外野は黙ってろ
ルート分岐に大きく影響するシークレットイベントを順調にこなしていたんだが、もう少しでイベント完遂といったところで、不審者に見間違われて他プレイヤーに妨害されてしまった
しかも、そのせいで目当ての女性NPC「ジア」の行動も変化してしまい、このままじゃ軌道修正できるか怪しくなった
いまめちゃくちゃいいとこだったのに!!出しゃばってくんじゃないよ!!
………いや、出しゃばられて当然か。側から見たら完全に俺が悪者だし
それに、酔っ払いやチンピラのNPCが女性に絡むのを助ける突発クエストは本当にあるし。ベッタベタなテンプレとして使いまわされてるし。それと勘違いするのも仕方がない
なんなら『ファスト』の冒険者ギルドにも、プライベートエリアに飛ばなかったらそのクエスト発生するし
ちなみにそれ系のクエストは2割くらいは注意したら逃げてくけど、残り8割は逆上して「表へ出ろ!」ってなって戦うことになる。けど大体そこの適正レベル帯よりかなり弱く設定されてるから簡単にねじ伏せて拍手喝采されるのがお決まりのパターン
どうしよう……どうやって誤解を解こう……?
知り合いでもないし、無許可に触ったのも事実だし、嫌がってるのに絡み続けてたのも事実だし…………あれ?詰んでる?
それに、もし誤解が解けたとしても、イベント続行できるのか?
もう別ルートに行っちゃってるんじゃないかこれ?
「……………」
「あっ!待てコラ逃げるな!!」
「っ!!」
俺がままならない現状をどうにかしようと悩んでいたら、保護されてた女性NPCの身体から僅かに魔力が漏れ出る
今の俺の『魔力感知』じゃ捉えきれない変化。だが最初からこいつを警戒してスキルを集中させていたので、ギリギリ気づけた
おそらくなんらかの魔法、多分テレポート系の魔法を使おうとしていたのだろう
それが『リターンホーム』に類似した非戦闘時のみ使用可能な魔法だと当たりをつけ、ビー玉サイズに小さくした『ファイアボール』を足元をすり抜けさせてNPCに当てる
ダメージは1も入っていないだろう。だが攻撃を与えたことで、非戦闘時のみの魔法は使えなくなったはずだ
「おにーさんしつこいね、一回冷静になろっか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「一旦外出よう?ここじゃ他のお客さんの迷惑になるからさ」
「いや、あの……」
「往生際が悪いぞおっさん」
「狼狽え方がキモっ」
「くたばれ痴漢野郎」
「あの人優しいな、私だったら顔の形が変わるまでボコボコにする」
「あんなブサイクで今まで周りにモテたことなかったからセクハラしてるんだろうな」
「なんで生きてるんだろう?自分のためにも周りのためにも死んだらいいのに」
なんとか事情を説明して誤解を解かないといけない
でも一から十まで全て言ったら、イベント継続がさらに絶望的になるだろう
ひとまず無害なことを証明するためにこの人の指示に従おうにも、あの女性NPCと引き離されたらまた逃げられるかもしれない
八方塞がりだな……
俺がどう答えていいかわからずしどろもどろになっていたら、騒ぎを聞きつけて集まってきたプレイヤーが好き勝手ボロクソ言ってきやがった
は〜〜〜〜〜〜〜〜うっざ。一番嫌いだわこういうやつら
SNSなんかでしょっちゅう目にする、悪人相手にはどんな過激な発言ぶつけてもいいと思ってる奴ら。縛り付けられた罪人に何の恨みもなくても石を投げつける、中世の価値観そのままな野蛮人共だ
奴らに「悪を成敗する」なんて崇高な思想はない。そういう建前を使ったり、本気でそれが動機だと思い込んでるやつもいるが
こいつらが人を叩くのは、「気分を害したから」「自分が気持ちよくなりたいから」だ。くだらん
あんな馬鹿共に心無い言葉を浴びせられたところで、事実とは全く異なるので心にはまったく刺さらない
そのかわり、頭にくる。腹が立つ
目に入った情報を鵜呑みにして真偽の区別もせず条件反射で叩くアホに、したり顔で説教もどきされることに腹が立つし、こんなアホが気持ちよくなるための道具に使われていることにも腹が立つ
そしてこういうタイプはアホすぎてスカッと論破がほぼ成立しないのがことさらにイライラに拍車をかける
うん、無視だな、無視無視
虫かなんかだと思おう、無視だけに。はーっはっは!!はぁ…………
「外出よう?な?大事にはしたくないでしょ?」
「あ〜〜〜、もういろいろ考えんのめんどくさくなってきた」
「え?どうかした?」
「はぁ、やるしかねぇか………」
「おっと、変なことは考えないほうがいいよ?言っておくけど、暴力に訴えるのはおすすめしないよ?」
この場を簡単に切り抜ける手段。あるにはある。俺のネームバリュー次第だけど
だけどそれをやったらまた別の面倒事が発生しそうだからやりたくない
でも、俺のつるっつるの脳みそじゃ、もっといい方法をパッと立案することはできないだろう
仕方がない、こうするしかない
「………『変装』、解除」
「あっ………え!!?」
適当に『変装』で姿を変えていた名も無きおっさんの姿から、元の「コオロギ」の姿に戻る
その瞬間プレイヤーの野次馬からざわめきが起き、俺へ向いていた非難や嫌悪の視線が完全に消え去る
「えっ、なっ、こっ、コオロギ!!?なんで!?!?」
「はぁ…………すまんなニィちゃん、ちょいと引っ込んでてもらえねぇか?」
「あっ、ごっ、す、すいませんっ!!!」
できるだけ威圧感のないよう、優しくお引き取り願う。君は悪くないよ〜、悪いのはややこしいことしてた俺の方だよ〜
だが俺の願いは通じず、男性プレイヤーは青い顔をして逃げるように離れていった
ごめんよ〜〜〜!!君は悪いやつじゃないんだ。むしろこういう場面で率先して助けに入れるいいやつなんだよ!!
後でなにかお詫びしないとな……
それと、一番耳障りだったあの脳みその使い方を知らないガヤ共も、これで静まって………いなかった
俺への中傷は聞こえなくなった。だがやつらは次のターゲットを見つけて、「悪人」叩きを続けている
不愉快だからできるだけ耳から遠ざけようとしてるんだが……「あいつコオロギの邪魔するとか自惚れすぎ」とか、「女にいいかっこ見せようとして結果自分の頭の悪いとこ晒しててダッサ」とか、聞きたくもないのに聞こえてくる
そう、やつらあろうことか次のターゲットにあの勇気ある男性プレイヤー君を選んだのだ
生憎あいつらは、勘違いで人に暴言を吐いたことを恥じいたり気まずくなったりする感性を持ち合わせていない
悪いとすら思っていない。悪いのは勘違いした自分ではなく、勘違いさせるような情報だと考えているのだろう
よく「詐欺は騙される側も悪い」と言うと「騙す側が100%悪い」と文脈の読めないバカが反論してくるが、どっちがより悪いかじゃなくてどっちも悪いって話だ。というか、「騙される側は頭が悪い」。悪さの種類が違う
というか、勘違いどうこうはあまり重要じゃなく、その早とちりで罪のない人をボロカスに叩いたことに罪悪感を覚えないのか?と言いたい
まあどうせそれを言ったところで、「勘違いする状況ガー」とか言うだろう。だからそこじゃなくてだな……
まあ、これを理解できる知能と自分の非を認められる知性を持っているなら、最初からこんなことはしないんだが
ああ腹が立つ。自分が叩かれてる時の数十倍腹が立つ
自分が言われてる時は、言い返したところでやつらは絶対に自己を省みないし言い返した時点でやつらと同レベルになってしまうから我慢できてたけど……
本当に不愉快だ。こいつら全員BANされないかな
……ふぅ、切り替えよう。今はイベントに集中だ
あの男性プレイヤーには後で目いっぱいフォローしよう。「君のおかげで事が上手く運んだ」って、でかい声で大々的に言ってやろう
こんなことしてもやつらは絶対に反省しないが、少なくとも彼は少しは救われるだろう
「………貴方は、人間の中でもかなりの影響力があるようですね」
「……………………まあ、な」
もう一個の面倒事ーーーーーー!!!
あーーーもーーー!!絶っっ対へんな進行フラグ踏んでんじゃねーかーーー!!!
はいっ!切り替え切り替え!!
なにがどう変わったかは今は無視!後で修正しよう!!今はセリフの続きをしよう!!
この大量のプレイヤーが見てる状況でな!クソが!!
おい動画回すな!!!
「あ〜、どこまで言った?あぁそうだ、お前の探してるやつの名前だったな」
「……そうでしたね、聞かせてください」
「そいつの名前は、「ナビス」だ」
「ナビス、でしたか……」
「「ナルコ」じゃなくて残念だったか?」
「なるほど……どうやら、聞く価値はあるようですね」
一挙手一投足、発言の一つ一つを大勢の観衆に監視されながら、セリフを間違えることなく発する
緊張で声が上擦りそうになるのを、周りのやつらはジャガイモか壁についたハナクソだと思うことで気を紛らわせる
「言いたいことは簡単だ。こっちで起こされたいざこざは、極力こっちでなんとかする。あんたらは関わらなくていい」
「……できるのですか?」
「なんとかするさ。それよりも、あんたは自分らの心配をするべきだな」
「ほう?」
「獅子身中の虫ってやつだな。伯爵には気をつけろよ?」
「なぜ、貴方が私達の内情を把握しているのですか?」
「ま、信じなくてもいいさ。あんたが心のどこかにとどめといてくれたら十分だ」
「……わかりました。信じるには値しませんが、記憶しておきましょう」
こう言っているが、「ジア」は必ずこのことを上へ報告する。主観などを交えず、ありのままを話すはずだ
そうなれば忠告は彼女の陣営全体に広まっていくだろう。「伯爵」にも伝わってしまうが、それも想定内。むしろ伝わった方がいいらしい
なんにせよ、これでイベント完遂だな!
これでこの世界はハッピーエンド方面にグッと寄ったはずだ
おっと、まだ気を抜いちゃダメだぞ俺?
こっから「ジア」が転移で退散して、俺も『リターンホーム』で帰って初めて緊張の糸をほぐそう
さあもうひと踏ん張り!
「では、私たちは一度帰還させていただきます」
「そうか。俺との会話を忘れるなよ?じゃあ気をつけて…………私たち?」
「リリー、帰りますよ」
え?「リリー」?リリーも来てたのか?
「ジア」だけだと思ってたのに……今の俺じゃ気付けない高度な隠密系スキルを使ってたのかな?
でもなんでリリーだけ?ジアは変装だけでそのまま?
やべぇ、俺の知らないパターンかも……
イベントに支障は、多分ない。ジアに忠告を伝えられたらそれでいいので、会話を遮られたりいちゃもんつけられたりしなければ、ジア1人なのと変わりない
なにも問題ない、はずだ
だがどうも嫌な予感がする
なぜリリーは今まで気配を消していたのか?その理由がわからないと不安が────
「あ!!もうおはなしおわった?!」
「っっ!!?!?」
ジアの座っていた2人席、ジアの対面にあった椅子。誰もいないはずのその空間から、声は聞こえてきた
文字の一つ一つ全てにアクセントをつけているような、非常に特徴的なわざとらしい喋り方
ち、違う!!アレはリリーなんかじゃない…!!
「いつまで食べているのですか?」
「おいしいから!」
「答えになっていません。持ち帰っていいので、ここを離れますよ」
「なんで?!」
声のする場所に突如出現した、子供の姿をした異物
身長は100cmほど。男児とも女児とも区別のつかない、第二次性徴期を迎えていなさそうな体型
くりくりの目はぱっちりと開き、閉じない。魚のように瞬きを一切しない
喋る時は忙しなく動く口は、喋らない時はまるで漫画のデフォルメのように半円形にパッカリと開いた形で固定される
肉のお面でもつけているかのような、無機質で不気味な表情だ
俺はアレを知っている。知っていたはずなんだ
なんで今の今まで忘れてたんだ俺!!!
本名不明、種族不明、正体不明
どこから来て、なんのために行動しているか、なにもかもが不明
サービス開始から16年もの歳月があったにもかかわらず、わからないことだらけの存在
アレは、「『公式鯖』限定NPC」の一人
その中でも一際に危険な存在
アレの名前は誰にもわからない
なので、人々はこう呼ぶ────
─────「歩く戦争フラグ」




