もちろんスタートダッシュ
「危ねえ危ねえ、忘れてたわ」
数日後、サービス開始1時間前。俺はあることを思い出してゲームを起動していた
それは操作設定。タイムリープ前はいつも使っているものが流用されていたため、ここをいじるのは久しぶりだ
「えーと、匿名設定はオフで、UIのショトカ設定はこうして、脳波感度はこれくらいに上げて……」
これはオン、これもオン、ここはそのままでこれはオフ。あ、ここもいじらないといけないのか
記憶を掘り起こしながらぽちぽちと設定をしていたら、いつのまにか残り5分にまで迫っていた
「設定オーケー。飯食ったトイレ行ったウンコした鍵閉めた。準備は万端だ、いつでも来い!」
やはりこの瞬間は何度やってもワクワクする
〈《アナザーワールド:レスト》へようこそ!〉
ここから、俺の新しい無そ…冒険が始まる────
〈チュートリアルを開始します〉
……………そんなんあったな!!!
ええいスキップだスキップ!あ?スキップがない?そういや公式鯖じゃできなかったな……
初っ端からつまづいたが、特に時間がかかるわけでもないため、サクッと終わらせてマップへと移動した
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一瞬の浮遊感ののち、視界が変わり足が地面につく
ここは最初の街『ファスト』の中央にある、噴水広場のようだ。できる限り最速で来たつもりだが、既に結構な人がいる
そういやベータテスターはチュートリアルスキップできるんだっけ?よく見ると、周りのプレイヤーは皆初心者装備に不揃いな装備を一つだけつけている。おそらくベータからの持ち越しなのだろう
そんなことを考えているうちにも続々とプレイヤーが入ってくる。俺は混雑しないうちに冒険者ギルドへと急いだ
ついでにMP1を消費し、『生活魔法』のLv.1アーツの一つ、『そよ風』を使用する。HPやMPは時間でじわじわと自然回復するため、もったいなかったからだ
CTもほぼないから適当に99連発する。無色透明でエフェクトもないため、誰にも気づかれてないだろう。気づかれたところで不味いことは別にないが。スカートめくりにも使えないレベルの風圧だし
そんなこんなで冒険者ギルドの建物に到着する。AGI振りだからかなり早く着いた。建物に近づき、混雑防止用のプライベートエリアへ飛ぶ
順調にRTAの動きに沿っている。受付に話しかけて冒険者登録した後、冒険者用資料室へと入れてもらう。そこで数冊ほど持ってきて、パラパラとめくって目を通す
今やってるのはスキル解放のための条件埋めだ。ここにある本には、読めば初期ジョブの2スキルを解放できるものが全部ある。通常は転職して埋めていくので、今読むのはすぐに使いたいスキルだけだ
ちなみに条件は全ページを視界に通すこと。読み飛ばすのはNGだが、ページの端でも視界に入ればOKである
こんなかんじでバラバラと目を通していき、あと一冊になった。それはボロボロでたった数ページしかない、紙束といったほうがいいぐらいの本だ
「さてと……え〜、これを読むものに叡智と祝福を──」
俺は唐突に声に出して読み出す。といっても、そこには理解不能な文字しか書かれていなかったが
「──であるとす。…ここでめくって、なんだったっけ?そうだそうだ、この魔術は──」
だが、さも理解しているように読み進めていく。といっても内容を丸暗記しているだけだが
そうして読み終えると、UIにインフォメーションが流れた
〈条件を満たしました。スキル『古代魔術』が獲得可能になりました〉
〈称号『古代を読み解く者』を獲得しました〉
〈スキル『古代文字』が獲得可能になりました〉
〈BP10を獲得しました〉
これはちょっとした裏技を使った結果だ。本来は別の街にまで散らばってるヒントをかき集める必要があるのだが、そこをすっ飛ばしてこの古代文字で書かれた本を読み解いたのだ
その結果、この本を読んで解放できる『古代魔術』スキルと、称号を獲得できた
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称号:『古代を読み解く者』
古代文字で書かれた文献を読み解いた者に与えられる称号
効果:『古代文字』獲得可能、BP10獲得
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これを見れば、本来一日目で手に入れる称号じゃないことがわかる。ちなみに『古代文字』獲得に必要なBPは10だ。これで獲得しろということだろう
まあ取らないけど
『古代文字』なんて使いどころが少ないし、現状スキルレベル上げもできない。ついでに『古代魔術』の必要BPは30で、取れたとしてもMPが足りなくて発動できない
つまり、今回の目的はBPだ
予定通りにスキルを次々獲得していく
〈BP2を消費し、スキル『植物鑑定』を獲得しました〉
〈BP2を消費し、スキル『魔物鑑定』を獲得しました〉
〈BP2を消費し、スキル『アイテム鑑定』を獲得しました〉
〈条件を満たしました。スキル『鑑定』が獲得可能になりました〉
〈警告 スキル『鑑定』を獲得すると、既存スキル『植物鑑定』『魔物鑑定』『アイテム鑑定』は消滅します。本当に獲得しますか?〉
〈BP5を消費し、スキル『鑑定』を獲得しました〉
〈スキル『植物鑑定』『魔物鑑定』『アイテム鑑定』は、スキル『鑑定』に統合されました〉
キャラクリの時に1だけ余らせておいたBPも使い、みんな大好き『鑑定』様をゲットした。なにをするにしてもこれがないと始まらない必須級スキルだ
もうここに用はないので即退出する。ここまでかなりいいペースなので、自己新記録が出るかもしれない……古代文字のところで少しつまづいたような気もするが
ギルドから出てすぐに走り出す。MPが回復していたので『そよ風』を連発し、それに加えそこらじゅうを『鑑定』しながら街の外へ繰り出すのであった