誰かがやらなきゃ
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翌日。今日も今日とて『AWR』にイン
今日は、前々から予定していたある特殊イベントをこなすつもりだ
といっても、それはゲーム内の明日、現実の夕方過ぎぐらいから始まるはずだ。それまではいつも通りのルーティンをこなそう
「ピィ!」
「ーー!」
「おぅ、おはよう。まあ夜なんだが」
ログインしたら、炎のように真っ赤なヒヨコと、人型の霧のような白いモヤが俺を出迎えてくれた
アカハネとミュラだ
アカハネは一つ進化をして、[フェニックス・チック]から[フェニックス・キッズ]になったぞ
まだ風切り羽は生えていないが、ホワホワの赤い産毛が生えて、自分の足でてちてち歩けるようになった
それにお目目もぱっちり開いて、黒曜のよう……というより、太陽の黒点のような黒いくりくりの目で見つめてきている
「ピィッ!ピィッ!」
「もう自分で食えるだろ……ほら、食え、チビ」
アカハネがこっちを見ながら口を精一杯大きく開け、飯くれ催促をしてきた
俺は面倒くさがりながらも、餌箱から砕いた[岩塩]の欠片を一つ摘んで口に放り込んでやる。アカハネは口の中で塩に火をつけ、その黄色の炎の味を堪能している
あんま甘やかすのもいかんな。好感度だけが上がりすぎちゃうとなぁ……
「ーーー……」
「ん?ミュラもなんか食わせて欲しいのか?」
「ー、ーーー!!」
アカハネに餌付けしているのを見て嫉妬っぽい声を出していたミュラにそう話しかけるが、首をぶんぶんと振って拒否された
まるで「自分はお兄ちゃん(orお姉ちゃん)だ!赤ちゃんじゃない!」と言い聞かせるかのように
年長者としての自覚が出てきた、みたいな?
「ピィッ!ピィッ!」
「もうやらんぞ」
「ピィッ!ピィッ!ピィッ!」
「そんな声で鳴かれても、やらんもんはやらん」
食べ終わったアカハネが追加をピヨピヨおねだりをするが、ここは心を鬼にして厳しく接する
なんとも可愛らしい鳴き声だ。とてもあのイカつい親鳥から産まれたとは思えん
いやまあ、幼鳥の甘え声と成鳥の威嚇声じゃ比較にならんのはわかってるんだけど……
なんつーかあの親鳥、聞いてると「あ〜、鳥の祖先って恐竜なんだな〜」って思っちゃうようなドスの聞いた鳴き声出すからさぁ……
「アカハネは一旦一人で遊んでな?今からミュラのレベリングするから」
「ピィ?ピィ!」
「ーー!ーー?」
「ピィ?」
「ーー!ーー?」
「ピィ!」
なにやらミュラがアカハネとコミュニケーションを取ろうとしてる。なんだろう?「大人しくしてなさい!わかった?」って言ってんのかな?
先輩として指導してるつもりなのかも
そんなモンスたちのやりとりを横目に、マーケット機能をちょっと確認する
アイテム名検索、[岩塩]っと
「……ほっ。よかった、元に戻ってる……」
昨日はアカハネにあげるための[岩塩]を片っ端から買い占めた結果、相場がどんどん上がっていってしまった。買い占め前の5倍になったときは流石にやらかしたと肝を冷やしたぞ……
まあ100Gが500Gになっただけなんだけど
[岩塩]は採掘してるとたまに出てくるハズレドロップ。石よりレアだが鉱石よりは出やすい。金属を欲するジョブは結構あるので、副産物の[岩塩]は飽和状態だ
需要のほうは、【料理人】が料理に使うぐらい。それも、一個が拳大もある[岩塩]が一つあれば、50皿分くらいは賄えるので、需要もほぼないに等しい
だからといって、手付かずの初心者環境を俺みたいなのが身勝手に荒らすのはよろしくない
昨日は調子に乗って200万G分ほど買い溜めちゃったけど、今後は必要な分だけ買っていこう
「よし、今日も料理やってくぞ〜」
「ーーー!!」
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時間は過ぎ、夜が明ける
ミュラが包丁三十刀流でどでかい人参をみじん切りにしようとして台所をぐっちゃぐちゃにしたり、なかなか火が通らないと思ったらいつのまにかアカハネがかまどの炎を全部食べてたりと、なんかいろいろあったが、それはまた別の機会で
朝になったのでミュラはおやすみし、アカハネにバトンタッチ。外へ繰り出す
とりあえずサクッとデイリー採掘フィーバーはこなして、と。さて、どこに行こうか
う〜ん、アカハネのレベリングはそこまで急務じゃないからなぁ……
[フェニックス・キッズ]になった時点で、自己蘇生としての目的は達成できているのだ
それに、パワーレベリングは親密度や信頼度などのパラメータ調整が難しくなるって欠点もあるし
あ、そうだ!精霊門イベントやろう!
一番の鬼門にして唯一の難題だった[精霊門の欠片・卵]を手に入れたし、あとは各地を飛び回って全部の欠片をコンプリートしよう!
よし、端から順番に集めていこう
てことで、まずは『ファスト』からだな
「あっ、ちょっと待ちなおっちゃん」
「え、お、俺!?」
『ファスト』に転移し、とりあえずスライムでも狩るか〜と思いながら門から外へ出ようとしたら、門の横にいた人にいきなり呼び止められた
え?俺なんか悪いことした?
「あんた、見るからに第二陣じゃないだろ?ここでなにするつもりだ?」
「え?いや、ただ欠片を集めに……」
「欠片か。それ別のとこじゃできんのか?」
「あぁ、ここでしかゲットできんやつが欲しくてな」
「どうしても今する必要はあるのか?」
「え?いや、別に今すぐ欲しいってわけじゃないけど……」
なんだ?なんで俺止められてんだ?
もしかして狩場を独占とかするつもりか?
「そうか。ならすまんが五時間後にしてもらえるか?」
「……へ?別にいいけど、なんで?」
「ほら、これを見てみろ」
そう言って、呼び止めてきたプレイヤーが俺に見せてきたのは、[瘴気量測定器]であった
今の数値は、一万を少し上回る程度だな
「まだ一万じゃん。それがどうしたんだ?」
「これのことは知ってるんだな。でも認識が甘いな。まだ、じゃなくて、もう、一万も溜まってんだよ」
「もう?」
「そうだ。あんたもどうせ、『五万ぐらいになってからストップさせればいいだろ』みたいに思ってんだろうが、それじゃ遅いんだよ。その段階になってから呼びかけ始めても行き渡らないんだよ」
「そ、そうなのか……」
『AWR』歴がぶっちぎりで長い俺になに講釈垂れてんだ?と最初は思ったけど、MMO歴に関してはパンピー同然だ
勝手気ままにゲームする大勢のプレイヤーに注意を呼びかけることの大変さは、想像はできても体感したことはない
彼が『できない』と言うのなら、俺は『そうなんだ』としか返せない
「すまんな。明日にでもなったらこんなことする必要もなくなると思うから、今日だけ我慢してくれな?」
「あぁ、わかったよ。…………それはそうと、まさかあんたは今日一日中ここで見張りと声掛けやるつもりなのか…?」
「まぁ、そうだな。交代はするけど」
「まじで…!?レベリングもせず、ゲームも楽しめないのに…!?」
経験値もお金もアイテムも入手できず、NPCとの交流もできないから好感度の変化もなく、ただただ注意喚起のために測定器と睨めっこしながら門前で突っ立ってるっていうのか…!?
なんでそこまでのことができるんだ…?
「まぁ〜〜〜、楽しくはないわな。でも誰もやらんとまたあのヤベェのが湧いて、俺ら含めた全員レベルダウンが起きかねんだろ?誰かがやらんといかんのだよ」
「そんな楽しくもないことを、率先して…?」
「ここで人の流れを見てんのも結構楽しいし、そんな心配せんでもいいぞ?俺らはやりたくてやってるだけだからな」
「そうか………じゃあ、頑張ってくれ。俺は草原は飛ばして森に行くから」
「おぅ、おっちゃんもゲーム楽しめよ〜!」
やばい、普通に尊敬した
自分の得にならない、それどころかこうしているうちにライバルはレベルを上げて差を離されているかもしれないのに……
自分のゲーム時間を犠牲にして、ゲーム全体のことを考えてくれる人がいるなんて……!!
今まで俺が快適にゲームできてたのも、こういう人たちが知らないところで尽力していたからかもしれない
『ソロ鯖』のときとあまり変化は感じなかったけど、俺の知らないMMO特有の厄介事なんかを人知れず片付けてくれていたのかもしれない
すげぇなぁ……
彼らみたいなプレイヤーを大事にしていけば、このゲームが廃れることもなくなるのかもしれないな
感謝しないと
………え?「お前はやらないのか」って?
『AWR』唯一の経験者で、未来の過疎化を阻止しようとしてるお前は彼らを見習って一緒に注意喚起しないのかって?
いや、その、それは………もう彼らがいるし、いいかなって………ほら、人数増えてもそんな意味なさそうだし………
代わってやれって?まあ、それは、その通りだけど………
正直、あんなことやりたくない。俺は自分の時間をゲームを遊ぶのに使いたい
被災地でボランティアしてる人のことを聞いて、尊敬はするし応援したくなるけど、自分も同じことしようとまではならない。家でダラダラしたい。ダラダラしてる間にも、助けを求めてる声が消えてってることはわかってるけど、動く気にならない
結局俺も、「誰かやれよ」って口では言うけど、「誰かやってくれるだろ」って自分からは動こうとしない、普遍的な口だけ人間だったってわけだな……
自覚しておきながら、直す気にもなれない。だって面倒くさいから
あーもうやめやめ、しーらねっ
楽しいゲームしよっと




