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天からの救い


◆カイル視点



 たった1人のプレイヤーに、上位クランのメンバーが手も足も出ず、さらに2人のクランマスターが倒されてしまった



「トッププレイヤーねぇ……キャラレベルが高いだけで中身はそんなだね。実力は、ボリュームゾーンのちょい上程度かな?」



 あまりにも俺たちを下に見すぎている。でも、彼女にとってはそれで正当な評価なのかもしれない


 プロゲーマーと張り合う、どころか「メンタルクラッシャー」「最も多くのプロゲーマーを引退させかけた女」「なんなら引退させた女」なんて蔑称が与えられているテトロ。そんな彼女にとって、開始から1週間、ベータ期間を入れても3週間しか経っておらず環境の煮詰まっていないゲームでトップを気取っている俺たちは滑稽に見えるのかもしれない



「MMOだから、こんなでもトッププレイヤーで間違いじゃないのか。いっぱいレベリングできてえらいっ!!」



 MMOの廃人といえば、効率のいいレベリング法・素材収集法が判明したら、後はひたすら作業だ。ログイン率と、単純作業に耐えられる精神性が求められる


 つまるところ、対人技術はそこまで必要ない。対抗型イベントなどでは必要になるだろうが、圧倒的なやり込み量によるキャラレベルの差を叩きつければいい


 だがこの現状。やり込み量で勝負するには圧倒的に時間が足りていなかった





「お久しぶり、イルカくん?3()()()は君にするね」


「……俺のプレイヤーネームは「カイル」だよ。できれば、見逃してくれると嬉しいんだけどなぁ……」


「そうだね。10位だし見逃そうとも思ったんだけどねぇ。聞こえちゃったんだよね、『鑑定』って。前から欲しかったんだぁそのスキル」



 そのテトロが、ついに俺の前へと降り立つ。次のターゲットは、俺の持つ『鑑定』のスキルオーブのようだ


 短剣を構えてにじり寄るテトロ。そんな彼女と俺の間に、立ち塞がる影が2つ



退()けい!『シールドバッシュ』!!」


「遅いね、でも重そう。体幹もどっしりしてて崩しにくそうだね、おじいちゃん」


「ワシはドワーフだ!まだ30代だ!カイル!今のうちに逃げろ!!」


「俺も時間を稼ぐぜ!クラマスは街まで逃げな!!」


「ゴードン!ダラダン!!」



 うちのメインタンクであるゴードンと遊撃・回避タンクのダラダンが時間稼ぎを請け負ってくれる



「俺らなら大丈夫だ!こいつはどうやらイベント上位勢しか狙ってねぇ!俺が殺される可能性は低い!!」


「わ、わかった!すまない!」



 クランのリーダーとしては情けないが、報酬を守るために敵に背を向けることにする。街へ逃げ込むために反転し……




「ばぁ」



 目の前に、テトロがいた



「な、い、いつの間に……」


「逃がさないよ〜?もう1人の獲物は早々に逃げちゃったからね」



 ここにいた10位入賞者は4人。ザッパ、デリック、俺、そしてイヌがミケだ。たしかに、〈ビーストロード〉のメンバーは既に見当たらない


 ちらりと後ろを見れば、ゴードンが重い鎧を揺らしてドシドシとこちらに向かっているところであり、その後ろではダラダン()()()()()がポリゴンとして散っているところだった


 こんなのに勝てるわけがない。俺なんてベータテストというたった5000人しかいない環境で一位を取っただけだ。それも相性が良かっただけのラッキー試合。このバケモノには通用しないだろう


 俺たちの行く末を暗示するかのように、雨まで降り出した。せめてもの意地で、剣を深く握りしめて……





「……朝夜の8時以外でも天気って変わるんだね」


「え?」



 唐突に、テトロがそう呟く。武器は未だに構えているが、その殺意が薄れているように感じた



「この雨っていつまで振り続けるのかな?」


「た、たしか〈にわか雨〉はすぐ止むことが多いけど、たまにそのまま振り続けることもあったはず……」


「そう。じゃあ帰ろっと」


「え!?」



 そういうとテトロは武器をしまい、戦闘態勢を解除してしまった



「な、なんでいきなり?」


「んー、洗濯物を取り込まなきゃ。じゃーねー」



 そんな冗談を言い、街の方へと走り去っていくテトロ。俺はその背中を呆然と見送ることしかできなかった



「た、助かった……のか?」




「く、こっち来んな!!『パワースラッシュ』!!」


「攻撃ってのは当てないと意味ないぞ?『ソニックスラッシュ』」


「ぎゃっ──」


「順調そうだなクラマス、それで何キル目よ?」


「おいらがトドメを刺したのは13人目かな?でもポーチが一個も落ちないんだわ」



「カイル!まだ終わっておらんぞ!奴らが来る!!」


「はっ!?」



 そうだった。最大の脅威は去ったが、まだ〈夜の死花〉達が残っている


 だが、彼らはあのバケモノほど強くはない。俺の実力でも十分に張り合える



「フィル、ハナさん、これ俺のアイテムポーチだ。これを持って街まで避難してくれ」


「わかりました!」


「カイルはどうするの?」


「情けないところを見せたからね。俺はあいつらと戦ってくるよ」



 最低限のポーションだけインベントリに移動させ、ポーチを託す。ポーチさえ持っていなければ、死亡した時のリスクは格段に減る


 汚名返上するために、リーダーとしてクランメンバーを守るために。俺は再度武器を持ち直し、プレイヤーキラーへと向かっていった


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