ノーと言えるヒヨコになろう
「ピィ、ピィィ……」
「ふぅ、危ないとこだった」
[大岩]の影からぬるっと顔を出せば、目を回したアカハネがふらふらよちよちしているところだった
こりゃあ魔力を全部使って〈めまい〉になってるな
が、すぐにシャキッと復帰
不死鳥は魔力の自動回復速度も早いんだ。普通の生き物なら1分に0.5〜1%ずつ回復するところを、不死鳥は5秒で1%回復しちゃう
おかしいよなぁ……後衛遠距離職ってのは、相手とカチ合う必要のない場所から火力を出せるかわりにコスト消耗が激しいってのが一般的だ。というかゲームバランス的にそうでないとおかしい、のに……
不死鳥はその消耗すらも自動で高速回復してしまう。まさにチート生物だよ
「ド派手にやったなぁ〜、というかド派手にやりすぎだな。俺まで巻き込まれるとこだったぞ?」
「ピィ……」
「なんであの技使ったんだ?他にもやり方はあっただろ?」
「ピィィ……」
俺が聞くと、シュンとへこむアカハネ。どうやら反省しているらしい
本当になんであれ使ったんだろう?
まぁまだまだ子供、というか産まれたばっかだし、はっちゃけてみたくなったのかな?
強い相手を見て、今の自分の全力を使ってみたくなったとか?
…………いや、もしかしたら
「もしかして、1匹も俺にヘイトを向けさせず、全部1人で始末するためにああしたのか?」
「ピ、ピィッ!」
「俺ならアカハネの攻撃を避けられるって信頼して、ああしたのか?」
「ピィッ!ピィッ!」
なんてこった、「1人で倒す」を忠実に実行しようとしてあんな無茶をやっていたことが発覚したぞ
あのとき少し悩んでたのも多分、「仲間を攻撃に巻き込まない」ってのと「1人で倒す=自分以外にタゲを飛ばさない」ってのを両方実行しようと考えてたんだろう
結局両方を守るのは無理で、「巻き込まない」を一旦切り捨てることになったけど
なるほど、無理難題を押し付けちゃってたのか……
これはちょっとアカハネに教えておく必要があるな
「いいかアカハネ?無理なときは無理って言っていいんだぞ?」
「ピィ…?」
「指示を全部こなす必要はないんだ。できないときはできないって言う……あー、首を横に振るんだ。できなくったっていいんだぞ?そん時は俺もまた考え直すから」
「ピィ………ピィッ!!」
普通ならモンスの教育はまず、「主人の言葉を理解し、命令に絶対従うこと」を教え込むのだが、アカハネにはそれをスキップ
「命令が無理な場合は無理と主張する」という次のステップから始めることにした
親密度が高い状態だと逆に難航する教育だが、アカハネは育成始めたばっかりだから簡単にできるだろう
いやぁ、本当に育成が楽だなぁ
こりゃあ最初からAIレベルの高い個体がテイムできるまで厳選する廃人の気持ちも理解できてしまうな!
▼
『ファスト』周辺のフィールドをぐるっと一周。そのまま北上し『セカン』、『サーズ』と順々に巡り、各地で順調に[精霊門の欠片]を集めていく
戦闘の半分くらいはアカハネに任せている。人目の多いところはフードの中に隠して俺がやってるけど
火を吹くヒヨコが悪目立ちすることくらい、バカな俺でもさすがにわかるさ
「よし、今のところ漏れはないな」
ゲットした欠片を確認しながらメモにチェックを入れていく
俺の目的は全種類の収集。もしポイント目的なら、延々と[ストーンゴーレム]を周回しまくって[精霊門の欠片・魔法金属]を大量ゲットするけど
こんなチュートリアルのイベントでガチったところで報酬はどんぐりの背比べだ
まあ『公式鯖』ならポイントで順位がつくかもしれないけど、どうせ一位になってもどんぐりが松ぼっくりになるくらいだろう
それに順位がつくならなおさら俺が上位を取りに行くのはよくないし
「えーっと、コイツからゲットできる欠片は……新しいのはないな」
「ピィ?」
「ん〜……戦ってみたいか?」
「ピィ!」
欠片集め巡りをしてきた俺は現在、『サーズ』からその次の街『王都プリムス』へ向かう道の中間地点にいた
目の前にはボスエリアが立ち塞がっている。が、ここを一度クリアしたことがある俺はもう一度挑戦する必要はなく、やろうと思えば素通りすることができる
でもアカハネがやりたがってるし、一回だけ行ってみよう
どんな戦いになるかな?
ボスエリアに侵入する
すると奥から、体長4mはあるドデカいクマ、[マーダーベア]がノシノシ歩み出てきた
圧倒的なパワー、圧倒的なスタミナ、見た目通りのタフネスさ、魔法に耐性のある分厚い毛皮
巨体に見合わず俊敏で、多少の小回りも効く。足止めしようにも多少の攻撃じゃ怯まないしダウン値もかなり高い
小細工とかはない、順当に強いタイプのボスモンスターだ
「木が生えてるが、あれは構わず燃やしちゃっていいぞ?あと俺のことは気にせずバースト……『バーニングストライク』も使っていいからな」
「ピィ!」
「さて、アカハネ………1人でやれるか?」
「ピィ………」
ちなみに『バーニングストライク』はさっき女王アリとその取り巻きを一撃で殲滅したあのスキルだ。長いんでみんな「バースト」って略してる
フェニックス系統の初期技でありながら最終盤まで通用するブッ壊れ技だ。優遇されすぎである
そして、またアカハネに判断を任せてみる
俺の見立てじゃあまあ負けることはない、でも100%勝てるかはちょっと微妙、くらい
[マーダーベア]って意外と強いのだ。何故か毎回出オチで頭ぺしゃんこになってるイメージしかないけど
アカハネもその強さは感じ取っているらしく、かなりじっくり吟味しているようだ
さぁ、どう判断する?
「……ピィッ!」
「……本当にか?無理なら無理って言っても……」
「ピィッ!」
「……そうか。なら、任せたぞ!『上級隠密』」
[マーダーベア]の登場ムービーが終わるギリギリまで悩んでいたアカハネだったが、最後には力強く頷いてくれた
また女王アリのときみたいに無理に命令を遂行しようとしてないか、念を押してみたが……
返ってきたのは、二度目の力強い肯定であった
そこまではっきりと意見を言えるのなら、アカハネの意思を尊重しようじゃないか
ふむ、やはりAIレベルが最初からかなり高いな
普通なら「できないならできないという」って教育してすぐは、ほんのちょっとでもできない可能性があったらすぐ首を振るようになる
主人の言葉を正確に忠実にこなそうとして、可能性が限りなく低くても安全を第一に取ってしまう
それはそれでもいいのだが、勝負所というのは安全マージンばかり取ってたら勝てなくなる
テイムモンスの知能面の育成は、まずはわがまま放題なバカAIを、主人の命令に絶対に従う忠実な僕に矯正するところから始まる
そんで命令をバカ正直になんでもやろうとするイエスマンになったモンスを、今度はダメな時はダメと意見できる自己判断力を身につけさせる
それだとなんでもかんでもダメで八方塞がりになるので、いい塩梅を自力で測れるアバウトさも求めていきたいんだけど、これがまぁまぁ難しい
なんというか、介助犬の訓練みたいなことをやらされるのだ
そんな面倒くさい育成が、今回の「アカハネ」は初期の段階でほとんど完了しているのだ
あとは細々とした微調整と戦術を教え込むくらい。すんごい楽
【テイマー】系ジョブが極めるのに他ジョブの5倍は労力がかかるって言ったけど、その手間の半分くらいをスキップできたのだ。ほんとありがたい
まあ、それは一旦置いといて
「ピィ……ッ!!」
「ウヴゥゥゥ……!!」
今この場所では、10cmのヒヨコと4mのクマのガチバトルが始まろうとしていた




