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いっつも逃げてんな



「お前らもさっさと逃げろよぉぉ!!!『シャドウダイブ』!!!」



 軽食店の窓ガラスをぶち破り、最後に念押ししたいことをデカい声で言い放ってすぐに地面の影へ逃げ込む

 そのまま『上級隠密』も発動。多分偽リリーは欺けないだろうが、それでも別にいい


 もし追いかけてくるなら、そのまま引き連れてプレイヤーがいない場所までマッハで逃げ切る

 殺してくれるならそれもいい。そのまま家でリスポーンすれば逃走成功だ

 興味を失ってくれれば好都合。とりあえず俺個人の大ピンチは切り抜けられる


 この場面は逃げるのが一番の正解だと俺は判断した!!!

 ………なんかこういう時いっつも逃げてんな俺

 いやしょうがないじゃん?逃げるは恥だぞ役に立てってガ◯キーの旦那だか嫁だかも言ってたじゃん!!


 あとは、プレイヤー共に「コオロギは逃げ出した」と思わせられれば万々歳だ

 失望されるのは別にいい。むしろ最近期待が重いというか、偶像が一人歩きしてる感があったから、ここいらでちょっと株を落とすぐらいが丁度いい

 それよりも、「コオロギですら逃げる事態」と捉えてくれないかな…?




「コオロギ逃げた!?」


「なんだよ、コオロギvs悪魔始まるんじゃないのかよ」


「いやそれはこっちの勝手な憶測だから」


「人を守らず逃げてくとか無責任すぎない??」


「たしかに……コオロギらしくない……」


「いやコオロギは逃げろって言ってたじゃん?逃げずにいるのお前らじゃん?」


「そうだよ。命令も聞かず逃げない奴らまで守る義理はコオロギにはない。コオロギは処刑人を意図的に湧かせたときにも来なかったし、無礼な女プレイヤーはボコボコにしてた。言うこと聞かないやつに塩対応になるのは前々から一貫してた。無責任とか言われる筋合いはない」


「急にむっちゃ早口やん。そういうお前も逃げてないんだけどな?」


「早く逃げないとやばいんじゃね?これつまりコオロギの命令無視してるってことだろ?」


「ああ!!たしかに!!」


「次コオロギと会えても助言イベント発生しなくなるかも……」


「やべやべやべ、今からでも退散しよう!!」


「もう今更だろ、俺はここで悪魔チャンを撮り続けるぜ……」


「うっせお前も帰るぞ!!プレイヤー全体の好感度が下がるかもしれねぇじゃねぇか!!」


「もう『浄化のなんちゃら』みたいな連帯責任は嫌だぞ…?」




「ここか?!悪魔が出たってのは!!」


「俺も見たい!!スクショ撮りたい!!」


「本物の悪魔ってのがどんなやつか見てやるわよ!!羽は生えてないんでしょうね!!」


「よっしゃ!!BP3ゲット!!」


「どいてどいて!悪魔ちょっと見るだけだから!!」


「称号取れたら帰るから通して〜!!」


「おおおい!?悪魔に近づくな!!」


「お前ら散れ!!早く退かないとコオロギの好感度下がんぞ!!」


「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!!」



 やっとヤバいことを理解し、プレイヤー共がようやくここから去っていった

 のだが、去っていくプレイヤーよりも新たにここに来るプレイヤーの方が多い。なんでやねん!!


 目新しいものを一目見たい野次馬第二ウェーブのようだな

 それと、悪魔と会うだけでゲットできる称号『悪魔の囁き』に、BP3という破格の報酬が付属していることが知られてしまったのだろう、それ目当てで来てるやつらもいるっぽい


 もうどうやったらこいつら追い散らせるんだよ!!

 全員の「ちょっと見るだけ」が大量に重なって人の波が途切れない!これじゃ戦闘状態が終わらなくて、ジアが偽リリーを無理やり連れ帰ることができない!!




「おかしいなー!なんでだれもしらないんだろ?!そんなわけないのに!」


「攻撃をやめたのは褒めてあげますので、次は能力を解除してください」


「あ!しってるのにおしえてくれないのかな?!ワタシだけなんで?!イジワルなの?!」


「相手に敵意はないので、貴女さえ能力を止めれば帰還できます」


「なんでかなー!ふしぎだなー!きになるなー!」


「話を聞いていますか?聞いていないですよね。はぁ……」



 偽リリーは俺を追いかけてこなかった。しかもそれどころか、周囲のプレイヤーを惨殺することもやめていた

 まさかの「逃げる」が最適解で合ってた…?アレのことはよくわからん


 よし、なら一旦逃走中止。建物の陰で『シャドウダイブ』から出る

 ………よし、偽リリーは止まったままだ。軽率な判断だったかもしれなかったけど、多分大丈夫


 これで残された問題は、集まってきてるプレイヤー共をどう追い払うか、だ

 ……全然妙案が思いつかん。逃げなきゃコオロギの好感度が下がるって思ってくれてるようだけど、それでも「ちょっとだけなら」ってやつらがわんさと来ている


 別方面で脅すべきか…?魔法やアイテムを組み合わせて、凶悪な魔物の幻影でも作ってビビらすか…?

 ………いや、逆効果だな。そんな目立つことしたらむしろ寄ってくる

 ゲーマーがプレイキャラの命惜しさに逃げ出すことなんてないし。キャラロストでもない限り


 興味を引いちゃうのは悪手だな。興味を失わせる方向性で…………あるか?そんなん

 ここは逆転の発想で、別の興味を引くものを出す、とか?………それもないな。ここに来てる連中は、あのエロ可愛い悪魔が目当てのやつと、BP目当てのやつだ

 そいつらの興味を移せるようなものなんて、そう都合よくあるわけが………


 ………あっ、あるかも



「なんとかなるか…?とりあえず『変装』」



 その「興味を移すもの」をプレイヤーに伝え広めるため、手始めにコオロギではない姿に変わる

 できるだけコオロギからかけ離れた姿がいいかな?


 ということで、人族のおっさんから、エルフの女性にフォルムチェンジした


 ボイチェン調整、オッケー。大丈夫、ネカマ経験はちょびっとだけどある

 俺は女、俺は、じゃない私は女、私は女、かわいー女の子………自己暗示オッケー!




「お前ら!!外にやべぇのが……んん゛っん゛ん!!外にヤバいのが来てるわよ!!」



 『上級隠密』を解き、建物の影から飛び出してデカい声で注目を集める

 近くの何人かは振り向いてくれたけど、まだほとんどは悪魔に視線が釘付けのままだ

 もっと声のボリューム上げてくか



「なんと竜よ!!ドラゴン!!またドラゴンが降りてきたのよ!!」


「はぁ!?ドラゴン!!?」


「え、今ドラゴンって言った!?」


「何?ドラゴンがなんだって?」


「今ドラゴンって聞こえた?」



 声を張り上げたからか、「ドラゴン」というワードに反応したのか、近くにいるプレイヤーのほぼ全員が俺を振り向いた

 俺の声が届いてなかった人たちにも、「ドラゴン」というワードが伝播したのか次第に悪魔から俺へと視線が移ってゆく


 もちろん、ドラゴンがいるなんて嘘だ



「本当に見たのよ!『セカン』の外にバカデカ……すごく大きい緑色のドラゴンが来たの!私さっき殺されてきたんだから!!」


「この街の外に!?」


「行くっきゃない!!」


「それ本当か…?そんな大事件なのに、掲示板に全然流れてないぞ…?」


「もしそれが本当にドラゴンなら、他に何人も見てるはずだよなぁ?」


「う、嘘じゃないわ!!すごい速さで空から降ってきて、気づいた時には殺されてたわ!『セカン』の東、森と草原の境目よ!すぐに行けばまだいるかもしれないわ!!すごく速かったからもういないかもだけど……」


「本当かぁ??」



 やべぇ、秒で嘘がバレそう

 なにか証拠になるものは……いや嘘だから証拠もクソもないんだけど

 なにか、ドラゴンがいたという嘘を信じさせるものさえあれば………


 あ、丁度いいのがあった



「す、スクショ!!スクショを撮ったわ!!死ぬ直前に!!」


「スクショ?ドラゴンの?」


「ええ!!掲示板に貼るから見て!!いろんなとこに貼るわ!!」



 フレイニ救出中にドラゴンと追いかけっこした際、追い詰められて本気ブレスで消し飛ばされそうになったあの時に、実はスクショを撮っていたのだ


 大口を開くドラゴンの喉奥から破滅をもたらす光がチラつくという超かっちょいい絶景を前に「お、シャッターチャンス」とか思って反射的に撮ってたんだよな

 まさかこんな時に役立つとは


 そのスクショを掲示板に貼りまくる。極力他人の書き込みは見ないようにしながら

 攻略・雑談・総合掲示板はもちろん、スキル掲示板や職業掲示板などの絶対関係ないとこにも手当たり次第に貼っていく

 スレチだって怒られてそ〜〜……



「うおおおなんじゃこりゃ!?」


「すんげぇド迫力だな!!よくこんなん撮れたな!?」


「なにこれ噛み殺される瞬間!?」


「いや、これブレスの直前じゃね!?」


「本当だったのかよ!!」



 よ〜し!!なんとか騙せそうだ!!

 そしてここでダメ押しの一手!!



「ドラゴンと会っただけで称号も貰ったわ!!その称号のスクショも貼るわね!!」


「え、ドラゴンもエンカだけで称号ゲットできるんだ」


「たしかに、悪魔より遭遇難しそうだし」


「なになに?名前は『愚かなる小虫よ』で、称号効果は…………はぁ!?BP10!!?」


「「「「「BP10!?!?」」」」」



 称号の内容を公開した瞬間、プレイヤー共の目の色が明らかに変わった

 そりゃそうだ。ここに来てるやつの大半は、BP3を得たいがために来ているのだ。もっと多くのBPが得られるとなれば、そっちに飛びつくのは当然だろう


 計画通り(ニヤァ)



「ここの東だな?!すぐ行けばまだいるかもしれないんだな?!」


「うおおおお!!まだ消えるなドラゴンんんんん!!」


「『身体強化』!『エンチャント・ウィンド』!『ダッシュ』!!」


「『召喚』!『騎乗』!どけどけぇ!!」


「うおっ!?なんだぁ!?」


「いきなり人が移動し始めたぞ!?そっちになにかあんのか…?」


「外にドラゴンが来てるらしい!!エンカするだけでBP10!!」


「まじで!?」


「乗るしかない!このビッグウェーブに!!」


「ビッグウェーブというか人間津波ぃぃぃ!!?」



 こうなれば後は水が上から下へ流れるように、物事は勝手に進んでいく

 「BPが欲しい+ドラゴンに会えばBPゲット+外にドラゴンがいる=外に行く」、超単純な方程式だ。方程式とも呼べないか


 いきなり人の流れが変わったことに困惑するプレイヤーも、その理由を知って自分も流れの一部になる

 それが伝播していけば、能無しダチョウの群れもとい、暴走ヌーの群れの完成だ


 俺はヌーの群れに巻き込まれないよう、建物の影に戻ってその哀れな群れを見守る

 当たり前だが、外にドラゴンなんていない。こいつら全員、たった1人の嘘に踊らされているのだ

 なのにあんまり心が痛まないなぁ。なんでだろう?


 ドラゴンがいないことに怒ったプレイヤー共が暴徒化して俺を探すようなことになっても大丈夫

 だってホラを吹いたのは、どこにもいないエルフの女性プレイヤーなんだもん。『変装』を解けば、あとは野となれ山となれ

 それに俺はちゃんと言ったし。「もういないかも」って

 都合のいい情報だけ伝わっていって「外にドラゴンいる!」になってたけど、俺知らんし


 ふぅ。これでこいつらが全員外に行ってくれれば、ようやく偽リリーを連れ帰ってもらえるな!

 あーよかった、一時はどうなることかと………




「……っ」



 目が合った


 迂闊だった

 相手が常識泣かせのイレギュラーなことを忘れていた


 気が緩み、ジア達のほうをチラリと見たら、あの不気味な顔とばっちり視線が合ってしまった

 自分たちを取り囲む大量のプレイヤーが急に一斉に去っていくという異常事態を前にしても、アレはずっと俺だけを見ていたのだ


 まずいか…?偽リリーの前で目立ち過ぎたか…?



「今度は一体なにが起きているんです…?」


「そっか!はやくかえらないと!!」


「………はい?」


「おしごとおわったからかえるんだよ!!いつまでもここにいちゃだめ!!」


「いえ、それは私のセリフですが」


「さきにかえってるからね!!とうっ!!───」


「……はぁ。帰ってくれるのならよしとしましょう───」



 蛇に睨まれた蛙というか、野生生物とうっかり目を合わせてしまった時みたいに、目を逸らすことができずにいたら、偽リリーの姿がいきなり消えた

 おそらく転移をしたのだろう。隣にいたジアも疲れた顔をしながら後を追うように消えていった


 なんか予定とは違ったけど、結果オーライか…?

 とりあえずの危機は去った。まだ戦争イベントとか本物リリーの死とか、俺一人じゃどうにもならない大問題は残ってるけど



「俺も帰ろ……『リターンホーム』」







 あーーーー疲れた。家は落ち着くなぁ

 まだまだ問題は山積みだけど、一旦休憩させて?


 ふぅ、一安心

 NPCは誰も……本物リリー以外殺させなかったし、ジアに危害も与えさせなかった。出来うる限りを尽くせたんじゃないか?

 うん。俺は頑張った。俺はえらい


 だから今だけでも、30分くらいは、今後のことは何も考えずゆっくりしてもいいんじゃない?

 この外敵の侵入できない安全な家でね


 安全な家、で………………






「………………なんでいるの?」


「こんにちは!!」



 気づけば玄関の前に、あの不気味な顔の異物が立っていた


 ………あのー、ここプライベートエリアなんですけど…?

 こんのチートNPCめ…!!フッツーにシステム貫通(ルール無視)しやがって…!!



「あーーー!!!やっぱり!!かんちがいじゃなかった!!おかしいとおもった!!」


「…………な、なんだよ」


「きみってさ!!─────()()()()()()()()()()()()()()でしょ?!」


「…………チッ」



 やっぱりバレてたか、(コオロギ)異邦人(プレイヤー)だってことが



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