タイムリープ?何をやろうか
「………ん……あれ……?」
意識が覚醒する。頭がふわふわして、その前の記憶が曖昧だ
俺は確か、変なクエストを受けて、それで…?意識が切れるのは状態異常やらクエストの演出やらでたまにあったが、こんな状態になったことはなかったはずだ
目の前には『スリープモード』の文字。だんだんと頭が冴えてくるこの感覚。これらから導き出される結論は──
「…え?寝落ち?」
ヘッドギアを外し、窓から外を見ると昼時だった。その風景に少し違和感を感じながらも、今の状態について考察し、落胆する
サービス終了日のため、徹夜で楽しみ続けていた…気がする。そこに意識がだんだん薄れるという演出が睡眠誘導となり、眠ってしまった…ということだろう
つまり、あの未知のクエストはもうできなくなっているだろう。事前告知してくれたら寝ることもなかったのに……いや、これは八つ当たりだろう
とりあえず時計を見て、どれくらい寝ていたか確認する
「12時だから、13時間か?流石に寝過ぎたわ。……ん?7月10日?」
今月は3月のはずだ。時計が壊れたか?違和感がふくれあがりつつも、スマホで正確な時間を確認する
「…あれ、俺のスマホこんなだったっけ?」
いつも使っているスマホではない。だがなぜか「これは自分のものだ」というはっきりした認識がある。思い出しそうで思い出せなくてモヤモヤする。どこで見たんだったか……
……そうだ。これは数年前にスマホを買い替える前まで使っていた、昔のスマホだ
違和感の正体がわかってきた。時計を見る。ほとんど新品だ。部屋を見渡す。どこか懐かしいと感じる。さっき見た窓から外を見る。奥に見えるはずの高層マンションがないし、手前の建物も少し古ぼけている
スマホの電話帳に、とある人物の電話番号があるのを発見し、試しにかけてみる
「もしもし──」
『お前と話すことはない!!2度とかけてくるな!!』
ブツッ!
すぐに切られたが、あの声はクソ叔父のもので間違いないだろう。──事故で死んだはずの
鏡を覗き込む。そこには小皺も白髪もない、肌も…少し荒れている、青年の顔があった
「タイムスリップ……身体が若い時のになってるから、タイムリープってやつ?」
タイムリープ。意識だけが過去に飛び、過去の自分の身体に乗り移るというものだ
頬をつねる。痛い。ついでに弾力がある。どうやら現実のようだ。「どうせならゲーム世界転生がよかったなぁ」などとこの不可思議な現象にいちゃもんをつけながらも、スマホで現在の西暦を確認する
「20◯◯年、元いた時代が20××年だからえーと…16年前か。俺は…19歳?あれ、18?」
俺はわくわくしていた。タイムリープしたからにはなにか面白いことをやるべきだろう
宝くじでも当てて億万長者になろうか?当たりくじがどれか知らないわ。未曾有の大災害でも予言しようか?いつ起こったか正確に覚えてないし、言ったところで信じてもらえないだろう
なら……ふと、俺はさっきまで寝ていたベッドを見た。16年前の俺は、なぜVR端末をつけていたのだろうか
ヘッドギアを装着し、スリープモードを解除する。するとそこには『AWR』のキャラクタークリエイト画面が表示された
思い出した。16年前の夏休み直前。つまり《アナザーワールド:レスト》のサービス開始直前である
ベータテスターには抽選落ちしたが、なんとか第一陣枠を勝ち取った俺は、この日にキャラクリをしてたのであろう
ならやることはただひとつだ
「俺以外が初心者のなかで、俺だけ玄人無双…!!」
俺はエンジョイ寄りとはいえ決闘鯖勢。もちろん全スキル・ジョブ・称号の取得条件は頭に入ってる…はず
決闘勢のほとんどは、対等な条件な上での勝敗を望むため、情報の秘匿などは一切なかった。それに、廃人の中の廃人達がやりだした『キャラビルドRTA』なんかも参考にすれば、俺以外のプレイヤー全員を相手にしても圧勝できるくらいの爆速成長ができるだろう
それに、俺がやることを的確に邪魔できる存在もいないため、エンドルートも選び放題だ。なんならプレイヤーをジェノサイドすることもできるだろう
阿鼻叫喚する有象無象を想像しながら、俺は気持ち悪い笑みを浮かべていた
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しばらく妄想にふけった後、冷静に考えたらそれが悪手以外のなにものでもないことに気づいた
そんなことやったら俺はチーター扱いだろう。GM報告されまくるだろうが、粘着でないのならば、PKも無差別殺戮も違反行為ではないため、俺はBANされない
そんなゲームに居続けるやつはいなくなる。そうなったら同じことの繰り返しになる
それに、俺がタイムリープした原因について考えてみよう。十中八九あのなんちゃらクエストってのが元凶だろう。あれは俺のところにだけ出てきたものなのか?他にもタイムリープ者はいるんじゃなかろうか?
俺の決闘鯖での順位は常に3ケタ台だった。ちなみに決闘鯖の人口は1000人いるかいないかである。お察しの通り、下から数えた方がはやい実力しか持っていなかった
数百人いる格上が1人でも来てるなら、俺なんか軽く捻られて終わりだ。清く正しく行動したとしても、そいつらがいればどっちみち俺だけTUEEE!はできないだろう
「はぁ……まあ、ゆっくりプレイするか…」
それでも俺ツエーの未練はあるため、プレイはするつもりだ。器用貧乏ビルドにして自制することにしようかな
そして俺は、何日か先に開始されるゲームに備え、キャラクタークリエイトを始めた