ゴブリンスタンピード 開始前
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◆Side:カイル(魔力茸くれた人)
「すごいプレイヤーの数だな。サービス開始直後みたいだ」
「あの時よりすごいわよ?初日は四方に散っていたけど、今は全員がこの東側に集まっているはずだし」
「まだ開始予想時刻の1時間前だぞ?もしかして、場所取りか?花見じゃあるまいし」
「何!?出遅れたってことか!」
「あ、そこは大丈夫なはずですよゴードンさん。我々トップクランの一軍パーティには〈アルファウィザード〉からお誘いがかかってますから」
そう言って、パーティメンバーのフィルが目的の場所まで案内してくれる
今日は第一回目のイベント、ゴブリンスタンピード当日だ。『ファスト』の東の森に生息しているゴブリン共が異常発生して街に侵攻してくるので、それを討ち倒すというものだ
でも第一回・第二回イベントはベータで情報が出ているので、簡単に対処できるだろう。そのかわりみんながみんなイベント上位報酬を狙っているので獲物の取り合いになるかもしれないけどね
そう考えているうちに目的地へと辿り着いた。すると、既にいた聖騎士のような鎧を身に纏った女性プレイヤーが声をかけてきた
「お、〈オルキヌス〉の一軍様も到着か」
「こんにちはフォンデュさん、今日はお互い頑張りましょう」
「他人行儀はよしてくれよカイル。お互いベータでやり合った仲だろ?」
「……わかったよフォンデュさん。それで、貴方達も彼らに呼ばれて?」
「ああ、気に食わん奴らだけどね。周りを見てごらんよ、錚々たる顔ぶれが揃ってるでしょ?」
そう言われて、彼女──チョコフォンデュさんに促されるままに周囲を見渡す
「これは……有名どころが勢揃いだな」
「〈アルファウィザード〉は勿論、〈Yo!Hey!我ら野蛮団〉に〈ビーストロード〉、〈竜殺の光剣〉に〈魔法同好会〉までいるさ。あとはあんたら〈オルキヌス〉と、私たち〈プラスアルファ〉だな」
「〈魔法同好会〉も呼ばれてるんだな。トップ戦闘クランで見当たらないのは、〈夜の死花〉と〈フグ刺しテッサ〉ぐらいか?」
「〈夜の死花〉はPKクランだし呼んでないんじゃない?〈フグ刺しテッサ〉は某配信者のリスナークランだ。あの子が現れたらイベントそっちのけでPKKしに行きかねないね」
「ああ……」
俺たちが雑談をしていると、1人のプレイヤーが前へと出てきた。彼は周囲を見渡して手を鳴らし、自分に注目が集まったことを確認して話を始めた
「今回は呼びかけに応じてくれて感謝する。私はクラン〈アルファウィザード〉のリーダー、デリックだ」
後ろ手に手を組み、魔法ジョブ用の白いローブをスーツのように着こなした長身の男性がそう声を発する。顔には眼鏡をかけており、いかにも優等生ですといったような風貌だ
「今回君たちを招集したのは、このイベントを最高評価で終わらせるためだ。ここに呼んだものの殆どが元ベータプレイヤーなので、大体予想はつくだろう」
ベータでのスタンピードを思い出す。あのときはボスが出現した時に全員がそこに集中して、雑魚の撃ち漏らしを出した結果衛兵NPCに対処させてしまったんだったね
そのせいで総合評価はB。イベント報酬が配布されたときに〈評価によってグレードが変化します〉の添え書きがあったから、みんなで後悔した思い出がある
「この中には平時いがみ合っている関係もあるだろう。だが、このイベント中は矛をおさめて協力してもらいたい。できれば、今後のPvEイベントでも同様の提案をさせてもらいたい。なにか質問はあるか?」
「すみません、質問いいでしょうか」
デリックが周囲に確認をすると、一人の糸目プレイヤーが手を挙げた
「クラン〈魔法同好会〉サブマスターのライス林です。質問というのは、私たちのクランがここにいていいのかというものです。皆様方はトップクランと呼ばれる方達ですが、私たちはただのエンジョイクランです。皆さんの足を引っ張ってしまいかねません」
そう質問したのは、今や時の人であり時のクランである〈魔法同好会〉だ
見ると、彼の後ろにいるパーティメンバーからも困惑したような雰囲気を感じる。………1人、クランマスターであるエルフの女性は、ただ腕を組んで目を瞑っていたが
デリックは林さんに冷めた目を向け、一瞬だけクランマスターを睨みつけてから質問に答えた
「なにをおっしゃる、貴方たちは我々とも引けを取らないクランだろう。数十人ものクランメンバーを従えて、今や最前線クランと言っても過言じゃない」
「いえ、それには事情が……」
「それに、貴方たちは大勢のプレイヤーから一目置かれるクランだ。そんな君たちを蔑ろにすれば、まるで私達が僻んでいるように見えてしまうでしょう?」
「む、むう………」
そう言われ、林さんは手を引っ込めてしまった
彼らのクラン〈魔法同好会〉は、魔法を楽しみたいというプレイヤーが集まったエンジョイクランだ。入会条件も「魔法を習得している、または習得する予定」という緩いものだった
ただ魔法志望プレイヤーの大半は、ベータで魔法が強いという情報を仕入れたトッププレイヤー希望者だ。魔法でエンジョイするプレイヤーは少なく、立ち上げ当初は身内でワイワイする予定だったらしい
それまでの魔法習得方法だと魔法と物理の両立ができるほどの時間的余裕はなかったので、魔法希望者は他のことを犠牲にして魔法習得に集中することになるはずだった
だが、彼ら自身の出した情報のせいでプレイヤーが簡単に魔法を手に入れられるようになってしまった
〈魔法同好会〉の入会条件を簡単に満たしたプレイヤー達は彼らに殺到した。すごい情報を仕入れたクランに入り、いち早く最新情報を手に入れようと言う魂胆だ
もちろんそんな下心のあるプレイヤーは弾かれたが、魔法エンジョイ人口は相対的に増加したため、すぐにクラン定員である50人に到達してしまったとか
「それで、他に質問のあるものは?」
「あー、俺から1ついいか?」
次に手を挙げたのは、体長2m越えの巨漢である。ほぼ上裸のムキムキで、背には巨大な戦斧を背負っている
あれは〈Yo!Hey!我ら野蛮団〉──通称〈傭兵団〉のボス、ザッパだ
「協力するのはまあわかった。そんで、誰が指揮を取るんだ?」
「もちろん、言い出しっぺの私が責任を持って全体の指揮をするつもりだ」
「フン!なら俺は降りるぜ。テメェの命令に従うなんざまっぴらゴメンだからな!!」
「いいだろう。協調性のないものがなあなあで居られてもこちらも困る。他に抜けたいものは?」
「そうじゃねぇよ!!俺が言いたいのはなんでテメェが仕切る前提で話が進んだんだってことだ!!」
ああ、また始まった……。このやりとりを見ている全員が俺と同じことを思ってるだろうな
彼ら2人、そして二つのクランは犬猿の仲でよく衝突している。なんでもお互いソリが合わないんだとか
ふと彼等が言い争っている影で、フォンデュさんが林さんに小声で話しかけているのが見えた
「大丈夫だったか林さん?嫌なことされたら私らにも相談してくれよ?あの仕切りたがり屋には私もウンザリしてたんだ」
「ハハハ……、問題ないですよ。目をつけられているのは私にも原因がありますし」
「原因つってもただの逆恨みだろ?なんせおたくのクラマスのジェイは───」
「だーかーらー!!なんでテメェが勝手に決めてんだって言ってんだよ!!!普通こういうのは多数決かなんかやるべきだろうが!!!」
「どうせ私がやることになるだろう。それはお前もわかっているだろ?時間の無駄だ、最初からこうする方がいい」
「そのテメェの態度がムカつくんだよ!!!」
「フッ、結局は気持ちの問題か。なら私以外の適任者を出したらどうだ?まさか、お前がやるつもりか?」
「ふむ、その役目、私が引き受けてもいいかね?」
2人の言い合いがヒートアップしてきたところに、それに待ったをかける人物がいた
戦闘用の装備をつけていない初老の男性が前に出てくる。皺の多いその顔からは、気難しい老人という雰囲気を感じる
「失礼、クラン〈パイオニア〉のマスター、ロウガンだ。埒が空かなそうだったため、でしゃばらせてもらったよ」
「ロウガンさん、貴方には声をかけてなかったはずだが……」
「それで、どうだねデリックくん?私は君より適任かね?」
「……ええ、貴方なら誰も文句は言わないでしょう」
デリックが苦虫を噛み潰したような顔で引き下がる。彼はベータでいろいろあったせいか、ロウガンさんには頭が上がらないんだよね
「ふむ、時間も少ないし手短に行こう。まず全員の認識の擦り合わせからだな。このイベントの発生理由は………」
「────おいおい、揃いも揃ってこんなとこで油売ってていいのか?」
「「「「「!!?!?」」」」」
いきなり何もないところから声がかけられる。そこに目を向ければ、黒い外套に身を包んだ人物が影から姿を現すところだった
「お前ら、目の前の敵に気を取られすぎじゃねぇか?」




