メッセの確認はこまめにしよう
・前話を飛ばした人用あらすじ
朝からムカつくやつに電話をかけてしまい、理不尽にキレられた(と、主人公は思っている)
なので今ちょっと機嫌が悪い
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朝食を済ませてすぐに『AWR』にログイン。降り立った場所は、昨日ログアウトした場所と同じ草原のど真ん中だった
近くを一角ウサギがぴょこぴょこと跳ねていたので、憂さ晴らしに魔法で消し炭にしながら、現状を確認する。ゲーム内でも朝、気持ちのいい快晴であった
「うーん、朝かぁ……」
前から予定していたことは、夜にならないと不可能なことだ。それまで時間を潰す必要があるな
……面倒事から片付けるか。昨日の報酬を確認しよう
「っと、その前に『リターンホーム』っと」
メッセージを開封する前に自分のハウスへと移動しておく。野外フィールドとかの、他に人間がいる場所で報酬を受け取るのは危険だからな
アイテムポーチ内の総額が一定値を越え始めると、ぬすっとNPCが出現するようになる。「桃太◯電鉄」の「スリの◯次」みたいなもんだ
ここのレベル帯なら簡単に返り討ちにできるやつくらいしか出ないだろうけど、警戒に越したことはないからな
………それにここにはNPC以外にもプレイヤーもいるし。よし、ちゃんと意識を切り替えられてる(自己確認)
「うん、ここなら安全だな」
マイハウスに移動した俺は、早速メッセージからイベント報酬を受け取ろうとし……
「……なんでメッセが三通あるんだ?」
メッセージ欄には、イベント報酬が添付されているメッセージの他に、もう二通違うものがあった
いつの間に来てたんだろう?俺はメッセージ通知をオフにする設定にしてたから、どのタイミングで来たのかわからん。戦闘中に通知来るのめちゃくちゃ煩わしいからな
今の俺にフレンドなんていないので、あるとすれば運営かシステムメッセージだろう。まあ開いてみればわかるか
「一通目の件名は……『賞金首討伐の報奨金』?」
賞金首といえば、盗賊の頭とかの悪人NPCのことだけど…倒した記憶がないぞ?
え、知らないうちになんか倒してた?俺なんかやっちゃいました系?うーん、全く心当たりが……
「あ、アイツかぁ!!」
メッセージを開いてみれば、予想通り『あなたは賞金首「テトロ」を討伐しました。その報酬が〜〜』といった内容が。そういや、高カルマ値のプレイヤーも賞金首にされるんだったな
添付品を開封してみれば、200万超の金額があった。これはいい臨時収入だな。テトロを倒した時に落ちたアイテムを拾わなかった事、ちょっと後悔してたんだよなぁ
「さてと、二通目は……『盗難物の買い戻しを勧めます』、か」
盗難……あ〜、強奪された矢束を拾い忘れてたな。あの後気づいて、拾いに行くのも面倒だからと新しく作ったけど
あれから誰にも拾われなかったから、システムが回収してこっちにきたのか
ぶっちゃけ今更いらんな。作った方が安上がりだし、矢数にも困ってない。ここは『買い戻さない』を選択して……
「あれ?矢束じゃない」
メッセージに表示されていた盗難物に、合計70本奪われたはずの矢束はなく、かわりに一本の回復アイテムがあった
「あいつ、タバコも盗ってたのかよ。つか矢束は誰かに拾われちゃったんだな」
まあ、よくよく考えれば矢束だけをピンポイントに70本も──10本一束にしてたから七束も──奪うことは難しいからな
もちろんタバコでも買い戻さない。なんかすごい値段になってるし
現状俺しか作れないから、希少価値うんぬんで管理AIが値段設定したんだろうけど、回復量に値段が見合ってない。マーケットに流れたとしても、誰も買わんだろうな
にしても、タバコも盗られてたんだな。……もしかして、他にも盗られてたりするのか!?
「貴重品は無くなってない、素材は……なにが何個あったか覚えてないぞ?レア素材の数は、多分減ってないはず」
そもそもレア素材は極力持ち出してなかったはず。ポーチの中は、簡易生産キットと生産に使う素材を適当に詰め込んでたな。生産キットは無くなってないから、特に失って困るものは盗られてないな!
……なんか見落としてる気がするけど、いったんこれでヨシ!!
う〜む、今になってテトロの異常さがわかってくる……。あの戦闘中に、『強奪』を複数回、最低でも8回はやっていることになるぞ……?
もしあいつがエンタメ抜きで殺しにかかってきてたら、俺は8回死んでたのかも……
「まあ結局俺が勝ってるし!結果こそ全て!!さて、気を取り直して三通目開いていこう」
気が滅入りそうなことを無理やりテンションで吹っ飛ばして、最後のメッセージ、イベント報酬を開封する
うむ、特に意外性のあるものは入ってないな。順当なもんだ
素材群は、薬草10本セットみたいなしょぼいものから、属性結晶やボスのレアドロとかのちょっと嬉しいものまで。玉石混交だな
お、装備も入ってる。……土属性の盾と風属性の靴かぁ、使えそうで使えんな。靴の方は使えんこともないけど、素材に戻して新しいものを作ったほうがいいレベルだな
あとはお金が…40万Gもあるな。貢献度上位だったから報酬もプラスされてるんだな
で、最後に問題の品物、スキルオーブだ
こいつの行き先は決まってる。自分では使わず、マーケットに放り込む予定だ
それもオークション式の方じゃなく、素材や消耗品の簡易売買をしている通常マーケットの方に捨て値で売り払う。プレイヤー諸君、早い者勝ちだぞ?
早速取り出して、ギルドからマーケットに入れておこう。☆5オーブを手放すのは惜しいけど、俺はスキルの習得条件は網羅してるからな!
一応、このオーブに入ってるスキルを確認しておいて………
「………まさかの、ここにきて『呪い』かよ……」
『呪い』スキル
触媒などの前準備をしておくことで、相手に厄介なデバフを与えられるスキル
魂に張り付くという仕様のため、呪いのかかった場所を切り落としたり、一度死んだとしても解除されないスキルだ。……まあ、大半は時間経過で解除されるけど
なかなかに扱いづらく、俺には単純な使い方しかできない。だが、頭のいいプレイヤーが複数人で『呪い』を使うことで、多人数相手にコンボのような複雑な呪いをかけることもできる
他にも「呪い返し」や「呪痕」、ストーリーで重要になる「厄災の呪い」など、要素は多岐にわたるが、今は省いておこう
何故俺が『呪い』のスキルだと気づいて迷っているのか。実はこのスキル、しっかりとした知識がないと使用者側も苦労する代物なんだ
まず、このゲームは「死」が安い。とにかく安い
NPCをうっかり死なせちゃっても、1回目なら「次から気をつけろよ」で済ませられるくらい安い。世界観的に、死はあまり重いものではないからな
そのせいか、人間をキルしてもカルマ値がそんなに上がらなかったりする。プレイヤーキラーのカルマ値が上がるタイミングって、実はキルした時じゃなくて落ちたアイテムを拾った時の方が多かったりする
その逆の被PKKもカルマ値がそんなに下がらないけど、ペナルティはガッツリ発生する。強制的な刑罰と自主的な贖罪は別判定なんだとか
話が逸れた。なんでいきなりカルマ値の話をしたというとだ。この『呪い』というスキル、ちょっと扱いを間違うとポンポンカルマ値を稼いでくる厄介者なのだ
どんな身体的異常が起きても、「最悪死ねば治るやろ」の精神でいるNPC達にとって、死んでも治らない呪いというものは恐怖の象徴だ。時間経過で消えるとしてもな
冗談でも住人相手にかけてみろ?即座に危険人物認定、下手すりゃ一発で指名手配だ
しかも、スキルを持ってることがバレるだけでも好感度がゴリゴリ減っていく。『闇魔法』の場合は教会関係者以外なら比較的寛容だけど、『呪い』はほとんどのNPCから忌避の目で見られることになるぞ
う〜〜〜ん……こんな罠みたいなスキルを市場に流すのに躊躇いが出てきた……
とりあえず今売るのはやめといて、様子を見よう。売るとすれば、【呪術師】に転職する人が出てきた時がいいかな?
「んじゃ、それまで大事に倉庫にしまっとこう。……夜までまだまだ時間があるなぁ。何をしようかな?」
ああそうだ、三つ目のイベントの下準備を進めとくんだった。ならまずは、冒険者ギルドへと移動するか
 




