毒ガス放出
「それは……錬金釜?」
「『空調』『反動軽減』『アンチドート』」
釜からものすごい勢いで紫色の煙が溢れ出していく。持続性と釜の耐久を犠牲にして拡散力をマシマシにした
見た目の通り、毒の煙だ。中に入ると体力がゴリゴリ減ってくぞ?
俺自身は『生活魔法』の『空調』に、生産スキル共通アーツの『反動軽減』、『光魔法』の『アンチドート』も使っているため、この程度の毒ならほぼ無効化できている
「やば!HPがゴリっと削れた!こりゃ強行突破は無理そうだね……」
まあ同じ対策できたら意味ない小技だし、『風魔法』で簡単に散らせる。それ以前に釜を破壊されたら毒煙が消えてしまう
テトロにそんな手段ないけどな!『投擲』は……来るとわかっていれば弾けるし、弾けないくらい重いものは『ヘビーシャドウ』の影響で投げられないだろう。うん、問題ない
「『投擲』!」
「言ったそばからっ!?『インパクト』!」
釜に向かって飛んできた片手剣を間一髪で叩き落とす。危ねぇなおい
「位置は動いてないんだね。動かせないのかな?『投擲』投擲──ん?『投擲』、『投擲』……あれ?」
「『回し蹴り』!おやおや、随分調子が悪そうだなぁ?」
次々と飛んでくる武器を弾き落とす。小盾、槍、短剣、片手杖、ただの石、片手斧……どれも軽いものばかりだ
「なにこれ、クールタイム延長!?いつのまにこんなのを」
だが投げられる頻度は遅い。さきほどかけた『時空魔法』の『スロウ』のせいで、クールタイムが長くなっているからだ
「感覚狂うんですけど。『跳躍』、上から見てもなんもわかんない。『投擲』も防がれてるっぽいし……詰んだ?出てくるまで待つしかない?お前らなんか案出せ〜」
毒煙の周りをグルグルと回りながら対抗策を考え始めたようだ。だが無駄だ、半径5mほどの毒ゾーンにはどこにも抜け穴なんてない。錬金釜が壊れるまで何もできないだろう
……こちらも準備が整った。行くか
一回限りの初見殺し。ミスったら……2回目は通じないだろう
「『エンチャント・アクア』、『シャドウダイブ』」
「……『索敵』から消えた。ってことは」
「──『不意打ち』」
「そこっ!!」
足元からの奇襲をまた脚でパリィする気だろう。だが二度も同じ過ちはしない
「──『スタンガン』!!」
「い゛っ!!?」
「『カウンターフィスト』!!!」
「ぐふっ!?」
ほんの一瞬の硬直、驚愕の表情をしているテトロに『格闘』アーツを叩き込んだ
今の俺の手には、黒地に黄色の稲妻模様がついたグローブがはめられていた。煙の中で、[見習い錬金セット]の方を使って即席で作られた[雷雲手甲]だ
……品質の低くなる『錬金』でもスキルがつくように[雷雲花]を大量に使ったせいで、鍋つかみみたいなモッコモコになってしまったが
怯んだところにカウンターが刺さったことで短めの〈ダウン〉を取ることに成功した。これで奴は1秒は動けないはず。だがここで慢心しない!今のうちにHPを削り切るっ!!!
「…似合ってるよ、そのミトン」
「『フレアボム』、『クロスガード』」
「三連自傷攻撃で草──」
ボンッッ!!
超至近距離に出現した炎の塊が、間髪入れずに爆発する。今の俺が瞬時に出せる最大火力だ
トドメのセリフを言う余裕なんてない。このチャンスを掴めなかったら後はない
俺自身も巻き込まれるが、水属性付与と『格闘』の防御アーツで凌ぎ切る
ガードを解き、あいつがいた場所を見れば……
大量のアイテムが撒き散らされ、中心でポリゴン状態になっているテトロの姿があった
「っっっっしゃあ!!!勝ったぞぉぉぉぉ!!!!」
勝った、未来の最強プレイヤーに勝てた!!!
あの状態は〈戦闘不能〉だが、蘇生手段がないのですぐに〈死亡〉するだろう。流石にもう蘇生手段を手に入れている可能性はないだろ。俺でも無理だし
つまり、これ以上起き上がってくることはない。俺の勝ちだ!一度も勝てないどころか、レート帯が離れすぎてほとんど対戦したことないトッププレイヤー相手に、である
嬉しすぎて小躍りしてしまう。スクショ撮っとこ。アイテムは……放置でいいか。PKで取ったっぽい武器がほとんどだし
あ、テトロが使ってた短剣あるじゃん。これは持って帰ってハウスに飾ろう。記念としてな
しばらくして興奮も冷め、冷静になったところで異変に気づく
……なんか、周りに沢山いねぇ?
近くには全くいない。だけど、『索敵』に映るギリギリの遠さからぐるりと囲むように大量のプレイヤーの反応があった
しかも、ジリジリと近づいているようだ。ハイエナか?なんでこの場所が…………そういやあいつ、配信してたな
やば、先頭のやつが走り出した!全部で100人はいるぞ!?流石にこの量全員相手にするのは……
あ、転移すりゃいいじゃん。戦闘状態も終わってるし。よし、帰ろう
「さいなら〜。『リターンホーム』」




