姫プクランのマスター
▼▼
サービス開始四日目の朝。ゲーム内だと……六日目の夜かな?
昨日はちょっとしたトラブルがありながらも、無事に魔草の最高品質が完成した。魔力茸も途中までできている
最高品質は、品質、成長時間、収穫量などの全てのパラメータがマックスの状態だ。特に回復薬の材料となると、回復量の増加にクールタイムの減少などのメリットもマックスにしないと「最高品質」とは言えない
ぶっちゃけ成長時間と収穫量は『作製加速』もあるし妥協しても良かったが、やるならとことんやるべきだろう。なんか称号貰えたし。こんなのあったんだ
いやぁ、かなりの苦行だった。親の高パラメータ同士を引き継いだ個体が出るまで交配させて、さらにそこからパラメータが伸びるまで増やしていく。雄株・雌株があるタイプじゃなくてよかった……
苦労した分、完成したときの達成感もひとしおだ。これを魔力茸でもやるのか……自分で始めたことだけど、やめたくなってきた
さてと。今日はコオロギごっこをする予定だ。が、ずっと畑に篭ってたから、まずは身体を動かしたい
久しぶりに森の洞窟でも周回しようかな?実は、各ボスのレアドロップである属性結晶があるのだが、[光結晶]だけ手に入れてないのが心残りだったんだよな
他のはボス周回やらユニーク称号やらで入手しているが、[光結晶]はここらだとレアボスであるライトサーペントからしか出ないんだ
現状特に欲しいってわけでもないが、狩りの目的とするならこれくらいでいいだろ
▼
「この洞窟は我々〈ホーリープリンセス〉が独占しています!!」
「またお前らかよ!!」
「ここより効率のいい狩場は他にあるでしょう?」
「『光魔法』のこと知ってて言ってんの?お前ら魂胆見え見えなんだが」
「先行者が狩場を独占するのは特権でしょ?」
「通せんぼはただのマナー違反だけどな。やりたいなら狩り尽くすとかじゃないと」
「『光魔法』が欲しいなら、姫が広めてくれると言っているでしょう!何故待てないんです?忍耐力なさすぎでは?」
「今更すぎるわ。自分たちの手に負えなくなると思った途端それだよ」
森の洞窟の入り口に着くと、人で溢れかえっていた。どうやらまたバッドマナー君達が現れているようだ
「もうこいつら殺っちまわね?街の外だしカルマもそんな上がらんだろ」
「あいつら昨日もいた気がするんだけど、なんでBANされてないんだ?」
「なんでも、警告文が出たやつから交代してるらしい。ほら、人数少ないだろ?推しの為の自己犠牲のつもりなんだよ、くっだらねぇ」
「クランごとBANされちまえ」
教会の時よりもたむろしてる人の数が多い。こりゃ解決したとしても周回は無理そうだな。ちゃんとしたダンジョンならパーティごとにチャンネルが分かれるようになるが、ここはなんちゃってダンジョンだし
にしても、人垣ができるほどの人数ができているのに、誰も押し通ろうとする人はいないんだな。争いごとはしたくない……というより、人前で目立つような行ないはしたくないんだろう
ザ・日本人だな。そう考えるとあの通せんぼ君達は肝が座ってるな
入り口周りを大勢で取り囲みながらも、「お前が行けよ」的な雰囲気が漂い始めたその時、人混みを押し入って前へと躍り出てきたプレイヤーがいた
「あなたたち!なにをやってるんですか!!」
「こ、これは!!姫!?」
「すげぇ、生姫だ!!」
「俺、姫に話しかけられちゃった!」
「質問に答えてください!それから、あなた達に姫と呼ばれる筋合いはありません!!」
スラっと背が高く、聖職者のような装備を身に纏った女性が、通せんぼ君達を叱りつけている
あの装備、オーダーメイドか?ところどころの特徴から【僧侶】用の装備だと予想できる
【僧侶】はINT,MNDに補正があり、教会関係でのスキル取得がやりやすくなるジョブだ。彼女が姫と呼ばれている人なのだろう
「呼ばれ方を変えるのですね?これからはなんと呼べばいいんです?」
「都合のいいとこだけ抜き取らないでください!!まずは質問に答えてください!何を、してたんですか!?」
「姫──クランマスターが『光魔法』を教えてくれるということを広めていたんですよ。それなのにやつら、文句を言ってきて……」
「そうじゃないでしょう!?なぜこんなところに立ち塞がっているんですか!!?」
「もちろん、姫以外に『光魔法』の習得者を出さないためです!」
「このクランを設立する時、「ナンバーワンにはなれなくても、オンリーワンなクランになりたい」と言ってたじゃないですか!」
「優しいクラマスが『光魔法』を与えてくれると言っているのに、それ以外の方法で手に入れようとするなんて……」
「曲解しないでください!!他の方に迷惑がかかっているでしょう!!早くそこをどいてください」
ものすごい剣幕でクランメンバーだろう通せんぼ君達を追い払った姫さんは、こちらへ振り返るとぺこりと頭を下げた
「私のクランメンバーがすみませんでした!私は〈ホーリープリンセス〉クランマスターのフレイニです。お詫びとして、希望する方は私が『光魔法』の習得を手伝います!」
「姫に謝らせるなんて…!!」
「あなたたちのせいですよ!!?」
「へぇ、クラマスはまともっぽいな」
「狂信者の暴走に振り回される教祖、いや信仰対象?大変そうだな」
「あれマッチポンプじゃね?クラメンに問題起こさせて、クラマスが解決。それでいい人アピールしてんだろ」
「ああ、確かに。あいつが黒幕って可能性もあるのか」
どうやら解決したようだ。ゾロゾロと森の洞窟へと入っていく人もいれば、フレイニと名乗った女性から教わるために列を作る人もいる。俺は……せっかく来たし、一回だけボス倒そうかな
フレイニ……どっかで聞いたことあるような?未来の有名人かなんかかな
「渡りに船だったな。ライトサーペントの攻撃を避けながら『光魔法』を受け止めるとか無理ゲーだったし」
「絶対習得前に死ぬよな。レアボスを何回も引き当てないといけなくなってたのか……」
「そもそも俺、ダークサーペントも倒せてないからレアボス引けないし」
「あ、俺もだわ」
「俺も。てかここの奴らのほとんどはそうじゃね?」
「そのダークサーペントには『光魔法』が特効……振り出しに戻ってるな」
「そのために姫ちゃんから教わるんだろ。レアボス引く必要なくなるけど」
「いやダンジョンクリアしたら称号貰えるじゃん。しかもBP称号だぞ?それだけで『光魔法』取る理由になるだろ」
「それに、『闇魔法』も持ってれば『無魔法』も取れるしな」
「そうそ──え?マジで!?」
やべ、つい口挟んじゃった
みんなこっち見てる、どうしよ………あ、俺が「コオロギ」から教えてもらったってことにすればよくね?
「適当言ってるだけじゃね?『光魔法』持ってるやつってあそこの姫ちゃんしかいないんだろ?」
「お、俺も人から聞いただけだしなぁ」
「又聞き情報かよ」
「人っていっても、NPCだぞ?ボロい服来てタバコ吸ってた、胡散臭いおっさんだったが」
「おっさんはあんたやんけ。詐欺師NPCとかいるんじゃね?」
「ソウカモナー。騙されたのかもナー。結構な素材要求されたけど、騙し取られちゃったカー」
「待ってくれ!その情報詳しく聞かせてくれ!!」
───なんか来た




