人権要素の一つ
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〈あなたは〈戦闘不能〉になりました。〈死亡〉状態になるまで、残り4:59…〉
〈インベントリに収納していたアイテムが数点、その場にドロップしました。[石][石][土][スライムの魔石]〉
〈今すぐリスポーンしますか? ▷はい いいえ〉
〈最後に登録していた地点、「個人ハウス、第一ベッド」にて復活します〉
〈初めての死亡のため、デスペナルティは免除されました〉
「ふぃぃ〜〜〜〜、難なく成功」
フェニックスの自爆で消し飛ばされた俺は、自室のベッドの上でリスポーンする
すぐにログを確認……よし、ゴミしか落としてないな
かなり身構えて挑んだけど、なんかあっけなく終わったな。あれか?しっかり準備して、資源を惜しみなく使ったからこんな安定してたのか?
いつもだったらコスパだのタイパだの、効率重視だのラストエリクサーだので準備もそこそこに回復をケチりながら行くから、セーブ&ロード頼りで上振れ狙いのトライアンドエラーになりがちだからな
それが、やり直しの難しい実質1発勝負になったから、逆に慎重になってミスが減った、のか?
あれだ、環状交差点はみんな気をつけてスピード落とすから逆に事故が少ない、みたいなやつだ
……わかりにくいな。例え話はやめよう
「てか、デスペナ免除か。これはありがたい」
「〜〜…?」
さっきまで寝てたのだろう、訝しげな表情をしたミュラが眠い目を擦りながら──目のあるだろう場所を手のようなものでぐしぐし擦りながら──壁をすり抜けて入室してきた
ノックぐらいしなさい。……あっ、手がすり抜けるからノックもできんのか
どうやら、俺が玄関からではなく家の中に突然湧いたのが不思議らしい
イベントとかを除けば、初めての死亡・リスポーンだからな
ログインで家中からスタートする時もあるけど、それだって家中でログアウトした時だ。出掛けて行ったのに家の中にいきなり出現したのは初のことだ
ベッドからのっそり身体を起こす
今の状態は死んだ時と同じ、パンツ一丁だ。ミュラしか見ていないとはいえ肉体美を晒す趣味もないのでさっさと装備を着直す
思考操作で一瞬で。瞬きをする間もないくらい一瞬で
「ほ〜れミュラ、お前の後輩だぞ〜?」
「ーー?」
「お前の弟か妹になるやつだ。性別ないけど」
インベントリから[不死鳥の卵]を取り出す
バスケットボールサイズの紅蓮の球体だった卵は、濃密な[神炎]に炙られて真っ白になっていた
そして、ピキピキと小さなヒビが入った
ミュラは弟分候補が入っている卵を興味津々に観察し、ペチペチと殻を叩く
そして何を思ったか、卵の中にズボッと顔を突っ込んだ
「〜〜〜〜〜!!?!?」
「なにやってんねん」
が、びっくりしたように勢いよく頭を引き抜き、その勢いのままグルングルンと空中で連続バク転じみたことをし始めた
あー、そっか。不死鳥って「神聖」属性も持ってるから、アンデッドのミュラには猛毒か
普段は超高密度な火属性の魔力で覆われてるから漏れ出ないけど、孵化前の卵に顔突っ込んだらそうなるわな
「怪我はないか?」
「ーー!!ーー!!」
「うん、お前が悪い」
「ーーー……」
第一印象が勝手に最悪になったけど、仲良くできるだろうか…?
そうこうしているうちにも、ヒビはゆっくりと大きくなり始めている
いやぁ、改めてコイツを見ると、ニヤニヤが止まりませんなぁ…!まさか人権モンスをこんな早くゲットできちゃうなんて!
持ってないやつは持ってるやつにどう足掻いても勝てない、それが人権要素。持ってる側が油断とかしてたら勝てんこともないけど、まあ十中八九勝てない
そんな要素の一つこそ、フェニックス系統のテイムモンスターだ
フェニックス系統の特色といえば、広範囲の炎攻撃、広範囲のバフ、超広範囲の回復、そしてなんといっても豊富な蘇生技だ
この特徴から、「レイドイベントの救世主」なんて呼ばれている
戦争やスタンピードとかの多対多、超巨大エネミー討伐とかの多対一といったレイド系イベントにおいて、他プレイヤーの参加枠は『ソロ鯖』では「冒険者NPC」に置き換えられている
のだが、こいつらはあんまし強くない。むっちゃ弱いってわけじゃないんだけど、なんというか頼りにならない。さすがにプレイヤーと同等の活躍はしてくれないのだ
証拠に『ソロ鯖』のレイド系イベントの9割ほどは、プレイヤーが活躍しないとクリアできない難易度になっている。まあゲームだからそれが当然っちゃ当然だけど
プレイヤー1人が俺TUEEEヒャッハー無双すればオッケーな難易度ならいいんだが、そうもいかない
中盤終盤の難易度がゴリゴリ上がってく段階だと、弱っちい味方陣営をなんとかフォローしながら、戦線を押し上げ押し留め、時には一時撤退させる必要性も出てくる
フォローに手一杯で自ら攻撃する暇なんてない戦場になってくるのだ
そこで大活躍するのがフェニックスだ
味方を自動で識別して、超広域にアホみたいな回復スピードの継続回復を展開し、一撃死でもない限りなかなか死なない半不死身の兵隊を作り上げる
近くの仲間には攻撃力上昇を主とした多大なバフを付与し、雑兵を精鋭に、精鋭を一騎当千の英雄に仕立て上げる
さらに片手間で攻撃も行う。当たり前のように広範囲高火力技ばかりだ。範囲技なのに、下手な雑魚敵はこれでワンパンされることもある火力が出る
ヒーラーとバッファーとアタッカーの全てで高水準を叩き出すチート級テイムモンスだ。こいつが一体いるだけでレイド系イベントの難易度がグッと下がる
そしてやはり、フェニックスといえば「復活」だろう
蘇生技を複数持つ上にクールタイム削減まで持っており、味方がポンポン死ぬような戦場でもガンガン生き返らせて無理やり立て直すなんて場面も結構ある
そして当然のように自己蘇生技もデフォルトで完備だ。もちろんパッシブ発動
しかもこれ、自分限定ではなく、「自分のパーティの誰かが〈戦闘不能〉になったら自動発動」なのだ。フェニックス自身が最優先ではあるが……
もしも、召喚主が死んだらどうなるか?
召喚主が〈戦闘不能〉になると、召喚していたテイムモンスターも一律〈戦闘不能〉になってしまう。この時にモンスの方だけ蘇生しても、主人が死んだままだとまたすぐに〈戦闘不能〉になってしまう
そのため、フェニックスは自身を先に蘇生させても意味がない。ならどうするか
なんと、自分が死んでるにも関わらず、召喚主が先に蘇生されるのだ。なんて便利で都合のいいパッシブスキルなんだ!
つまり、フェニックスをパーティに入れていれば、俺は滅多なことじゃ死ななくなったのだ
しかも、〈戦闘不能〉になってから〈死亡〉するまでの猶予時間が5分なのに対し、この自己蘇生のクールタイムは5分以下だ
蘇生されてもすぐ死ぬような激戦地だったとしても、起きてから0.1秒でも耐えればまた生き返らせてもらえるのだ
ほとんどチートである
さらにさらに、フェニックスは属性の一つに「不死」を持っている
アンデッド系モンスターも持っている不死属性の効果は単純、「〈死亡〉状態にならない」のだ
〈戦闘不能〉状態から5分以上経っても〈死亡〉しない。強制的に〈死亡〉状態にする状態異常〈即死〉も完全無効だ
蘇生猶予が無限にあって〈即死〉無効ってだけで十分強すぎるが、「不死」の真価はこれで終わりじゃない
ストーリー後半になると、蘇生手段がボコボコ増えてくる。敵も味方もなかなか死んでくれない長丁場な戦闘が頻繁に発生しやすくなる
そんな泥試合を終わらせるために注目され始めるのが、「確殺系アーツ」だ
確殺技は種類がいろいろあるけど、大体が「生きている相手に使ってもなんの効果もないが、〈戦闘不能〉状態の死体に使えば確定で〈死亡〉状態にできる」技である
つまり、蘇生待機中の死体を蘇生不可にしてしまうのだ
で、そんな確殺技すら無効化してしまうのが不死属性である
ヒーラーから先に潰すのが鉄板だというのに、そのヒーラーが不死持ちだ。なんと頼もしいことか
まあ、召喚主の俺が確殺されたら終わりだけど
それがバレるまでは無限蘇生で無双できるぞ?
対モンスターならこっからしばらくは負けなしだぞ?
楽しみですなぁ
「もうすぐ産まれるぞ〜?」
「ーー?」
こんなチート・オブ・チートなフェニックスだが、『決闘鯖』の「テイマー戦」に採用されることは少なかった
フェニックスは技の殆どが範囲技だ。効果範囲内に大多数を入れ込めた時は最強クラスの活躍をするが、単体性能はそこまで強くないんだ
まあ範囲技は複数相手に効果を及ぼす代わりに一人当たりの効果は単体技には劣ってないとゲームバランスとして成り立たないからなんだが
いや、フェニックスは単体相手のダメージも回復量も十分すぎるほど強いチート生物だが、他の採用候補モンスと比べるとどうしても見劣りしてしまう
オールラウンダーは使い勝手がいいが、『決闘鯖』で勝ち上がってくのは一点特化に突き詰めたようなやつらが多い
フェニックスもそれこそ、攻撃性能も回復性能も全部捨てて蘇生極振りに育成した、[イモータルフェニックス]って特殊最終進化にすれば採用されることも多々ある
もう不死な不死鳥だぞ?内容の意味が二重に重なった頭痛の痛い名前のネーミングだ
重ね言葉は文法ミスって扱われがちだけど、伝えたいことを強調するときにも使われるぞ!知らんけど
こいつがいるととにかく死なない。仲間にも「不死」を付与してくれるから、倒すには専用の対策を強いられるんだ
ただ育成がむっちゃ大変なんだよな。フェニックスはクエスト産モンスター。1キャラ1体しかテイムできないから、攻撃も回復も捨てさせると大分苦労する
ま、今回は[イモータルフェニックス]ルートじゃないからいいけど
「産まれるぞ!!注意しろ!!」
「ーー?ーー!?」
俺の両手の上で孵化しようとしている卵は、今もビキビキとヒビが全体にまわっており、隙間から強い光が漏れ出ている
イヤな予感を感じ取ったのかミュラが距離を取ろうとする。が、少し遅かった
───バッッカァァァン!!!!
「ーー!?ーーー!!?!?」
閃光と卵の殻が弾け、爆散する
ミュラが多分「目がー!?」って叫んでる気がする
俺は知ってたから大丈夫だったけど
至近距離で爆散を喰らった俺は〈盲目〉状態になり、卵の殻が顔にベチベチと当たっている
その内の一つが眼球に直撃する。だが、瞬きは一切せず、目をかっぴらいて卵の中央を凝視し続ける
ここは現実ではなくゲーム。目に異物が入っても、びっくりするだけで痛みは一切ない
来ると身構えていれば、砂塵の中に突入したとしても目を開き続けることが可能なのだ
そんなことよりも、産まれてくる瞬間を目にする方が重要だ
産まれた瞬間が、1番成功率が高くなるのだから
「───ピィ」
「『刷り込み』!!『テイム』!!!」
〈盲目〉の視界の中、うっすらと見えた影に向かって、『テイム』のアーツ『刷り込み』を使用する
鳥などの子育てをする卵生動物は、産まれて初めて目にするものを親だと思い込む習性がある
この習性を利用した血縁のない親子関係の構築こそ、刷り込み、インプリントである
これをゲーム的誇大解釈し、卵から孵化する生き物は全て刷り込み可能になった。虫とか魚とかも。てかこのゲーム、魔物のほとんどは卵で産まれる
産まれてきたときに『刷り込み』を使えば、『テイム』の成功率が増大する仕様となっているのだ
そして、俺の掌の上には、従魔契約が完了した雛鳥が転がっていた
「よし!お前の名前は、「アカハネ」だ!!!」
よっしゃ、さっそく育成開始だ!!!




