完全に目をつけられた
超至近距離で、おぞましい怪物が俺のことをフガフガと嗅ぎ回る
牙の間からよだれのようななにかが垂れ、地面に落ちる。すると、そのよだれは一瞬で地面の下へと消えていった
まるで当たり判定が透過するバグでも発生したかのように
俺以外にも丸まってる人間はたくさんいるし、俺が一番離れた位置にいたはず………なのに、他の奴らを素通りして俺を執拗に観察してくる
怪物の顔が近づく度、背筋に得体の知れない感触が走る
背骨の内側を、脛骨から尾骶骨までナメクジがシャトルランしてるかのような感覚だ
もう、なんで!?なんで俺!?
俺なんか悪いことした!?
《⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…》
「っっ!!?」
キェァァァシャベッタァァァァァ!!?!!?
意味は全く理解できなかったけど、絶対何かしらの言葉を発した!?知性を持たない怪物じゃなかったの!?!?
こんなの知らない!!聞いてない!!怖い!!!
《⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》
「うっ………」
《⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》
「…………っ!?」
もう誤魔化しが不可能なほど捕捉されてしまった
そしてついに、怪物がその円形の口をぐぱあっと大きく開いた
ま、まずい…!食われる…!!
ど、どうする?!逃げるか?!反撃か?!
……いや、動くのは悪手、他の人も巻き込むかもしれない
でもどうすりゃいいんだよ!!こっから入れる保険はないんですか!?
セーブ&ロードプリーズ!!
〈ダメだよ!!〉
「っっ!!?」
《⬛︎⬛︎…》
突如、俺の頭の中に響いた、忌まわしい声
ハキハキすぎる喋り方なのに聞き取れなかった時を考慮したのか、ご丁寧に字幕を個人通知で表示してくれやがった
なんで強制通知でもないのに出てきてるんですかねぇ…?通知はオフにしてるはずなんだけどなぁ…?
《⬛︎⬛︎》
〈ナイショ!!〉
《…⬛︎⬛︎》
俺の頭に勝手に流れ込んでいる声は目の前の怪物にも聞こえているらしく、一言二言交わしたのち、俺から口を離した
そして、出現した時と同様、どぅるんっと地面の下へ消えていった
破壊跡の一切を残さずに
〈まもったよ!!ともだちだから!!〉
「……………(なんでもありかよコイツ……)」
これもあの称号の効果か…?
あの歩く戦争フラグこと偽リリーと「友達」になった恩恵とでも言い張る気か…?
うん、怪物を追っ払ってくれたのは感謝する。どうやったのかは全然わからんけど
でも、もっと問題性が高い事実が発覚した
いや、薄々その可能性も考えてはいたけど。あまりにも不都合すぎて、「流石にそこまではしないだろう」と思って無意識に思考から除外していたのだ
あの偽リリー、おそらくだけど…………この称号を通して、俺のことを遠隔で観察してやがるな……!?
クソッ、完全に目をつけられたな……
「い、いなくなった…?あの気持ち悪い感覚が消えたぞ…?」
「誰か確認して?俺顔上げるの怖い」
「俺もわからん。木箱で外見えない」
「出ろよ」
「もうどっか行ったぞ、あのキャラロスト怪物は」
「コオロギが撃退したぞ!コオロギを食おうとしたら何かに気づいたみたいで逃げるように去ってったぞ!!」
「マジか!!コオロギいてよかった!!」
怪物が去ったことで、あの形容し難い空気も消え去った
それに気づいたプレイヤー達は恐る恐る顔と木箱を上げ、自身の無事を確認し喜びあっていた
まあ、撃退したのは俺じゃないんだけどね?
というか多分、俺が変な条件満たしてたせいで食われかけてただけだから、本当はもっと早くいなくなるはずだったんだよ
でもそれを説明するのはめんどそうなのであのまま勘違いさせておこう
「食われたらキャラロストって、NPCもそうなのかな……?」
「そりゃそうだろ。正確にはキャラロストじゃなくて「二度と生き返れなくなる」だから、NPCも対象だろ」
「あぁ、そっか…………じゃあ、あの悪魔って……」
「え?あ〜〜………まあ、悪いヤツらしかったしいいんじゃね?」
「……………あの悪魔なら、おそらく生きているぞ?」
「「……えぇ!!?」」
あ、つい口を挟んじゃった
いや、自分のせいでNPCをロストしたと思わせたらツラいじゃん?気負わせたくなかったんだよ
でも、「怪物に食われたら問答無用でキャラロスト」って思わせたいんだよな………
ちょっと無理やりだけど、設定をでっち上げるか
「あ〜〜っと………たしかに怪物に食われれば、魂の加護を全部破壊されて殺される。だが、悪魔共には普通の人間とは違う、強力な加護が魂にかかっているんだ」
「あーー、種族特性的なね?」
「悪魔神みたいなのに加護貰ってんのかな?」
「加護が強力だから、魂の加護が破壊され切る前に魂本体が怪物の口から脱出できているはずだぞ」
「はぇ〜、リスポーンしてるんだ」
「でも加護破壊されたから弱体化はしてそう?」
「ただ、これは悪魔だからだ。普通の人間が食われたら一発アウトだから、くれぐれも用心しろよ?わかったな?」
「わかりやした!!」
「これ後で情報売ろうぜ」
まあ本当は、悪魔とか関係なくセーフなんだけどな
ただプレイヤーには危機感を持ってもらいたいから、ちょっと誇張して伝えたかった
下手に「一回だけならセーフ」って教えたら、伝言ゲームでおかしな変換されて「2,3回はセーフ」になったりするかもしれんし
怪物の唾液は、「魂滅」属性と似ているようで全然違う
「魂滅」属性は、魂の加護を貫通して魂本体に直接攻撃を与えるものだ
対して怪物は、魂の加護を順々に破壊していって魂本体まで辿り着く脳筋仕様だ
なので、魂の加護が万全の状態なら、口から抜け出してリスポーンできる可能性があるのだ
まあ、それもサイズが大きい怪物相手なら望みがなくなるけど
さっきのヤツは口径1mの最小クラス。ここまでなら余裕で生き返れるけど、口径5mクラスが出てきたらもう終わりだ
もちろんこれも言わない
どこまで安全かを初心者が見切れるわけないので、変に情報を与えないほうがいいと判断した
いやぁ、我ながらナイスな判断じゃね?
「なあコオロギ!俺聞きたいことがあんだけど!!強力なスキルをゲットする方法教えてくれないか?!」
「お、おぉ?急にどうした?」
「ちょ、お前!抜け駆けズルいぞ!!」
「まださっきの戦闘の余韻っつーかリザルト的なのが終わってないだろ!!」
「少しは待てって!先走って俺ら全員好感度下がったらどうすんだよ!!」
「いやでもさ!コオロギって用事が終わったらすぐ消えてくじゃん!!一旦呼び止めとかないと!!」
「それは、たしかにそうか……?」
怪物騒動が一段落したところで、一人のプレイヤーが俺に声をかけてきた
どうやら俺に助言を出してもらいたいらしい
うむ、もちろん構わんぞ?元より今日は助言ごっこをしようとしてたんだからな
でもここだと、助言の対価を要求して持って来させるの、ちょっとめんどいか…?
よし、この際免除にしちゃおう
「俺に教えて欲しいことがあるのか、いいだろう。お前達には悪魔を倒してもらった礼もあるからな」
「よっしゃ!!クエスト発生!!」
「マジかよ!お手柄だな!!」
「ただ、全員に一人一つずつ教えてくってのは流石に無理だぞ?全員で一つにしてくれ」
「え、うそん」
「一日一回みたいなゲーム的制約があるってこと…?」
「じゃあ強いスキルが知りたい!!」
「待て待て勝手に決めんな!俺は武器の素材が欲しい!!」
「俺はじゃあ、えーっと、どっかの隠しエリアの行き方!!」
「はいはい!!むっちゃ強いテイムモンス!!」
「だから全員で一つだって!!どれかに意思統一すんぞ!!」
「こりゃ決まらんぞ…?」
「揉めてる間もコオロギが待っててくれたらいいんだけど……」
全員がバラッバラの意見を出してて、全然一つに決まっていない
はよ決めてくれんか…?30分とか1時間とか決まらんかったら帰るぞ…?
あーもう面倒だ、こっちで勝手に決めちゃおう
「とにかく強くなりたい、か……なら精霊と契約してみるのはどうだ?」
「ちょっ、これ強いテイムモンスで決まっちゃってないか!?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!最後に言ったもん勝ちかよ!!」
「でも精霊は気になる」
「そろそろ、もう5日後には精霊門が開くだろ?そっから精霊界に行けば精霊と契約できる。契約できたら、今の倍は強くなれるぞ?」
「倍!?」
「さすがに誇張っぽいけど。セールスでちょっと大きめにアピールするやつみたいな」
「『テイム』が必要っぽそうだからあんまそそられんなぁ……」
「精霊と契約すれば強力なスキルが発現するぞ?それに素材を強化することもできるし、精霊を連れていたら辿り着ける場所もあるぞ」
「全部盛りィ!?」
「欲張りセットッ!?」
「そりゃ倍も強くなれますわな!!」
「契約方法は、精霊界に行けばおのずとわかることだが………今知りたいか?」
「教えてくだせぇ!!」
「5日のアドバンテージはデカい!!」
「そんじゃ教えるぞ?用意するものはだな………」
クエスト産テイムモンス、その中でテイムが一番簡単な「初心者救済用モンス」が[精霊]系統だ
初心者救済と言うが、経験者どころかランカー廃人が使っても普通に強い
使い勝手がめちゃくちゃよくて、『決闘鯖』の『テイマー戦』でもティア1クラスで毎回使われている
あのフェニックスですら「特化させれば選考対象にギリ入れるか」くらいなのに
その理由は………まあ、後でいいか
「えぇ……?条件厳しすぎない……?」
「やっぱ『テイム』必要かよ!!しかもレベルマ!?」
「スキルレベルは個人で頑張るとして、問題は………」
「やっぱ先に知れてよかったな。絶対属性結晶高騰するぞ…?」
「ああそうだ、精霊門を通る条件も一応教えとくぞ」
「え?門開いたら通れるんじゃないの…?」
サービスで精霊界に行く条件も教えとく
そんな難しいもんでもないからサクッと話して終わる
「やべぇ、俺達成できてるかな……」
「一回攻略はストップして準備に力入れた方がいいかもな」
「こんなもんか?そんじゃ、後はお前らで頑張れよ〜〜───」
よし、ミッションコンプリート
そこまで特別なことは教えられてないけど、助言はできたってことで!
自己満足した俺は、そそくさと『リターンホーム』を使うのだった




