この先、排泄物があるぞ
「またド派手にやったなぁ〜ほんとに」
前回と同じく影の中に避難していた俺が顔を出せば、ボスエリアはすごく見晴らしのいい光景になっていた
アカハネのフルマックスバーストは、ここにある全て………俺が『シャドウダイブ』の影用に出した[大岩]以外の全てを消し飛ばしていた
まばらに生えていた木も、[マーダーベア]の死体も、ついでにドロップアイテムも
………まあ、別にいいんだけどね?マーダーベアのドロップなんて腐るほどあるし?
属性結晶がドロップしてた可能性はあるけど、どうせ10%だから出てるわけないし?[水結晶]と[風結晶]の二つがドロップする可能性があったけど、どっちか一つは出る確率にしても19%程度だし?
……1%の確率で、水と風両方の属性結晶がドロップしてて、それを消し飛ばした可能性は………考えないようにしよう!!
「ピィ……」
「ん?どうした?ちゃんと倒せたじゃんか」
「ピィィ……」
「あ〜、もしかして復活使わずに倒したかったのか」
「1人で倒す」というのを有言実行できたのに、アカハネはどこか浮かない表情だ
どうやら、最後の超回復任せのゴリ押しで勝ったことに納得できていないっぽい
たしかに、俺から見ても判断ミスだと思う場所はあった
拘束に成功した時、あの瞬間に仕留め切ろうと欲張らずに火炎ブレスにしておけばよかったな
その後はマーダーベアは炎の拘束を警戒して、手足に速度上昇の風属性バフを使うことを躊躇うはずだ。そしたら拘束とブレスでじわじわ削り殺せただろう
「ま、何事も経験だな」
「ピィ……」
「それと、『バーニングストライク』は別に全魔力を注ぎ込む必要はないんだぞ?」
「ピィ?」
「チャージに時間がかかるし、〈めまい〉になったら明らかな隙だろ?すっからかんになるまで使わず、ちょっと残しとけばいいんだ」
「ピィ……ピィ!!」
アカハネはまだまだ経験が足りない。だって産まれたばっかだもん
これからゆっくり学んでいけばいいさ
というか後衛職にソロで戦わせてる時点でおかしいんだけどね。アカハネみたいなタイプは前衛に守られながら後ろから安全に火力出すのが仕事だ
いや火力出すっていうかそもそもの話、アカハネの本職はヒーラーなんだけど。アタッカー性能はついでなんだけどな
うん、これ俺が悪いな
「1人で行けるか?」なんて聞いちゃったけど、アカハネの育成に一番大事なのはチームプレーの経験じゃん
こっからはちゃんと俺も戦闘に加わろう
▼
チュートリアルの国『プリムス王国』最後の街、『王都プリムス』
他の街より多少品揃えがいいだけで、これといってできることのない街。中央に小さな王城が建っている程度だ
一応王都ということで、各ギルドのAランク試験を実施する権利が与えられているくらいだな
ここから更に先には、二つの国の国境と、どの国も保有しない緩衝地帯が広がっている
なんで国境に王都なんてあるんだ?国防上危険だろ?と思うだろう。まあいろいろあったのだ
それならなんで奥に遷都しないんだ?と思うだろう。まあいろいろあるのだ
説明めんどい
そんな王都の周囲の環境なんだが、かなり特徴的になっている
というのも、馬系の魔物ばかりいるのだ
種類はいくつかいるが、どいつも同じような特性を持っている
戦闘能力は高くないが、足が速く、ダッシュでスタミナを消費せず、人が乗ることができ『騎乗』系スキルで乗りこなすことができる
この先は広大なオープンワールドが始まる。国家間の移動など、人の足では数日かかることなんてざらにある
だからここで馬系の魔物を『テイム』して、プレイヤーが走るより速い速度な上スタミナ回復を待つ必要もない快適な旅をしてね、という、ゲーム開発からのメッセージなのだ
『テイム』習得を強要させられるけど、この先『テイム』はさらに重要になってくるから、ここで覚えておいて損はないぞ?
ゲームを遊び尽くした廃人共がいろんな縛りプレイに挑戦してたけど、「『テイム』系スキル禁止縛り」が一番辛そうだったからな
まあ、廃人はここで馬系魔物をテイムすることはほとんどなかったけど
大体みんな、次の移動手段が出るまで時間スキップするからな。それまでの移動は乗り合い馬車でなんとかするかんじだ
でも、ここじゃ時間スキップはできないし、俺もなにかしらテイムしていこうかなぁ〜
テイムするとしたら、プレーンの[ホース]からじっくり育成していきたいとこだけど、今育成中のモンスが2体もいるし……
どうせ馬系は後々使わなくなるし、最初から強い早熟型でいっかな
「ピィ!」
「お、エンカウントしたか」
俺らが王都へ向かって歩いていると、一頭の馬に気づかれた。そいつの周囲にいるやつらもリンクし、合計8体くらいの馬が俺へ向かって駆けてくる
普通の馬にしか見えない[ホース]、ジャンプ力の高い[ホッピングホース]、筋肉量の多い[マッシブホース]、肉食化した[タイガーホース]など、種類は様々だ
よし、連携の練習だ!
「行くぞアカハネ!………薙ぎ払え!!」
「ピィッ!!」
「「「「ヒヒィーーーン!!?」」」」
連携っつっても、こいつらアカハネの攻撃でワンパンだからなぁ………
わざと引きつけて戦う練習してもいいけど、先制攻撃できる時にしないのはそれはそれでよくないし………
まあ、連携練習はボスクラスの魔物相手でやっていこう
「あー爽快爽快。さてドロップ回収………ん?」
「ブルヒィン!!」
アカハネの火炎ブレスで一掃され、火の絨毯になった草原から、一頭の馬が無傷なまま歩み出てきた
否、そいつは馬ではなかった
その顔は、「馬面」と揶揄される長方形の細長い形ではなく、鼻先がシュッと細い三角形をしていた
足の先にある蹄は、蹄鉄の似合う一枚爪ではなく、先の割れた二枚爪であった
そう、こいつは馬ではなく…………鹿だった
「うわ、そういやこいつがいたか」
「ピィ…?」
「ブルヒィン!」
[ホースディア]
角の生えない鹿の魔物であり、その体形や体色は遠くから見れば馬に見間違うこともある
こいつは、馬に擬態した鹿の魔物…………ではなく、自分が馬だと思い込んでるだけの鹿の魔物なのだ
つまり、ぶっちゃけちゃうとおふざけネタmobだ
「アカハネ、こいつは俺がやる」
馬系の魔物は進化して上位種になると、とある特殊なパッシブスキルが発現する
『馬耳東風』。効果は、「魔法・呪文によるデバフ効果の一切を無効化する」といったものだ
魔法によるデバフには必中のものもあり、スピード型の天敵なので、それをカバーできるスキルなのだ
んで、こいつも馬に擬態している……じゃなくて、自分が馬だと思い込んでるので、『馬耳東風』に似たスキルが発現している
思い込みの力ってすげー
その名も、『鹿の耳に念仏』
効果は、「魔法を無効化する」
そう、霊体系の逆バージョン、魔法完全無効なのだ!
馬鹿故に大事な部分がごっそり抜け落ちた結果、とんだぶっ壊れスキルになってしまったのだ
まあ、魔法を全部無効化しちゃうから、デバフや攻撃だけじゃなく、バフや回復も効かなくなっちゃったんだけどね
代償が大きすぎる
そんなわけで、攻撃技がぜんぶ魔法系なアカハネとは相性がよくない
一応火炎ブレスは魔法じゃないはずなんだが、「なんか魔法っぽいから無効化」されてしまった
いや判断するのお前かい!!
「さて、馬刺しに……じゃない、もみじ肉にしてやる」
「ブ、ブルヒィンッ!?」
なので、俺が物理でボコボコにしてやろう
拳を握り、『身体強化』等の自己バフをかけて[ホースディア]にダッシュで肉薄しようとし………
グニュゥゥ
「……………」
足裏に、非常に不快感のある感触が伝わった
立ち止まり、足を退けてみれば、茶色いホカホカのナニカが、俺の靴の形にへこんでいた
そして、俺はVITが3下がっていた
「ブルヒィンッ!」
「こんのクソ野郎…!!」
ウマシカの馬っぽくない嘶きモドキにイラっとくる
そうだった。こいつにはこれもあったなクソが
[ホースディア]が使える数少ないスキルの一つ、『脱力の馬糞』
戦闘中、特定の条件で脱糞し、その糞に触れたもののステータスをランダムに3下げるという効果だ
これが鹿の糞みたいなコロコロしたタイプじゃなくて、馬糞のようなぼってりとしたタイプだから不快感マシマシだ
デバフを喰らう馬糞で、「デ馬糞」って呼ばれてる
しかもこのおふざけmobのおふざけスキル、たった3しか下がらない弱いデバフだからと、それ以外の部分がべらぼうに強化されている
なんとこのデ馬糞、あらゆる耐性・無効・反射・吸収などの対策を全部貫通して、絶対にデバフを通してくるのだ。魔法障壁で防いでもデバフがかかるし、物質を透過するはずの霊体にも被弾する
しかもこの貫通効果、無駄に最上位クラスに設定されており、『馬耳東風』や『鹿の耳に念仏』はもちろん、デバフ完全無効なラスボスや神クラスの存在にも通用してしまう
まあ、通用したところで3しか下がらないんだけど
ついでに味方にも効くので、自分で踏んで自分にデバフがかかるバカもたくさんいる
そしてこのデバフ、解除スキルも全部無効化する
デバフを消すには、デバフを付与したデ馬糞を消すのが唯一の方法なんだけど……このウンコ、破壊できないのだ
たとえドラゴンの全力ブレスが直撃しても、神の一撃が叩き込まれても、絶対に破壊されない。初心者装備に救済措置として付与されているのと同じ、「不壊」属性があるんだ
不壊というか不快というか
このデ馬糞を消す方法は2つ
デ馬糞を作った[ホースディア]をぶっ殺すか、そいつの戦闘状態が解除されるかだ
こんな不快な目にあわされて逃げるわけにはいかないので、ぶっ殺させていただきます
でももうウンコ踏みたくないので、この場から弓でハリネズミにさせてもらいます
「『三本矢』『ホーミングアロー』『豪射』『溜射』『連射』……」
「ブルヒィィィン!!?」
敵意を向けられて脱糞、攻撃を向けられて脱糞、攻撃が自分に放たれて脱糞、攻撃が自分に迫ってきたのを見て脱糞、攻撃が当たって脱糞、ダメージを受けて脱糞、痛くて脱糞、怖くて脱糞、びっくりして脱糞、逃げようと走って一定距離動いたから脱糞、スタミナが減って脱糞、一定時間経ったから脱糞、また攻撃が放たれて脱糞………
ささいなことでぷりぷりぷりぷりと……!!
凄まじい快便を誇るクソバカのせいで、この場には一瞬で100近いデ馬糞がひり出された
あーもう無駄に体力が多い!!さっさとくたばれや!!
「ブルヒィ───」
「ステータスだけは無駄に優秀なのがまた腹立つ……」
攻撃スキルどころか攻撃モーションすらプログラムされていない完全なおふざけmobなので、反撃せず糞を撒き散らしながら逃げ回るバカを撃ち続ける
無駄に高いVITに守られた無駄に多いHPをようやく削り切り、バカはポリゴンへ還った
それと同時、ここを埋め尽くす勢いで出されていたデ馬糞も消滅。僅かに下がっていた俺のVITも元に戻った
「はぁ、そうだった…。いつもここを駆け抜けてたのって、このウンコマンをスルーするためだったわ……」
「ピィ?」
ムキになって戦っちゃったけど、こんなやつは相手しないのが賢い選択だ
経験値はそこそこ美味しいけど、魔法が効かないから狩り効率も悪いし。ドロップもゴミだし。ゴミクソだし
「さっさと街に行っちゃうか。『上級隠密』」
このフィールドでのレベリングは諦めて、街に直行
時間も時間なので、噴水の転移登録だけしてハウスへ帰った
みんなは「馬耳東風」と「馬の耳に念仏」の違いは知ってるかな?




