK自体を否定はしないが、初心者狩りと粘着PKだけはダメだ。新規参入者が減るからな
まあ、これは運営も禁止しているため、こいつらは遠からずBANされるだろうがな
なぜ俺、コオロギを狙ったのか。これは多分テトロの配信で、俺が無警戒に『強奪』を使われまくってたからだろう。複数人で挑めば1人くらい『強奪』成功するだろうと思われたんだな
まあ、技量が足らず初心者しか狙えないようなPK相手に盗られるようなヘマはさすがにしないが
「クラメン全員いればいけると思うか?」
「……びみょいな、クラマスが協力してくれたらいいんだが」
「とりま、ここは一旦プランEで……」
さて、初心者狩りをするようなやつを放っておくことはできない。俺がここで引導を渡してやろう
一度借金地獄に落としたら、自分にPKは向いてないと気づいてくれるかもしれんしな。キャラの再作成をしても初心者狩りを続けるようなら……救えなかったってことで。そんときゃBANだし
俺はもう一度、魔法の弾幕を展開する。今度は牽制のボール魔法なんかじゃない。全員刈り取るためのアロー魔法6種だ
「やっべやっべ」
「銃口全員に向いてるんですけどぉ!?」
「これ1人も逃す気ないやつじゃん…」
ボール6発程度で死んでしまうくらい紙耐久なやつらだ。アローなんて、1発直撃しただけで瀕死になるだろう
やつらが混乱しているうちに発射しようとし…………地面の下から何かが近づいてくる
あ、忘れてた
「ーーー?」
PKの後ろ、地面からぴょこっと飛び出た白い頭。物質を透過する霊体の身体。怖さのかけらもないデフォルメの顔
巣のアリを殲滅してきた俺のテイムモンスター、レイスのミュラだ。いつまでたっても俺が合流してこないから、地面を突っ切って真上に上がってきたようだ
「ーーー!」
「へ?───」
「あ、姐御!?」
状況がわかってなかったようだが、どうやら俺が囲まれてピンチだと判断したらしく、目の前のPKにペチッとする
そいつは俺がホーミング攻撃を当てたやつで、体力が削れていたせいかその一撃でポリゴンへと還っていった
…………うん、ミュラ偉い!
「まっず、魔物までリスポーンしてきたぞ」
「よりにもよって可愛いのに可愛くないやつかよ!?」
「こりゃもう最終手段いっちまうか?」
「ああ、問答無用でプランE-E、エマージェンシーだ!!!」
仲間がまた1人やられたPK共が、なにかの合言葉を使う。まだなにかしてくるようだ。いきなり全員で、右手を突き出すようなポーズをしてくる
一体何をしてくる気だ?まさか……『呪い』か?
追い詰められたやつが1番怖い。なにがきても対処できるように身構えて……
「「「「生贄だーれだ!!!」」」」
「……へ?」
「「「「じゃんけんぽんっ!」」」」
「あ゛ーーっ、ちくしょう俺かよ!!」
俺が拍子抜けしている間に、じゃんけんで負けたやつだけを取り残して散り散りに去っていった
………え?逃げた?
はい。
イヤはいじゃないが
というわけで、ようやくこの作品のキーワードに『主人公準最強』を追加できます
何度もご指摘をいただいた通り、16年もやってるプレイヤーが、当時の実力はどうあれ初心者に負けるわけないんですねぇ。例外を除いて
クロート君は、タイムリープして初の対人戦でその唯一の例外を引いてしまったせいで、自己評価がバグってしまいました
参考までに、現在のプレイヤーの平均練度……いや中央練度を10とすると(平均だと外れ値がやばいため)
一般プレイヤー:10
トップクランのメンバー:15〜25
トップクランのクランマスター達:30〜40
クラン〈夜の死花〉メンバー:25〜40
クロート:50,000
こんくらい差があります
オマケとして
クロート(16年前):13
廃人勢・『決闘鯖』上位ランカー等:530,000
テトロ(現在):¿♪#☆$
(測定不能)(………いや、現在進行形で上昇し続けている…!?)
テトロ(未来):⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
ボムンッ!(スカウター破壊)
 




