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転んでもタダでは起きない大根役者


「サっちゃ〜ん、いた〜?」


「ほんとにいたわ!ほらあそこ、タバコ吸ってるおじさん!!」



 慌てて『魔力操作』を解除、2つの魔法を霧散させたが、おそらく手遅れだろう。用意した保険が一瞬でなくなったぞ?


 声のした方に視線を向ける。そこには2人のプレイヤーと思われる人物が、俺の方を見ながらキャイキャイはしゃいでいた



「ね!言った通りでしょ?おじいちゃんが「正解の道にたどり着いたら、一度戻ってハズレの道を探索するときっといいことがある」って言ってたもん!!」


「何世代前のゲームよそれ……。でもそのおかげで、私たちも魔法使いのNPCを見つけたわ!!」



 一人は犬獣人の少女で、手には両手杖を持っていることからメインは【魔法使い】か【テイマー】だな。獣人は魔法との相性が悪く、獣型モンスターのテイム率が上がるから【テイマー】か?


 もう一人はエルフの少女で、腰にそこそこ立派な剣を装備している。こっちは断定できんな。剣が適正装備のジョブはたくさんあるし。革鎧を装備しているし【剣士】だろうか?


 二人の会話に聞き耳をたてていると、どうやら俺をNPCと勘違いしてるようだとわかった。よかった、新アバターの役目は首の皮一枚繋がったようだ



「それでこっからどうすればいいの?たしか好感度を上げないといけないんでしょ?」


「まかせて!私の魅力でメロメロにすればいけるわ!」


「サっちゃんがやったら逆効果じゃない?」


「ハハハぬかしおる」



 俺もそう思うぞ。少なくともそのエルフ体型(つるぺた)じゃ俺は落とせない。グラマラスとまではいかないが、お椀型の双丘がないとな。……なにを言ってるんだ俺は


 俺をそっちのけで盛り上がる二人は、どうやら俺に魔法を教わる気のようだ。魔法スキルを覚えるやり方の一つに、「NPC魔術師から魔法を授かる」ってのがあるからな


 だが、二人には悪いが断らせてもらうことにする。だってNPC専用の『他者にスキルを授ける魔法(名称不明)』を使えないし


 もし話しかけてきたら、そこら辺にいる浮浪者NPCみたいな感じで定型文しか返さないようにすれば勝手に諦めてくれるだろう



 ……いや、逆に悪手か?


 さっき彼女は「好感度を上げる」と言っていた。俺が話を取り合わないのを「好感度が低いから」と捉え、しつこく付き纏われたら厄介だ


 いずれ諦めてくれるかもしれないが、この付き纏いを管理AIが「粘着行為」と判断して、彼女たちに警告が行ったら気の毒だ。それに俺がプレイヤーだとバレる


 ……『D.E.Mクエスト』とやらを発行しただろう運営が、俺をどう見ているかはわからないが



 だが他の選択肢は思い浮かばない


 話しかけられても無視するか?いやそれもダメだ、このゲームのNPCはそこらのモブでもなにかしらの返答が返ってくる。寡黙なやつもいるが、それはネームドNPCがほとんどだから余計関わられることになる


 もういっそあの方法(ワキワキ)を教えてしまうか?なんだかそれがいい気がしてきた。でも噂が広がって他のプレイヤーまで押しかけてきたら面倒だな…



 ふと、あることを思い出す


 未来のこのゲームが過疎った原因はなんだったか?複数あるが、彼女らのような(おそらく)ライト層が離れたのは「欲しいスキルの習得方法がわからない」からだ


 なら俺が、本来隠されているヒントを小出しにしていけば、みんなはこのゲームに居着いてくれるかもしれない…?


 5年後も人気を保っていて、プレイ人口がそのままだったら、検証勢もその分増えて、そしてあの未知の『トゥルーエンド』も発見できるかもしれない…!?


 『D.E.Mクエスト』は、「『トゥルーエンド』に辿り着くために、このゲームの人気を維持しろ」というミッションってことか!?


 俺は『トゥルーエンド』がなんなのか知れる。得体の知れない運営は、ゲーム人口が増やせる。どっちもWin-Winってわけだな!!



 そうと決まれば、さっそくNPCになりきるための準備をする。といってもなにをすれば…?あ、そういや設定にボイチェン機能あったな



「ねぇ、そこのおじさ──お、おにいさん?ちょっとお話ししない?」


「サっちゃんドラマのヤのつく人みたい」


「エリはちょっと黙ってて」



 やっべぇもう話しかけてきた!?ちょっと待って心の準備が。俺はNPC、俺はNPC、ハードボイルドでちょっとお茶目なイケオジNPC……いかん、雑念が混じった



「…あ、あー。なんだぁ?おめぇら。ここは嬢ちゃんみたいなのが来ていい場所じゃねぇぞ?」


「大丈夫よ!私たちこう見えて結構強いから!」



 よし!なんとか自然なかんじで会話ができた、はず!俺の思ってるハードボイルドとなんか違う気もするが、それは二の次だ



「それで、おにいさん?さっき魔法を使ってなかったかしら?」


「魔法?う〜ん使ってたかねぇ。歳だから忘れっぽいんだわ、おじさんだから」


「聞かれてた!?くっ、AIの性能がいいわね……。そ、それで頼みがあるんだけど。魔法を私たちに教えてくれないかしら?」


「うひゃひゃひゃ!!おめぇさんエルフなのに魔法も使えねぇのか?こんなおっさんでも使えるのに?」


「し、しかたがないでしょう!私異邦人(プレイヤー)なんだから!」


「あぁ、異邦人ねぇ。変な奴らが来るとは聞いてたが、そういや今日だったな」



 今の笑い方は不自然だったかな?徐々に修正して大根役者なりにもう少し頑張ってみよう



「んで、魔法を教えろかぁ。別にそんぐらい構わねぇが」


「ほんと!?教えて教えて!!」


「でもタダってのはなぁ……」


「お願い!なんでもするから!!」


「ん?」



 今なんでもするって言ったよね?



「今なんでもするって言ったよね?」


「え?エリに言ったわけじゃないわよ?」


「(なんでも)ないです」



 えぇ…(困惑)


 それは置いといて、俺は条件を考えることにする。あまり簡単だったら釣り合わないし、難しすぎて保留にされたら面倒だ


 よし、あれにしよう。ちょっとパシらせてもらうぞ?



「それじゃあ、今から俺が言う物を、そうだなぁ、明日の朝1時までに持ってこい」


「朝1時、ってことはタイムリミットは5時間ね!それで、何を持ってこればいいの?」


「メモの用意はいいか?言うぞ?[コッコの羽]100枚と[ジャイアントビーの針]100本、[スパイダーの糸]3本に[オークの木材]10本だ」


「かなり多いわね。でも…うん、いけそう。わかったわ!すぐ持ってくるから待ってて!エリ、行くよ!」


「あ、待ってよサっちゃ〜ん!!」



 おお、すごい勢いで走って行ったな


 ちなみにさっき言ったのは弓と矢の素材だ。タイムリミットを定めたのは、ずっと待ち続けるのは俺自身の体力的に不可能だからだな。ログアウトされたり勝手に放棄されても待ち続けることになる



 俺は一安心し、新しいタバコに火をつける。とりあえず朝の1時まではここで作業をしよう。それが過ぎたらアバター変えてフィールドに出るつもりだ


 頑張れよ?サっちゃんとエリちゃん

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