狂い始めた歯車
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AWRは、MMOである『公式鯖』から少人数用の『ソロ鯖』にダウンスケールされた際、いくつものクエストやイベントが修正された
その内のほとんどは、他プレイヤーの枠を冒険者NPCに置き換えることで補ったり、敵のステータスを弱体化させたり行動パターンを減らしたりすることで流用できていた
しかし、一部ではイベントそのものが削除されてしまうものもあった
削除されたイベントに共通する特徴は、戦争やクランバトルなどといった、PvPメインであることだ
特に多対多だと消されやすい。ああいうイベントは仲間内の報告を密にすることが重要なのに、自分以外の味方がNPCだとそれも難しい
「元々NPC同士の戦争にプレイヤーが参加する」といったものは消されていないが、プレイヤー主体の戦争イベントはほぼ全部削除されてしまった
そして、その削除されたイベントにしか登場しないNPC、またはそのイベントのトリガーとなるNPCは、イベントが削除されたことで『ソロ鯖』で登場することはなくなった
その彼らこそが、「『公式鯖』限定NPC」と呼ばれている存在だ
彼らのことは詳しい情報があまりない
『公式鯖』という検証の難しい場所でしか出現しない上、そのイベントの発生方法も判明していないものが多く、完全なレアキャラ扱いになっている
ただ、削除されたイベントは総じて難易度がとんでもなく高いので、見かけたらアンラッキーな疫病神扱いされることもしばしば
そして、目の前のアレもそんな「『公式鯖』限定NPC」の1人だ
しかしこいつ、厄介なことに………どのイベントに関連しているかわかっていない。どんなイベントが発生するか予想できないのだ
出現条件すらわかっていない
ただ、まことしやかに囁かれている噂は一つある
なんでも────「ハッピーエンドを目指していると現れる」んだとか
曰く、『公式鯖』の一つの一際過疎ってるサーバーに目をつけたプレイヤーが、有志を募って実質サーバー占拠し、協力してハッピーエンドの一つを目指したらしい
順調に進んでいたところに、アレが出現
その直後、良好な関係を築いていたはずの二国がいきなり戦争を開始
プレイヤー達は戦争を収めようといろいろ模索した結果、一番被害が少なくて済む方法は、プレイヤー同士が矢面に立って代理で戦争を行うことだった
さらに、至る所で戦争が勃発
どれだけ仲裁に入っても、また別のところが戦争を起こす。戦争が長引くほどNPCは歯止めが効かなくなり、どちらかの国が滅ぶまで続けようとする
この不可思議な戦争の乱立は、自暴自棄になったプレイヤー達がNPCを虐殺しまくった時に、ぱたりと止まったという
疫病神中の疫病神。もはや大災害の前兆
アレが現れたということは、近いうちに戦争イベントが起こることはほぼ確定していると言える
だが、本当にヤバいのは起こされる戦争ではなく、その起こし方だ
プレイヤー達が戦争を事前に止めるべく調査して回った結果、戦争の原因が判明する
ある時は、国の国宝や重要書類が突然紛失し、いつのまにか他国の大臣のインベントリに入っていた
またある時は、国の王女が失踪。居場所を知らせる装飾品の反応を追った結果、他国の地下牢にその反応があった
しかし、こんなものはまだ可愛いほうだ
ある時は、国王が失踪
居場所を知らせる装飾品の反応はない。予言や占いといった手段も全て空振り
決定的な証拠を掴もうと、国王が最後に目撃された部屋で過去視の魔法を使ったら……………
殺されていたのだ、何者かに
この世界では、NPCも魂の加護がある限り復活するんじゃないのか?そう思うだろう
しかし、国王は生き返らなかった
この世界には、殺害した相手を二度と復活できなくさせる方法がある
「ジェノサイドモード」となったプレイヤーと同じ………「魂滅」属性が付与された攻撃によって、国王は殺害されていたのだ
この映像を見た国の大臣達は激怒し、隣国の刺客だと勝手に決めつけて戦争を開始。プレイヤーの制止に聞く耳も持たなかった
プレイヤー達は知っている。真犯人を
映像に残っていた、暗殺者の顔
ぱっちりと開いて閉じない目、半円形に開いた口。忌避感を覚える貼り付けたような笑顔の子供
なぜかNPCは違和感を覚えられない完璧な偽装となっている、アレの顔だ
アレの正体は誰もわからない
最高クラスの鑑定スキルを使っても、デタラメなステータスしか表示されない。しかも鑑定する度に鑑定結果が変わる、素粒子みたいなふざけた野郎だ
しかしどれほど姿を変えようと、あの特徴的な顔と喋り方は変わらないため、プレイヤーならすぐにわかる
合唱の練習みたいな、「アの口は指を横に三本、オの口は縦に三本入るくらい開きましょう」を愚直に実践しているかのような、ハキハキしすぎた喋り方だ
アレの強さは誰もわからない
戦争の芽は摘んでおこうと事前にアレを倒そうとした事例は幾度とあったが、そのほとんどで………倒せてしまった。あっけなく
そして、普通に復活した
「魂滅」属性を持っているのに、復活不能状態にはなっていなかったのだ
なら弱いのかというと、それもわからない
なにせ高レベルのNPCが守る王宮に侵入して悪さしている上、時には強力な宝具で身を護る王族を殺害しているのだ。弱いはずがない
実際の強さもステータスのようにその時で変動するのかもしれない。スライムよりも弱いときもあれば、恐ろしいほど強力なことも
あるサーバーでは、アレの出現が確認されてからたった1週間で世界崩壊、サーバーエンドまで追いやられたことがある
もはや人間同士の戦争なんて生易しいものではない。あんなことが起こるのは、「神クラス」の存在が暴れたか、もしくは消えたのか……
状況証拠でしかないが、アレは神クラスを殺せる可能性が高い
アレの名前は誰もわからない
その時によって様々な偽名を名乗っているが、本当の名前は判明していない
しかし偽名には法則性がある。「ララ」「レイ」「リーリァ」「ルゥ」などの、ラ行と母音で構成された偽名を使う
しかしもし、同名同種族のNPCが既にいた場合は…………
◆
「まだかえらない!」
「何故ですか?貴女の我儘に付き合っている暇はありません」
「まだおわってないよ!」
「食事がですか?だから持って帰ってもいいですから」
「ちがう!べつのこと!」
「はぁ……リリー、何故貴女は私を困らせるのですか?昔はお淑やかな子でしたのに」
眼前の存在を「リリー」だと信じ、会話をしようとするジア
しかし、それは本物のリリーではない
以前との差異には気付けても、全くの別人であるということは何故か気付けない
この身長100cmで頭のおかしくなる喋り方をする気味の悪い顔の異物と、身長150cmほどの大人しい性格でちょっとSっ気のある少女とでは、服装と髪色くらいしか共通点がないというのに
どう見ても別人なのに、NPCは騙される。認識に阻害でもかかっているかのように
そして、本物の「リリー」はおそらくもう、アレによって殺害されているだろう
あーもう最悪だ!!最悪だ!!!
今までで一番取り返しのつかない事態じゃねぇか!!
NPCが二度と生き返らない死を迎えることなんて、大悪党を捕らえた国が「死刑」を執り行うくらい盛大にやるようなことなのに…!!
プレイヤーの関与できないところでサクッと殺してんじゃねぇよ!!!
あぁクソッ!!あんなやつどう事前対処してりゃよかったんだよ!!
そりゃあ今の今までアレの存在を忘れてた俺にも非があるけどさぁ!!俺じゃなくても対処不可能だっただろ!!
というか出てくるのが早すぎんだよ!!
ハッピーエンドどころかまだルート分岐すら曖昧なチュートリアルの時期に出る前例なんて知らないぞ!!
条件が判明してないからなにが悪かったのかもわからん!!どんな出現条件を満たしてたんだクソッ!!!
仮に原因が分かったとしても、もう取り返しはつかない。アレが出現したことも、すぐに戦争が始まるだろうことも、「リリー」が帰らぬ人となったことも
クソクソクソッ!!!なんでここにはセーブ&ロードがねぇんだよ!!!
というか、よりにもよってなんでその種族なんだよ!!!
あの1週間でワールド崩壊したパターンと同じじゃねぇか!!!
「なんでわかんないの?!かんたんなことじゃん!!」
「いえ、わからないから聞いているのですが」
「おはなしがおわったから、たたかうんだよ!」
「…………はい?」
…………は?戦う?誰と?
「しらないの?!あくまはにんげんをイジメるもの!!そうきまってるの!!」
「いえ、余計に意味がわかりません。それと声が大きいです」
「ワタシははんぶんをやるから!ジアはもうはんぶんをやる!」
「だから戦いませんよ。いい加減に………」
「いっくぞーー?!へんっ!しんっ!!」
「あっ!?ちょっと!?」
「マジか!!ウッヒョーー!!」
「ラッキースケベキターーーー!!!」
「うおおおお!!!シャッターチャーーン、ス……?」
とんでも理論を展開し続ける「偽リリー」に呆れ、その手を掴んで強引に転移魔法を発動しようとするジア
だが、少し遅かった
偽リリーがいきなり、ジアのスカートを思いっきり捲った
瞬間、男プレイヤー共のスクショが乱発する。NPC相手には規約違反の「猥褻行為」は適用されないため、好感度を犠牲にしてセクハラし放題だ
しかし、スカートの内側にあったものは、彼らの想像とは違っただろう
スカートの内側から現れた、スラリと長い健康的な御御足。しかしその肌色は、ジアの顔や手の色と同じ陶器のような白ではなく、暗い色であった
それも黒人や褐色肌といったものではなく、内出血した痣のように、現実味のない青黒い肌色をしていた
さらにスカートは捲れ上がり、股関節の部分が顕になる
ワンピースの下なので、パンツかドロワーズがあると想像していただろう
しかし、そこにあったのはパンツはパンツでもショートパンツ、スコートと呼ばれる種類のものだった
表面に淡く光るラインが幾何学的に走り、魔術的な雰囲気を醸し出す謎の素材でできている
さらにスカートは捲れ上がり、腰より上が顕になる
スコートとはまた違った材質でできたトップスにも目を引かれるが、それ以上に目を奪われるのが、臀部から生えた異質なものだ
尻尾自体はそこまで珍しくない。獣人はこの国には珍しいが、近頃は獣人の姿をした異邦人も大勢来て、よく見かけるようになった
だが、彼女の腰に生えていたものは、どの獣のそれとも違っていた
細く長い、ロープのような尾の先端は、鏃のようにハート型に膨らんでいた
さらにスカートは捲れ上がり、胸元まで顕になる
もうワンピースではありえない位置まで上がっている
胸部は、なんらかの魔獣の革で作られたのであろう胸当てで覆われており、背面には二本の縦スリットが開いていた
さらにスカートは捲れ上がり、頭まで全て顕になった
いつ腕が抜けたのか疑問だが、ジアのワンピースは完全に剥がされてしまった
そして、そこにあったのは、白い肌にブラウンの瞳をしたどこにでもいる街娘の顔ではなかった
青黒い肌。黄色の瞳。赤紫の髪。前頭部からは2本の角が生えている
人とはかけ離れた姿だ
もしも、彼女の容姿を一言で表すなら………
「魔族」、もしくは、「悪魔」だろう




