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ゴブリンスタンピード ⑨

『ちょっと待てや。美味しいとこだけ掻っ攫うつもりじゃねぇだろうな?』


『長引くほど我々に不利になる。速攻で終わらせるなら、これが最善だ。従ってくれ』


『最善?どこがだよ!魔法職だらけのお前らだけでボス倒せると思ってんのか!!』


『言っておくが、我々のクランには魔法職以外もいる。十分に討伐可能だと考えている。ボスを独占してしまう点は申し訳ないと思っている。今後同じようなイベントがあれば補填をすると約束しよう』


『取ってつけたような言い訳だなぁおい?最初からこれを狙ってたんだろ!!』


『心外だ。言い争っている時間はない。黙って従え』


『はぁぁぁ!??』



 デリックのあまりにもな物言いにザッパがキレ散らかす。デリックの言い分にも納得できないことはないが、流石に強引に物事を進めすぎだと思う


 ずっと後ろでふんぞり返って、ちまちま援護射撃しかしてない〈アルファウィザード〉達なら、MPもまだまだ残っているだろうし、ポーションのクールタイムになっているメンバーも少ないだろう


 ボス戦まで温存していたわけだ。…その前の露払いを俺たちに押し付けて。本当に意図してないのかはわからないが、不満を持たれて当然だ


 でも明確な証拠もないし、言い負かすような策を考え出すような時間もない。事をさらに荒立てるようなこともしたくはない。不服だけど、ここはひとまず従っておこう



「……はぁ。〈オルキヌス〉全体に通達、ポーションも使ってスタンピードを押し返してくれ」


「え?ボスの取り巻きをやるんじゃなかったの?」


「いろいろあってね……。戦いながら説明するよ」



 それにしても、なんであのクランは毎回他のクランとの間に波風立てるような言動をするんだ?


 攻略クランとしてライバル視するのはわかるけど、他クラン全部から不興を買うようなことをすれば、今後立ちいかなくなることぐらい予想できるだろうに……





◆Side:デリック



「クランマスター、やつらに言うこと聞かせられましたか?」


「ああ。渋々といった様子だったので、命令無視する可能性はあるがな」


「PK崩れ共が。罪人は黙って従ってろっての」

「一々歯向かってきやがってクソ面倒だっつーの。バカなんだから一位クランの言うこと聞いときゃいいのにな」

「それな。文句あるんならもっといい作戦出せよな」


「やめておけお前達。品のない言動をすれば、あいつらと同レベルと思われるぞ」



 指揮官というのもなかなか難しいものだな。想定外のことへの対処で、最善策を出しても恨まれてしまうのは難儀なものだ


 だが、この立ち位置を降りるわけにはいかない。私以上に指揮官として適任なものはいないからだ。あのロウガンというジジイが来た時は、立場を明け渡そうともしたが、あれは周囲が私より彼の方が有能だと思っていたからだ


 私はそうは思わない。彼はデスクの上での作業は得意だろうが、目まぐるしく状況が動く中での指示なら私の方が上手いと自負している


 他の連中は論外だ。実力だけなら同格だろうが、短絡的な馬鹿に消極的な優男、危機管理もできない阿保女に無責任な獣に厨二のガキ、あとは無口なクソ女だ。どう考えても私の方が適している



「行くぞ。他のクランが頑張ってくれている。早急に討伐しよう」


「クラマス、あの地雷とやらはどうするんすか?」


「幸いにも、()()()()()()あらかた起爆済みだ。念の為『火魔法』は控えておけ」


「了解。先走った人柱…おっといけね、その身を以て障害を取り除いたプレイヤーの犠牲に感謝っすね」


「…ああ。…まずはゴブリンを殲滅して道を開けろ。第一部隊、用意」


「「「『ウォーターウェーブ』」」」


「「「「「『エアカッター』」」」」」



 私の号令に従い、前列にいたクランメンバー達が正面のゴブリンを一掃する。それを二回ほど繰り返した後、後ろに下がらせてポーションを使わせる


 第二部隊にもゴブリンを一掃させて、第三部隊に交代。一掃させたら交代…と繰り返していけば、第一部隊に順番が戻ってくる頃には、ポーションのクールタイムも終わっているという算段だ


 数分ほどでボス前まで到着する。するとそこには、ボスと戦闘中のある一団がいた



「……なにをしている「イヌがミケ」?私はスタンピードを押し返せと指示したはずだが?」


「おいおい怖い顔すんなって。あんたらが到着するまでこうやってボスを抑えていたんじゃないか」


「命令にないことはするな。ボスへの与ダメージを稼ぎたいという魂胆が見え見えだぞ」



 そこにいたのは、遊撃として出動を許していた〈ビーストロード〉の面々だった。ヒットアンドアウェイを繰り返し、ボスとその取り巻きの視線を街とは逆方向に向かせようとしていることがわかる



「俺っち達にそんな意図はないって。それに、もしそうだとしてもあんた達だけには言われたかないね」


「なんだと?」


「おーこわ。そんじゃ俺っち達は退くわ。んでも気をつけた方がいいっぽいぞ?あいつ、ベータの何倍も強くなってやがる」


「それくらい想定内だ。余計なお世話だ」


「しかもな?ボスが取り巻き共を復活──」


「しつこいぞ。さっさと命令に従え」


「あっそ。忠告はしたからな〜。おーい撤退すんぞ〜」



 クランマスターの声かけで、〈ビーストロード〉共が引き下がっていく


 まったく無駄な時間を使わされた。ああいう輩がいるせいで、効率的に動くことができなくなるというのに。同じクランマスターという立場だが、私のクランの方がメンバーを効率よく指揮できているのがいい証拠だ


 奴らが撤退する間に、我々のクランメンバーでボスを取り巻きごと取り囲む。そこには、黒い瘴気に包まれている以外、ベータの時となんらかわりのないモンスター達がいた


 黒い瘴気は激怒個体が纏っていたものと酷似しているので、強化されていることぐらい脳筋でもわかる


 頭の上に体力バーが出ているが、全く削れていない。あれほど訳知り顔で忠告してきた割には、ほとんど貢献できていないじゃないか


 やはり、攻略トップクランである〈アルファウィザード〉が先導し、他のプレイヤーを導いていかなくては



「取り囲み完了しました。奴らも全員撤退したみたいです」


「よし。取り巻きごと殲滅するぞ。全員一斉斉射!」


「「「「「「『アクアショット』!!」」」」」」


「「「「「『ロックランス』!!」」」」」


「「「「「「「「『ウィンドストーム』!!」」」」」」」」



 各々が出せる、『火魔法』以外の最も火力の高い魔法を放つ。特に、一つの魔法のみに特化したメンバーによるレベル15アーツは壮観で、取り巻きを駆逐し、ボスにもダメージを与え始めている



「その調子だ。ポーションも惜しまず使え。『魔力増幅』、『ダークウィング』」



 私も戦闘に参加し、ボスへダメージを与える。私の周囲に闇色の羽根が舞い、それが全てボスへと突き刺さる


 要求BPが他の魔法より1多い『闇魔法』、レベルが上がりにくいため、レベル15まで育てているのは私ぐらいだろうな



「撃ち方やめ!MPを温存し、高レベルアーツのクールタイムが終了したらトドメをさす!タンク部隊、ボスの攻撃を引きつけて時間を稼いでくれ」


「「「「「了解!!!」」」」」



 ボスの体力を見れば、既に5割以上削れていた。これも早い段階でクランメンバー全員が魔法を習得できたおかげだろう。…あまり認めたくはないが、あいつらの功績ということになるな


 だが、それを取り入れてここまで成長させたのは我々の手腕に間違いない。やはり私の方が正しいのだ



「グオオオオ……!!!」


「気をつけろ、何かしてくるようだぞ」


「最悪死んでも後ろの連中は庇うぞ!」


「念の為、全員少し離れておけ」



 ボスのゴブリンキングが、その巨体を屈め、力を貯めるような動作をする。それに連動するように纏わりつく瘴気が増し、生き物のように脈動する


 ゴブリンキングが両腕を振り上げ、地面へと振り下ろした。少しの衝撃の後、一拍遅れて地面から大量の瘴気が噴出した


 その範囲は、私の目の前まで到達していた。警戒して事前に一歩下がらなかったら、全員が巻き込まれていただろう。フッ、やはり私の判断は正し──




「───は?」



 瘴気が晴れ、そこにいたのは、体力バーが1ミリも削れていない状態のゴブリンキングだった



「な、なん……」



 それだけではない。先ほど倒したはずの取り巻き共まで、全ていた。しかも、先ほどより濃い瘴気を身に纏って



「ゲッゲッゲ、グギゲギャギャギャ!ゲギャァァアア!!!!」


「ギギッ」「グゲガッ!」「ギャギャギャ!!」



 ゴブリンに、嘲笑われたような気がした

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