ファイアボール(拳)
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──カコーン、カコーン
「ぃよさぁ〜くはぁ〜木ぃを〜切ぃ〜、あっ壊れた」
ボロボロになったオノを錬金釜に投入、魔石を3つ入れて『錬金』し、修繕する
──ボフンッ!!!
「………………」
無言で鉄インゴットと木材を取り出し、新しいオノを『錬金』で作り出す
なんてことはない。魔石をケチったせいで失敗し、オノごとなくなっただけだ。損失はそこまで大きくはない。いきなりくると腹立つけど
現在、西の森林にて伐採中だ。『伐採』スキルがないので成果は芳しくない。でもなあ、序盤に採取系スキル取るの勿体無くかんじるんだよなあ
似たようなことをさっきも聞いたって?キノセイダヨ
取れるものはほとんどが木片と木材でたまに樹液。まあ伐採には採掘の鉄鉱石枠みたいなのはなく、木自体の伐採難易度でわかれてるので、同じ木材でもレア度はバラバラだ
「……俺はなんで木を切ってんだっけ?」
しばらく伐採はやらないことにする。どうしても木材系が欲しい時はマーケットを漁ってみればいいだろう
そこら辺にいたジャイアントアントを蹴り飛ばしつつ、西森林のボス、ウィンドマンティスの元へと向かった
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「お?こっちは人が少ない、というか全然いないな」
ボスエリア前に到着したが、岩亀のところと違って閑散としていた。みんな虫さんニガテなのかな?これからうんと出てくるから覚悟しといたほうがいいぞ?
まあここのボスが無駄に強いってのもあるか
遠距離物理と遠距離魔法をバカスカ撃ってくるし、AGIも高いから攻撃がなかなか当たらないというとんでもないやつだ(ブーメラン)
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ボスエリアはアクアエイプのところと同じように、森にぽっかりと開けた場所だ
正面の木が動き、幹の一部が分離して地面に降り立った
それは木ではなく、巨大な虫だった。枯草色の体表に緑の紋様をもち、前脚の鎌を折り畳んでこちらを見ている
「キチチチチ……」
擬態を解いたそれの名前は、この西森林のボス、ウィンドマンティスだ
「『身体強化』『ファイアブレス』『ウィンドブレス』『ライトブレス』!『エンチャント・ファイア』!!」
自己バフを盛りまくる。ちなみにブレス系魔法はそれぞれ、火がSTR、水がDEX、風がAGI、土がVIT、光がINT、闇がMNDだ
「『ターゲット』!ファイアァボォォル!!!」
『無魔法』Lv.3アーツ、狙った対象に魔法が少しホーミングする『ターゲット』を使い、『ファイアスフィア』を放つ
「キチチッ!!」
「まだまだぁ!ファイアァボォォル!!!」
風属性であり、虫カテゴリーの魔物なのも相まって、火属性の攻撃がバツグンに通る。今度は『ファイアアロー』をぶっ放す。もはやボールですらない
「キィッ!!」
「今更遅ぇよ、今度は本当の『ファイアァァァボォォォル』!!!!!」
カマキリは翅を広げ、鎌足を振り回して斬撃を飛ばしてくる。しかもそれに似た見た目の魔法の『ウィンドカッター』まで撃ってくる。これ、『風魔法』のLv.10アーツだから当たったらかなり痛い
多分、「見た目が似てるから」って理由だけでこんな技持たされてるんだろうけど、そのせいもあって最初のボスの中で一番強いとか言われてたりする
もちろん俺には当たらない。AGIバフの後押しもあり、急激に距離を詰める
「ギィィッ!!」
「遅ぇ!!トドメだ!!ファイアァァァボォォル!!!!!!!!」
カマキリもそのAGIで距離を取ろうとするが、俺の方が速い。簡単に追いつき、火属性の付与された拳で『格闘』Lv.7アーツの『スマッシュ』を振り抜く
「ギイイ──」
「フッ、同志よ見ているか?ファイアボールだけでボスを打ち破ってみせたぞ」
あの時俺を擁護してくれたファイアボール君(仮称)を勝手に仲間認定し、その拳を天高く突き上げた
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ボスエリアから出たが、やはりというか誰もいない。これは、朝までボス周回コースもありか?
ゲーム内で明日の朝解放されるだろう新エリアに朝イチで行ってみるのも悪くないかもな
プレイヤーがいないならタバコも解禁できるな。カマキリにはもう少しサンドバッグになってもらうとしよう
───ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ
「のわああああ!!!?死ぬううううう!!!??」
「ちょ、男子2人!あれなんとかしろってっ!!」
「いや無理だって姉ちゃん!?ていうか元はといえば姉ちゃんがハチミツ欲しいなんて言うからぁ!!」
「てかあれスズメバチ!!名前はビーだけど見た目絶対ホーネット!!あいつらは蜂蜜作らない!!!」
「うるさい!知ってるんだったら最初から言え拓──「卓上ボール盤」!!あんた名前変なのよ!!!」
「いやいや名前ならあっちの「マミムメモ」のが変だから!!!」
「こっちに飛び火した!?いやそんなこと言ってる場合じゃないって!俺たち今トレイン中なんだぞ!?大人しく死んだ方がいいって!!!」
「嫌!!あの虫の大群に集られるのはぜーったいにイヤッッッ!!!」
「わかるけどっ!!!ネットに晒される方が!!もっとやばいって!!!」
「「「「「「ギギギギギギッ」」」」」」
「「「ぎゃぁぁあああ!!!??!?」」」
───見なかったことにしていい?




