間話 改変
◇side:????
そこは、人が住むにはあまりにも適さない地であった
大地は荒れ、捻れた木がところどころに生える
空には暗雲が立ち込め、時おり黒雷がけたたましく鳴り響く
地を割いて異形の魔物が顔を出し、身の毛もよだつ叫び声を上げる
まさに地獄の様相を呈していた
……………身も蓋もないことを言ってしまえば、そこはコッテコテのステレオタイプな「ザ・魔界」であった
そんな「ザ・魔界」の一角に、これまた「ザ・魔王城」なイカつい城が建っており、その周囲には城下街が広がっていた
……いや、街というには少し不自然だが
その街の建物は全て「貴族の館」と形容される豪邸しか建っておらず、いわゆる「民家」と呼ばれる小さな家は一つとしてない
それだけでない。商店などの街に必要な最低限のインフラも、道を行き交う人影すらも、何もかもが足りない
ただ「住む」ためだけに存在する。そう言っているかのような不気味すぎる街並みであった
そんな街の館の一つ
豪華な絨毯を裏返すと現れる隠し扉の下………はフェイクであり、食卓の上に置かれている小さな化粧鏡の中に空間移動………するだけでは足らず、その化粧鏡に映り込む銀製食器にさらに映る風景の中に入り込み、そこから絨毯裏の隠し扉を………
と、幾重にも偽装が施された極秘の空間があった
その部屋に、怪しい影が集まっていた
「ナビスがやられたようね…」
「フフフ…奴は四天王の中でも最弱…」
「人間ごときに負けるとは、悪魔の面汚しよ…」
「……なあ、四天王ってなんだ?下っ端をひっくるめてそう呼ぶのか?」
「………ドレッド」
「つーか、なんで照明つけねぇんだ?暗いとやりづらくねぇか?」
「ドレッド、あれは「お決まり」というものなのだ。そっとしておいてやれ」
「おお?そうなのか?よくわからんが、大事なことなんだな。すまんかった」
「………なんだか心が痛くなったから、おふざけはこれくらいにしときましょ?」
「……うん、そうだね」
「おお?」
明かりひとつない薄暗い部屋に、複数人のシルエットが浮かび上がる
久方ぶりに顔を合わせた彼らは、挨拶がわりに仲間がやられたときの鉄板ネタをし、馬鹿らしくなってとっとと本題に入った
「あいつ、ガチで人間なんかに負けたのかよ。面汚しすぎんだろ」
「あまり人間を侮るな。………と、言いたいところだが、今回はナビスが侮りすぎていたな」
「それで、ナビスちゃんは大丈夫なのかしら?」
「うん、会ってきたよ。やっぱり監獄で復活してたね。でも、復帰には時間がかかりそうだよ。脱獄に、加護の回復、呪いの解除も必要だからね」
「ケッ!役立たずが。クソの役にも立たねぇくせに面倒だけ増やしやがって」
「そんなに言わないであげなさいよ。ただでさえあの子は、「ケストーダ」に丸呑みにされてるんだから」
「フン、それだって他にもやりようはあっただろうが」
「しょうがないじゃない!あの子は呪い返しのせいで、視聴覚の喪失、魔力回路の損耗、それに思考力の低下までしていたのよ?」
「あぁ?そこじゃねぇだろ!」
「うむ、それ以前の問題だ。やつは独断で行動しすぎた。ナルコ、お前は部下に甘すぎる」
「む〜〜、可愛くないわねぇ」
「なんだ?喧嘩はよくねぇぞ?」
そして、なぜか明かりはつけられないまま会議は始まった。彼らの目は、この程度の暗闇はなにも問題ないのだ
問題ないけどどちらかといえば明るいほうがいいのだが。でも暗いほうが雰囲気が出るので、そのまま進行していた
「ナビスの失態による我々全体への被害は、そこまで問題にはならない」
「ああそうだよ、俺様が問題になんねぇようにしてやってんだからな」
「苦労をかける。そして、問題は別にもある。ナビス以外にも、行方がわからない同志が何人かいるだろう」
「多分、勝手に人間界に渡航しちゃってるね」
「ああ、我々悪魔の弱点だな。我々は個々人の能力が高いゆえに、個人主義になりがちだ」
「でも、私たちは仲間想いなほうじゃないかしら?」
「根っこの部分の問題だ。たしかに我々は悪魔の中でも仲間想いな者の集まりだが、どうあっても結局は悪魔なのだ」
「根っこの部分…………悪魔だけに?」
「ふふ、上手いこと言うじゃない」
「茶化すな、阿呆共。それで、やつらの暴走を止めなければ、今まで何百年と準備してきたことが全て水の泡となるだろう」
「ダリィなぁ…。しかしよぉ、また異邦人が湧いてんだろ?俺らも焦ったほうがいいんじゃねぇか?」
「しかも今回は万単位!それにまだまだどんどん増えてくる!やだよねぇ、みんなスランバーみたいな子だったらいいけど」
「異邦人?俺あいつら好きじゃねぇな」
「だからこそだ。我々は毎回、異邦人に辛酸を舐めさせられている。だからこそ、慎重にならねばならん」
「しんちょうにならねばならん!!」
「大胆に行動しすぎよねぇ。私たちはあの弱点が伝わっていたら、人間界じゃ一巻の終わりなのに」
「それに関しては、今日まで徹底的に伝承を潰してきたからな。………だとしても、確実とは言えまい」
「相手は異邦人だからな。だからこそ、初動で潰しておきたいって考えてんだろ」
「だとしても報告は入れて欲しいよね」
「うむ、潰すとしたら徹底的に、だ。足並みは揃えねばならん。ダチュ、同志達の回収を頼めるか?」
「たのめるか?!」
「え〜?やだよ。イブキかレミにやらせるよ」
「その辺りの采配はお前に任せる」
「まかせる!!」
「意思統一とダチュに仕事押し付けただけじゃねぇか。わざわざ集まる必要なかっただろ」
「お?俺は久しぶりに集まれて嬉しかったぞ?」
「おめぇは黙ってろデカブツ」
「ちょっと、ドレッドになんてこと言うのよ」
「待て、わざわざ集めた理由は他にもある。少し気になることがあってな」
「あってな!!」
「気になること?なにかしら。でもその前に………しれっと混ざってたこの子をどうにかしないとね」
「わー!!バレた!!」
気づけば、部屋にいる影が一つ増えていた
薄暗い部屋でも爛々と光るぱっちりとした目
わざとらしくハキハキしすぎた耳障りな喋り
ゴブリンほどしかない小さな体躯
悪魔の少女、リリー……………ではない
リリーの姿に扮した、得体の知れないナニカだ
「もぉ、ダメじゃないか。君は一応敵陣営なんだよ?」
「そうだった!うっかりうっかり!」
「おいおい、どっから紛れ込んできたんだ?このチビ」
「久しぶりねリリー、マリーは元気?」
「まだねてる!!」
「そう。すぐに起きられるようになるわよ」
「リリー?しばらく見ねぇ間に随分雰囲気が変わったな。最初誰かわからんかったぞ」
「阿呆が。袂を分かったとはいえ同胞のことを忘れるやつがあるか」
ここにいる全員、コレが別人であることに気づけない
たとえ神だったとしても、この世界の存在というだけで、ヤツの正体を暴くことは絶対に不可能となっている
気づかない。気づけない
多少の違和感を覚えることはあっても、決定的な確信までには至れない
仲間を殺し、成り代わった異物を、受け入れてしまう
あまりにも疎ましい
「おい、そいつさっさと摘み出せ」
「そうねぇ。アナタ、ここにいちゃダメでしょ?」
「えー?!なんで?!ワタシもいたい!!」
「相変わらず無邪気ねぇ、でもダメなの。わかってね?」
「やだ!!」
「もうおしまい。それじゃあ、ごめんね?」
部屋にいた影の一つが、偽リリーを見つめながら、パチリと片目を閉じる
すると、偽リリーの首と胴体が泣き別れをした
この世界にはステータスというものがあって、現実とは死にやすさが違う。だが、それでも普通、首を刎ねられたら〈即死〉する
一部の魔物には首を切られても再生するものなどもいるが、リリーにはそんな能力はない
本物の、リリーには
「なんてこった!!」「くびきられちゃった!!」
「もぅ、これがあるのよねぇ……」
偽リリーの刎ねられた首から胴体が生え、胴体からは首が生えた
2体に分裂したのだ
「厄介な固有能力持ってんだったな、そういえば。あとそっちは服着ろ」
「わすれてた!えっち!」
「困ったわねぇ、殺して送り返そうと思ってたのに」
「こらこら、自分で自分の首を刎ねないの。増えるな増えるな」
「よろこばしいのう!」「はらだたしい!」「かなしいほどよわい!」「たのしいのう!」
「この際こいつに[隷属の首輪]着けちまわねぇか?」
「あら、いいかもしれないわね。こっちに引き入れちゃいましょ」
「待て、いくら敵とはいえ同胞の首にあんなものを着ける気か?」
「かわいそうだけど、この子のためにもなるのよ?」
「ワタシそれきかないよ!!」
「……あら、そうだったわね。うっかりしてたわ」
「……俺様もすっかり忘れて提案しちまってたぜ」
「……俺としたことが、なぜ気づいて訂正できなかったんだ」
「……この子の固有能力、本当に厄介だよねぇ」
「お?なんで首輪が効かねぇんだ?」
「阿呆が。同胞の能力を忘れるとは何事だ」
「でもよぉ、リリーの固有能力にそんな力あったか?」
「能力の応用だ。首輪の原理は呪いだから、つまり…………つ、つま、り……………」
「ワタシきかないよ!!」
「……つまり、能力を応用して無効化しているのだ。少しは頭を働かせろ」
「おお?まだよくわかんねぇぞ?」
「きかない!!!」
「……おお、そうだった。そんなこともできるんだな」
リリーに[隷属の首輪]を無効化する能力は存在しない
しかし今、彼らの脳内では「存在しない」が「存在する」に書き変わってしまっていた
細かな食い違いは、彼ら自身の脳内で自動的に辻褄合わせを行なってしまう
「どうしましょうねぇ、自分で帰ってもらわないといけないわねぇ」
「わかった!!かえる!!」
「あら、気は済んだの?」
「このまま帰しちまって大丈夫か?この場所知られちまってんだぞ?」
「まーいーんじゃない?告げ口とかする子じゃないでしょ」
「どうにかしようにもどうにもならないもの。ってもういないし」
「本当に厄介な能力だな。………さて、話を戻そう」
いつのまにか忽然と姿を消した偽リリー
説明のつかない現象も、「能力によるもの」と解釈し、気にも留めないNPC
日常の一風景とでも言わんばかりに、異物を異物と認識しない
「あぁ、気になることがあんだってな?」
「そうだ。結論から言うと………「伯爵」に警戒が向いた」
「へぇ………面白いことになってきたじゃん」
イレギュラーに荒らされたが、ゲームは予定通りの進行をしようと舵を戻す
今のところは、とある既プレイヤーの思惑通りに事が運んでいた




