爆弾情報ってか?
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プレイヤー名「カノン」。彼には多くの二つ名があった
「爆弾魔」「爆弾職人」「爆音の震源地」「クレーター」「聖都の悲劇」「成長した男の娘」etc. ……
その正体は、爆弾に魅入られ、爆弾を異常なほどに極めた男だ。彼の火薬配合は奇跡的で、なぜそうなるのか説明されても全く理解できないものだ
研究成果のレシピが度々公開されるが、秘伝のスパイスかと思うほど調合比率が難しく、『決闘鯖』の住人はカノン自身に作成を依頼することになる
そんな彼自身も決闘勢だ。ランクは200位台と、上位ではあるがそこまで強かったわけじゃなかった
が、彼の戦績を語る上で1番重要なのは「イベント」だろう
『決闘鯖』では常時「闘技大会」のイベントが開かれているが、それとは別に1週間ごとに本編に出てくるイベントが開催されていた
そこで猛威をふるっていたのがカノンだ
スタンピードを爆破、敵の親玉がいる場所も爆破。バトロワで自分ごと爆破したり、戦争イベントで相手の陣地を爆破。ついでに自分達の拠点も爆破。持ち物制限のあるイベントでも、現地の素材から爆弾を作り出し爆破爆破爆破。とにかく爆破しまくっていた
『公式鯖』にもたまに出現しては暴れ回っていたらしく、威力を確かめるためにフィールドに大量の爆弾を仕掛け、プレイヤーもろとも吹っ飛ばすなんて日常茶飯事だったりする
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そんな未来の無差別殺戮者が、嬉しそうな声を漏らす
「ふふふ、よかった。その言い方だと、このゲームにも火薬あるんだね?もしなかったら、やめちゃおうと思ってたから」
「そ、そうか。随分とご機嫌だな」
「ふふふ、それで、教えたよ?今度は、そっちの番。火薬がどこにあるか、知ってる?できたら、レシピなんかあったりしたら、嬉しいな」
……さて、彼に教えていいものだろうか?俺が教えなくても遅かれ早かれ知るだろうが、被害が早まらないか?まだ初心者だらけの状態でフィールド爆破なんてやられたら……
だが、彼も一プレイヤーだ。そんな理由で特別扱いなんてしてたらキリがないだろう。それに彼が爆弾を使ってるのを見て、FPS畑からも人が来るかもしれない
よし、教えるとしよう。せめてもの抵抗で1番弱い火薬にするけどね
「火薬のレシピってんなら、そんな組織探さなくても俺が知ってるぜ?」
「ほんと?よかった。それで、いくらで売ってくれる?」
「金じゃねぇ、俺が言うアイテムを持ってきな。[やけど草]と[火打石]、それと[木炭]。5時間以内にこれを100個ずつだ。[木炭]の木はなんでもいいぞ」
「へぇ、[火打石]、聞いたことない素材だな。この名前のラインナップからして、もしかして、火薬の素材?」
「ご名答。[火打石]なら南の山で採掘できるぜ」
「おっけー、わかった。持ってくるね」
そういうと、来た時と同じようにゆらゆらとでかけていった
「……ふぅ」
災厄を解き放った気がしないでもないが、彼が引き起こす災害を見てみたくもある。パンドラの箱ってやつか?
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「持ってきたよ」
「はっや!?」
やべ、びっくりして素で反応してしまった。いやいや早すぎないか?1時間どころか30分しか経ってないんだが??
マーケットで金に糸目をつけずに買いまくったらこれくらいになりそうだが、どんだけ火薬欲しかったんだよ……
「これで、火薬のレシピ、教えてもらえる?」
「あ、あぁ。実演するからよーく見てな?」
素材を受け取り、調合セットと錬金セットを使ってクラフトしていく
「へぇ、『錬金』も使うんだ、これは盲点。理由は、『調合』だと[火打石]を砕けない、から?」
「その通りだ。鉱石系を粉末に加工するには専用の施設か、『錬金』が必要だな。施設は王都に行けば手に入るが、自分の家を持ってないと設置できないぞ」
「ハウスが必要、と。そして、ここじゃ買えないから、『錬金』で補う?」
「そういう認識であってるな。ほれ、できたぞ。こいつはプレゼントだ」
できた[初級火薬]で[原始的な手榴弾]を五つほど作り、カノンに渡す。射出用のボウガンもオマケだ
「わあ!情報だけと思ってた、ありがとう。私【錬金術師】じゃないから、すぐ試せるの、うれしい」
「改良は自力で頑張りな。最初は無難に火属性の素材で作るのがいいぞ。まあ、『錬金』がないんならしばらくはお預けだがな」
「大丈夫。転職してくる」
……さすがは未来の決闘勢。既にジョブレベルを20まで上げていたようだ
「ありがとう、情報屋さん。わたしは「カノン」、大砲って意味なんだ。それじゃ、またどこかで」
「あぁ、俺はコオロ──って行くのも早ぁ!?」
気づいた時には視界の遠くに行っていた。おそらくさっそく試しに行ったのだろう
そのせいで俺のセリフを言えなかった。いや、逆に俺の心が助かったか?
とはいえ、これでやっと第一転職者が出るだろう。全体アナウンスで確認したら、俺も転職することにしよう




