新しいお客さん
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おはようございます。今日もいい日になりそうですね。皆さんよく眠れましたか?俺は全然眠れなかったよちくしょう!
昨日ベッドに入ったあと、その日1日にやった恥ずかしい言動が次から次へとフィードバックしてきやがった。忘却の魔法とか使えませんかね?
はぁ……。とりあえず、近くのコンビニで朝食を買ったら、ゲームを再開することにしよう
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「魔法が──」
「徘徊ボス──」
「次の街──」
「右脇法──」
道行く人の会話の中に、『AWR』の内容だと思われるものがちらほらと聞こえる。昨日がサービス開始だし、大いに賑わっているようだ
コンビニに入り、朝食を決める。といっても全てが16年前の商品。懐かしさでなかなか決まらない
あ、この漫画今年からだったんだ。こっちのカードは未来でプレミアついてるやつじゃん。この広告の映画、めちゃくちゃMAD作られてたあれか?あのシリーズ好きなんだよな、元ネタを劇場で観に行こうかな〜
「──剣』!私の『杖』もレベル上げたら『魔法杖』になるのかな〜?」
「ちょっと絵里!声が大きいわよ」
おっと、俺の他にも客がいるようだ。そっちを見れば、高校生ぐらいの女の子が2人。片方は俺がいた高校のジャージを着てるし、後輩ってことかな?……なんでこの時間にコンビニにジャージ?
他人の会話に聞き耳を立てる趣味はないが、『AWR』用語を俺の耳が勝手に拾ってしまう。こういうのなんていうんだったか……カクテルパーティー効果だっけ?
変質者のおっさん(身体は18歳)と思われたくないので、適当に朝食を選んで退散することにした
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ログインする。ゲーム内では2日目の夕方になったところだった。この時間ならNPCごっこやるほうがいいかな?
路地裏に移動し、「コオロギ」アバターで再ログイン。全回復してるMPがもったいないので『ファイアボール』『アクアボール』『ウィンドボール』『アースボール』を浮かべる
え?なんで『火魔法』を持ってるのかって?
いや〜ファイアリザード君は強敵でしたね。物理攻撃力が高く、当たってたら体力が消し飛んでたかもしらないな。しかも体力が半分を切ったら火を纏い始めて、〈火傷〉の状態異常にしてこようとするから厄介だったね
特に尻尾の先に火がついたときは別の意味で危なかった。たしかに進化していくとドラゴンになるけど、ボスは『テイム』できないんだよ
とか思ってたら激レアドロップのはずの[火蜥蜴の卵]まで落としやがった。名前の後ろに(食用)がないので、ご丁寧に有精卵だ。あ、卵産んだってことはリザード君じゃなくてリザードちゃん?
閑話休題。路地裏に腰を下ろし、生産セットを広げる
今日は『錬金』を中心にあげようかな?作ったアイテムを素材に戻して、またアイテムに加工して……というレベリング方法だ。触媒に魔石が消費されるため、無限に続けられるってわけじゃないが
タバコに火をつけ、プレイヤーが通るのを待つ。レベリングをしながら全体アナウンスのログを確認し、進行状況の把握も同時に行う
お、残りのボスも攻略されてるじゃん!しかもロックタートルの討伐者には見覚えのある名前が見える。「サチ」に「エリ」、そして「ジェイ」だな
……そこ知り合いだったのか。後は知らない人だ。「ライス林」と「トンモーバ」、なかなか個性的な名前だな
とはいえ、4体のボスが倒されたからこれで明日には次の街への道が解禁されるな。そうしたら『時空魔法』のレベリングに取り掛かれる
にしても、まだ転職したプレイヤーはいないのか?徹夜したガチ勢ならとっくにLv.20行ってると思ったんだが……2つのジョブ伸ばすのに注力してるのか?
たしかに新しいジョブを取ると、1個目のジョブより経験値を多く要求される。それくらいなら1つのメインジョブを極めて、ステータス補正を伸ばすことを優先するって選択もわかるが……
ああ、『無魔法』の凄さをまだ知らないだけか。これも教えないとな
「──っての、知らない?」
「俺に話しかけてもなんも面白いことねぇよ。他をあたりな」
「そこをどうにかさ、じつは知ってたり、しない?」
「俺に話しかけてもなんも面白いことねぇよ。他をあたりな」
「さっきから、同じことしか言わない人ばっか。アウトローなら、ワンチャンあると思ったのに」
お、プレイヤーきた!しかも浮浪者NPCに声をかけて、何かを探っている様子?助言チャンスだ!!
声のする方を見ると、1人の青年?女性?がフラフラと歩いていた。種族はハーフエルフ。装備は、手ぶら?【格闘家】だろうか。だがナックルガードのようなものは付けていないな。装備をインベントリにしまってるのか?
とりあえず声をかけてみよう。あの様子だと何もしなくても俺にも話しかけてくるだろうが、こっちから声をかける練習も必要だし
「そこのにいちゃん、探し物かい?」
「お、わたしのことかな?そうだよ、探し物、というか、場所?裏の薬師ギルド、いや、闇の薬師ギルド?薬師ギルドの裏の顔?みたいな、そんなかんじの組織、知らない?」
「こりゃとんでもないのが来たな……」
眠たげな雰囲気を出す男は、中性的な声でそんなことを尋ねてきた。その口ぶりからして確証は持ててないっぽい、というか十中八九当てずっぽうだろう
「う〜む、似たようなとこはあるにはあるが……そんなとこ探してどうすんだ?やべぇ毒薬でも作る気か?」
「ううん、もっと素敵なもの。この世界にあるかわかんないけど、探してるの」
「ほう?なに探してんのか教えてくれねぇか?こう見えて俺は結構物知りでな。俺の知ってる情報なら売ってやるぜ?」
よし、俺の想定する会話の流れに入った。これでゲームにあるものだったなら条件を提示して情報を売り、ないなら諦めてもらおう
だが何故だろう、彼と話してるとどうも緊張する。それにどこかであったような……?
「へぇ、情報屋さんなんだ。いいよ、教えたげる。わたしが作りたいのはね、「火薬」っていうものなんだ。知ってる?」
「火薬ぅ?にいちゃん銃でもつくる気かい?」
「銃もいいけど、私が作りたいのは、もっと単純なものだよ?」
眠たげな雰囲気に独特な喋り方、そして火薬……ああ、思い出した
「ふふふ、私が作りたいのは、爆弾。人も魔物も、みんな吹っ飛ばせるくらい、すごいのがいいな」
───爆弾魔カノン
未来の最凶プレイヤーキラーが、俺の目の前に立っていた




