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ゴブリンスタンピード ⑧

「倒したぞおおお!!!!!!」


「「「「「うおおおおおお!!!!!!」」」」」



 誰かが叫ぶと、周りが一斉に勝鬨を上げ始めた。序盤も序盤、難易度の低いチュートリアル的イベントだったが、ここまで盛り上がれるものなのか


 そういう俺もちょっと興奮してるけど。ちょっとね。でも、イベントはまだ終わっていない



「よっしゃこのまま外も加勢するぞ!!」


「掲示板じゃなんかやばいことになってるっぽいな」


「俺続戦無理だわ、MPがねぇ」


「マナポもないのか?攻略クランが売ってるらしいぞ」


「中毒が重なりすぎててやばい。一回死に戻るわ」


「外行くやつらー火属性禁止忘れるなよー」



 そう、本命のゴブリンスタンピードがまだ残ってる。それにこっちに戦力を割きすぎて向こうの人数が少なくなっているはずだから、結構不利な状況になってるんじゃないか?


 レッサーリッチを倒したから、ゴブリンキングの不死化と強化もなくなったはず。ゴブリンキングは魔法耐性なんてないので、プレイヤー達の集中砲火ですぐ倒せるだろうけど、一応加勢に行っておこう







───時間は少し遡る




◆Side:カイル



「…今の所、俺たちが参加しなくても十分抑えられそうだな」


「むしろ援護射撃すらいらないかもですね」



 最初こそ混乱状態だったゴブリンスタンピードも、少し時間が経てば落ち着いていき、数の差をものともせずに押し返してすらいる


 時たま爆音と共に土柱が吹き上がるが、その頻度も減っている。やはりベータでも、ボスに集中しなければ高評価は取れていたのだろうな



「ん?あれはなんだ?」


「位置的にボスが出現したっぽいけど、様子がおかしいわね」


「何!?またベータからの変更点か!」


「よく見えないですけど、黒いモヤのようなものがありますね。『望遠』持ちはいるでしょうか?」



 ゴブリン達の後方に黒いモヤが立ち昇る。どうやらボスが出現したようだ。でも何か変、と。これは街中のことと関係があるんだろうか?


 ベータの時はどうだったっけ?たしか、ゴブリンキングっていう体長3m近いゴブリンと、取り巻きとしてゴブリンの上位種が出現してたな


 ゴブリンの上位種は、ゴブリンソルジャーやアーチャーといった武器持ちや、ゴブリンウォーリアーという単純に強いやつ、ゴブリンアサシンというスピードタイプ、あとは魔法を使うゴブリンメイジとかが……



「………あっ」


「どうしましたかカイルさん?」


「ゴブリンメイジの使ってくる魔法ってさ……『火魔法』だったよな」


「え?そうですけど──あっ」


「「「あっ」」」



 ボス討伐の懸念点がまた一つ増えた。多分だけど、奥の方の地雷はまだ爆発してないものが多く残ってそうなんだよなぁ



「一応指揮官であるデリックさんに伝えた方が良さそうですね」


「そうだね。気づいてるかも知れないけど言っておこう」



 フィルの助言に従い、同盟通話で伝えることにする。……それより、フィルが言った「一応」ってどっちの意味なんだろう?「一応伝えておく」のか「一応指揮官」なのか……




 ────ドッッゴオオォォォォン!!!!!!!



「あぁ〜〜……」



 遅かったようだ


 ゴブリンだけが自滅するならいいんだけど、爆発範囲が広くてプレイヤーも巻き込まれてしまう。どうにかならないかな……



『同盟に通達、案の定ボスに向かうプレイヤーが出て、戦線に乱れが生じた。各クランはその援護に行ってくれ。〈竜殺の光剣〉と〈プラスアルファ〉は南側へ、〈オルキヌス〉と〈傭兵団〉は北側へ。〈ビーストロード〉はボスの近くまで行って、ボスに攻撃しているプレイヤー達をまとめてくれ』


「あとゴブリンメイジの『火魔法』がヤバいかもしれない。討伐優先はゴブリンメイジがいいと思う」


『おう、了解だぜ〜』


『…指示は私が出す。口出ししないでもらいたい』


「ご、ごめんよ」



 たしかに割り込んで発言した俺も悪いけど、そんな怒ることかな?まあいい、とりあえず彼の指示に従って、俺たちは北側の援護をしに行くか



      ・

      ・

      ・



「『狙撃』、『強射』、『豪射』、ついでに『回し蹴り』!おいおい、ボスの周り以外にも上位種が湧くなんて聞いてねぇぞ」


「『エアカッター』、『ダークアロー』、メイジはいないことが救いだわね」


「『シールドバッシュ』!むぅ、この黒いモヤはなんだ!?ワシの体力が異様に削られるぞ!」



 俺たちが戦闘に参加して10分ほど経ったが、あまり戦況は芳しくない


 理由は、ゴブリンソルジャーやゴブリンウォーリアーといった上位種が通常種に紛れて攻撃してくることだ。しかも、ボスに纏わりついていた、瘴気というものを纏っている個体までいて、そいつがかなりの強さを持っている



「『薬効促進』、ゴードンさん回復です!『処方』、『投擲』!」


「おう!助かる!」



 回復担当のフィルが、うちのパーティのメインタンクであるゴードンの体力をポーションで回復する


 フィルの回復スタイルは、『光魔法』が出回る前までは主流だったスタイルだ。『薬効促進』で効能を上げ、『処方』でクールタイムを減らすというものだ。離れた味方も回復できるように、『投擲』を合わせることもある


 『調合』や『投擲』を上げる都合上、DEXを多く振ることになるので、それなら斥候も兼任させようということで、フィルの担当は回復・斥候だな


 今後のスタイルはパーティでも悩んでいる。『光魔法』を取ってMNDを上げていくのか、いっそ生産メインになって回復役は別のプレイヤーを入れるのか。俺たちは同じメンバーのままがいいが、フィルとしては回復性能で足を引っ張ってしまうのが気がかりのようだ



「あ、ハナさん、MPを使うのは少し抑えて欲しい」


「いいけど、なんでよ?まだMPポーションは十分だし、中毒の状態異常にもなってないわよ?」


「それなんだけど、ボスの取り巻きの処理を任されそうな雰囲気なんだ。その時にMPがなくてポーション飲まなきゃいけない状況は避けたくてね」



 スタンピードに押されている原因はもう一つある。それはポーション回復の使い方だ


 HP回復の[ポーション]とMP回復の[マナポーション]は分類が同じものであり、クールタイムが共有されてしまう。つまり、HPポーションのクールタイム中にMPポーションを使うと〈中毒〉になってしまう


 〈中毒〉はレベル1だとHPに微小なスリップダメージがつく程度だけど、〈中毒〉を重ねてレベルが上がっていくと、デメリットが加速度的に増えていく。仕舞には……



「やべ、〈めまい〉だわ。マナポマナポ…」


「おい、さっきから飲み過ぎじゃないか?」


「は?俺の金で買ったやつだからどう使おうがいぃぇあ???」


「重症ですなぁ」


「今〈中毒〉どんくらい?」


「い、今7レベ、立てねぇ、装備が重、つか死ぬぅ」


「飲みすぎや」


「死んだ方がいいぞ。暴言とかじゃなく真面目に」


「しょんな〜──」



 ……あのプレイヤーみたいになる。中毒レベル7になるまで気付けないのは稀だけど


 特にプレイヤーが使っている、キノコ系の素材を使って効果を上げたポーションは、それ以上にクールタイムが長くなってしまう。しかも品質の低いものだと、一度の〈中毒〉でレベルが2,3つ一気に上がるものまである始末だ


 普段使いなら問題ないが、今回のような連戦だと、途端にデメリットが目立ってくる。キノコを使わない[見習いポーション]のほうが使いやすくなってくる


 少し前まで勢いがあった魔法ジョブプレイヤーは、今は消極的な動きになってきている。MPを気にせず魔法を使っていたけど、ポーションが使いづらくなったせいだ



 これらの要因が合わさって、徐々にプレイヤー側が押され始めている。街に辿り着かれるのも時間の問題かも。打開策があるといいけど……



『上位クランに告ぐ。全リソースを使ってスタンピードを押し返せ。その間に、我々〈アルファウィザード〉でボスを討伐する』



 …どうやら強硬策で行くらしい

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