あのときの石ころ
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2日後
ゲーム内では5日後
昨日は一昨日実践しなかった、悪魔の破壊工作の処理をプレイヤーに委託するっていうコオロギクエストのリトライをしようとしてみた
だけど、その破壊工作が残ってるかを確認してみたら、もうほとんどが対処済みだったのだ
違和感に気づいた誰か、熱心な誰かが、既にストーリー攻略をしてくれていたのだろう
まあ、第二陣も合わせて10万人近くいるはずだからな。この狭いチュートリアルの国にそんな大人数が詰め込まれたら、ストーリーを重視してくれるプレイヤーの1人や2人はいるだろうさ
まだ過疎った未来とは遠い状況か……
残りの処理をプレイヤーを誘導してやらせるにも、コオロギで言うにしては微妙な内容量だな
なので、これは俺がサクッと処理しておいた
…………後々考えて、「これ他プレイヤーのために残しといたほうがよかったかも……?」とちょっと後悔
そして、その翌日の今日
今日は精霊門イベント最終日、納品の締切日だ
この日までに、納品された建材ポイントの総合が一定値を上回らないとイベント失敗となり、またの機会に……となる
が、チュートリアル中の精霊門イベントは失敗することはない。プレイヤーが何もしなくてもポイントは一定値に達する
町の住人も納品に参加してくれてるからな
納品場所は、各街の冒険者ギルドに[精霊の使者]って精霊NPCが出現するから、そいつに渡せばいい
プライベート空間に飛んでもいるから混雑する心配はないぞ
俺はこれまで手に入れてきた欠片と資材を全部持ち、冒険者ギルドに入る
受付カウンターの並ぶ場所の端っこに、全身真っ白でうっすら光っている、ポンチョを着た男の子みたいなシルエットの存在が浮いていた。いろんな意味で
あれが[精霊の使者]だな。てるてる坊主みたい
その隣に、人間の背丈ほどの高さがあるボードも浮かんでいた
そこには、現在の納品ポイント上位1〜10位のプレイヤーの名前と、所持ポイントが表示されている
その下に、俺の順位とポイントもあった。当然0ポイントだな
興味本位でランキングを覗いてみたら、一位に知ってる名前があった
以前、俺が[魔鉄]の入手方法を教えてやった、「ザッパ」って大男アバターのプレイヤーだ
ポイントは60万………めちゃくちゃやり込んでるなぁ
たしかにストーンゴーレム周回に適したビルドしてそうだったし、そうもなるか
ちなみに、俺が持っている欠片とかを全部納品した結果、120位くらいの順位になった
思ったよりかなり高いな………俺の総ポイントは10万とちょっとだから、1,000位くらいになると思ってたのに
レシピ発見とかに苦戦してるのかな?
いや、もしかしたら………ギリギリまで納品をしないでいる?
なんかネットオークションの駆け引きみたいに、ライバルに情報を与えないように?
うーむ、これもMMO要素なのか………
ま、そんな気にしなくてもいいか。こっから勝手に上がることはないし
100位以下なのは確定してるので、既プレイ勢なのに上位を取っちゃう罪悪感も、まあそんなにないでしょう
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数時間後、イベント終了
イベント報酬が添付された通知と、「『セカン』に精霊門が出現した」というアナウンスが流れた
俺の順位は、最終的に200位台におさまった
………おかしいな、思ったより下がらなかった。やっぱみんなポイント集めに苦戦してたのかな……コオロギでイベント情報リークとかした方がよかったのかな……?
まあ、イベントをあまり重視してない可能性もあるか。俺だって、[精霊門の欠片・卵]が出るまでは捨てにするつもりだったし
イベント上位報酬で、スキルオーブも出た
これもまたいつか、『呪い』のスキルオーブと一緒に売りに出そう。逆ぼったくり価格でな
「よし、行くか」
レベリングにキリがついたので、前々から準備していたものを持って『セカン』に飛ぶ
そこで、出現した精霊門へ向かう。場所は噴水広場の近く、元々空き地になっていた場所だ
……が、やはりというべきか大量のプレイヤーでごった返しているな
さて、どうやって辿り着こうか
「…………お?飛べるじゃん」
ちょっと困っていたら、〈プライベートエリアへ移動しますか?〉ってメッセージが来た
そりゃそうだよな、『公式鯖』ならあって当然だよな混雑防止のプライベートエリア
………じゃあなんでこんなに混雑してるんだ…??
プライベートエリアに飛ぶ。すると、俺以外のプレイヤーが全員消滅した。………いや、消えたのは俺の方か
そしてそこは、目の前に精霊門があるだけでなにもない空間が広がっていた
「門」と言っても、扉はない。アーチの形すら成していない
[精霊門の資材]で見た、小瓶やらこけしやら花飾りなんかでできた、なんともスピリチュアルでミステリアスな謎のリング……ミステリーサークルっぽいなにかであった
門って言うけど転移用魔法陣みたいな使い方するぞ
この地面にある輪っかを、小物を蹴飛ばさないように気をつけながら跨いで内側に入る
するとどこからともなく、なんかエコーのかかった荘厳な声が響いてきた
『来訪者……異邦人よ』
「はい、異邦人で〜す」
『この世界に順応し、その証を示せ。さすれば道は開かれん』
「へいへい、今出しますよ」
精霊門を通過するために必要な条件
それは、隠しパラメータの一つである、「認知度」だ
魔物を倒してレベルを上げるだけではなく、NPCとも交流しろとゲーム側から要求されるのだ
効率的なプレイングを目指してたら自然には上がりにくい項目だな
もちろん事前に知っていた俺は、ちょくちょく認知度上げに効率のいいクエストとかをこなしていたぞ
俺はアイテムポーチからあらかじめタグ付けしておいたアイテムを取り出して見せる
それは、串焼きの串、どんぐりっぽい木の実、小さいスプーン、かなづちの頭などなど、関連性のなさそうなガラクタばかりであった
その中には、いつぞやの石ころも入っていた
この石ころは、病気で寝込んでいたケチ臭い婆さんに薬を渡した時に報酬の代わりに手渡された、ありがた〜いご利益がありそうな気がするあの石ころだ
この石ころ、一見なんの変哲もないただの石ころのように見えるが、実は…………………
本っ当にただの石ころなのだ
鑑定結果もただの[石]。内部データも石ころと全く変わらないし、隠し仕様なんかも探されたがなーーんにもないのである
そりゃそうだ。実際に不思議な力があったらあの婆さんが簡単に渡してくれるわけないのだ
このパターンで本当になにもないことある???
ただ、この石ころ自体には何の価値もないが、あの守銭奴の婆さんが自ら渡してくれたもの、というシチュエーション込みなら重要度が上がってくる
あの婆さんに好印象を持たれた………NPCからの認知度が大きく上がった瞬間にゲットした品物ということなのだ
「どうよ?」
『いいだろう。この門を通ることを許可する』
他のガラクタも同様に認知度上昇の証として作用し、無事に認められた
ただのスピリチュアルなリングだった精霊門に、ぐるぐると渦が巻くようなエフェクトが発生し、〈精霊界へ転移しますか?〉の通知が流れた
もちろん「はい」を選択して移動
「アナタハ、23番目ニココヲ訪レタ異邦人デス」
「ほぇ〜〜、『公式鯖』じゃこんな要素もあるんだ」
視界が変化し、精霊界に移動したことがわかる
そこで、発光てるてる坊主こと[精霊の使者]が出迎えてくれて、こんなことを言ってきた
23番目……俺より早いプレイヤーは22人しかいなかったか。まあ準備してなかったらそんなもんか
辺りを見渡せば、薄黄色の空に桃色の雲が流れて、色とりどりの花が咲き誇り、小動物の姿をしたなにかがそこらを飛び回っている、幻想的な空間が広がっていた
しかし地面には数ヶ所、円形に何も生えていない部分が不自然に点在していた
あれは別の「精霊門」予定地だな。現実世界で精霊門が作られれば、対の門がこっちにできるのだ
めんどくさいなぁ〜〜。精霊門が作られる度に、その現地での認知度稼ぎをしなくちゃいけないんだ
そうしないとそこの門は行き来できないんだよな。これが余所者に厳しい国とかだったらすごい大変なんだよ
まあ、簡単な方法はなくもないけど
ただそれは今の俺のプレイスタイルじゃできないから残念だ
必要なのは「好感度」じゃなくて「認知度」だってのがキモだな
悲しいことに、人には好かれるよりも嫌われる方が簡単で、強く印象に残りやすいのさ
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◇
時間は少し巻き戻り、同地点にて
「おー来れた!!……ん?へぇー15番目なんだ。ちょっと出遅れちゃったかな」
そこには、「簡単な方法」で認知度を稼いだプレイヤーが精霊界を訪れていた
「世界に順応した証〜〜だっけ?まさか、私の似顔絵でいけちゃうなんてね〜」
精霊門通過に求められる要素、「認知度」
しかしそれはなにも名声である必要はない
悪名であっても構わないのだ
そう、例えばカルマ値を大量に稼ぎ、指名手配をつけられるという方法でもいいのだ
そうすれば後は、ギルドの掲示板に貼ってある手配書をペリッと剥がして持ってくれば通過できてしまう
精霊にとって、人間社会での善悪はあまり重要じゃないのだろう
ただ世界に馴染んでいるかどうか、それだけを判断する
そうでないと精霊門は通過できない。通過させたくてもさせられないのだ
しかし、認知度上げという観点だけを見ればとても手軽な方法だが、それ以外の部分では難易度が非常に高くなるやり方だ
高カルマ値ルートは基本的に初見クリアは想定されていない
しかし、それをものともしない技量があれば、手っ取り早いルートと考えることもできてしまう
「ふぅ〜〜〜………。さーて、と………………」
悪名で認知度を稼いだ、指名手配になる程カルマ値を高めた少女が、飢えた獣のように短剣をカチ鳴らす
「ま〜だ一週間経ってないけど…………今が一番美味しいタイミングなんだよね〜〜………」
小さな少女は、「息抜き」を求めている
PvEでは得られない、PvP特有のヒリつきを欲している
「あの日を1日目と数えたら、今日で7日目だし、いいよね〜?ね?ね?」
頭上に「配信中」の文字を浮かべた少女は、短剣をしまい、精霊門の真正面でドカリと胡座を掻いて座り込む
不意打ちじゃ楽しめないからね
「だいじょぶだいじょぶ!5人だけ5人だけ!わかってるってば!」
人より早く新エリアに来て優越感に浸れると思ったら、最悪のプレイヤーキラーに狩られるハメになる
これからここを訪れる16〜20番目の来訪者は、高揚から絶望に叩き落とされる体験を存分に味あわされることが確定してしまった
23番目の男、ニアミス
奇跡の回避を成してみせたのだった




