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観測者




▲▼ (──日時不明──)




 そこは、なんとも形容し難い空間だった


 異様に整っている場所もあれば、情報量が無駄に多くごちゃごちゃした場所もあり、人間のような存在もあれば、腕がたくさんあったり目がたくさんあったり、人から逸脱した姿の者も蠢いている


 ただ、一言で言うとすれば………とても現実とは思えない


 それもそのはず。そこは現実ではなく、VR(仮想現実)空間の一つなのだ



 その摩訶不思議な空間に、新たに一つの存在が出現する


 その存在はこの空間の中では比較的マシな姿であり、スーツを着た男性のような見た目だった。ただ、目鼻口のないのっぺらぼうだったが


 そののっぺらぼうに、元からこの空間にいた奇妙なナニカの1人が話しかける




「あっ、重役出勤乙でーす」


「うんまあ俺重役だし間違っちゃいないよ?でも言い方どうにかならん?つか今日会議だから遅れるって言ってたよな?」


「あれ?そうでしたっけ?」


「あのなぁ……。いや、というかその身体なに?ま〜たヘンテコな見た目になってるな」


「えぇ〜かわいくないですか?フウセンイソギンチャク!触手がちょうどいいくらいの数でやりやすいんですよ!」


「いや、指がないと不便じゃないか?」


「この仕事、ほとんどがタップとスクロールでなんとかなりますからね!それに指が必要になったら生やせますし。ほぉら」


「うわ気持ち悪っ」



 のっぺらぼうのそばまでグニングニンと身体をくねらせて寄ってきたイソギンチャクが、触手の先端から5本の指をニュッと出した

 しかしイソギンチャクがなんらかの操作を誤ったのか、30本はある触手の全てから指が一斉に生えたため、とんでもないクリーチャーになってしまった


 ここはいわゆる彼らの仕事場であり、その仕事がやりやすいように自身のアバターを弄っているのだ。そのため、手や目が増えている人が多くいる


 普通そのようなことをしたら脳の処理が追いつかず持て余すだけだが、彼らは自分に合った身体にカスタマイズしているため、器用に動かせているようだ



「そんで?仕事はどうした?」


「はいもう滞りなく。滞りがなさすぎて暇で暇で仕方ないですよ」


「同じく暇です。暇すぎて部屋の模様替えしてました」


「この仕事暇な時間多いっスからねぇ。でも暇な時はユーザー観察してるんで全然苦じゃないっスけど」


「ちょい待てお前かい部屋めちゃくちゃにしたやつは!邪魔だからこのティラノサウルスをしまえ!!」


「違います!アクロカントサウルスです!!」


「どっちでもいいわ!!」



 のっぺらぼうとイソギンチャクの駄弁りに、同じく暇を持て余していた社員達がわらわらとよってくる

 その内の1人が、動くインテリアとして職場をノッシノッシと散歩していた大型肉食恐竜を渋々といった表情で削除(デリート)する



「開発の方は忙しいんスかねぇ?こっちの業務はGM対応とBANの処理、あと要注意プレイヤーのマーキングぐらいっスからねぇ」


「いわゆる「お問い合わせルーム」だからな。ユーザー数がまだまだ少ない現状じゃ、仕事も少ないのは当然だ」


「立場上はGM(ゲームマスター)ですけど、ゲーム開発にはほとんど関わってないからそこらへんの問い合わせが来た時はめんどいですけどね。一応システム内容は大体覚えときましたけど」


「すごいなお前」


「垢凍結やBANの権限があるんでGMで間違いじゃないんですけど、ゲームシステムをイジる権限はないんですよね。不具合報告とかは開発に回さなきゃですし」


「ほとんどは我々の判断で「仕様です」で返せる内容っスけど、ごく稀に我々でもわからないのがくるっスからね。やっぱり開発陣からだれか1人くらい引っ張ってこれないっスか?」


「難しいだろうな……。そもそもこの部署の存在理由が、開発陣からそういう煩わしいことを切り離すためだからな」



 楽な仕事だからといって、不満がないわけではない。それに今は楽でも、後にユーザー数が増え、最終的に完全解放されたときにどれほど忙しくなるかが想像できるだけに、今から不安に駆られている社員もいるようだ



「まあ、今のうちから慣れておくことだな。なんせこのゲームは、最終的に2000万人がプレイすることになるらしいからな」


「……それ前も言ってましたけど、なんなんです?日本のみのサービスって言ってましたけど、海外進出もする予定なんですか?」


「………まあ、その時になったらわかるさ」


「はあ……」



 なにやら意味深に言葉を締め括ったのっぺらぼうに、社員達は腑に落ちないように首をかしげる。……首がないものもいたが


 その時、イソギンチャクが思い出したかのように声を発する



「あ!そういえば会議だったんですよね?あのプレイヤーの正体も聞いてくれましたか?」


「いや、前と同じ答えだった。他のプレイヤーと同じように扱えってさ。あとこれ以上詮索するなって釘を刺されたから、あまり変なことはしないでくれよ?」


「えぇ〜?もう絶対なんかあるやつじゃないですかこの「クロート」さん!気になりますねぇ、せっかくワンポチで住所特定できる段階まで準備しといたのに」


「本当にやめてくれ、ここの全員首が飛びかねん、物理的に」


「物理的にってそりゃないでしょ!中世じゃないんですから」



 のっぺらぼうの軽い冗談にイソギンチャクが触手をくねらせて笑う。飛ぶ首がないから余裕だ



「しっかしなんなんスかね彼は?我々も知らなかった仕様をついて裏技みたいなことを連発したかと思ったら、プレイスキルのゴリ押しでボスモンスを周回するし……。元アルファテスターなんスかね?」


「知識と技量の両立による効率プレイですよね〜。RTA見てるみたいで見応えありますよね!」


「私はあまり快く思えませんね。彼の広めた情報のせいで、ゲームバランスが崩れかけているんですよ?いっそのこと、その知識は自分のためだけに使って欲しかったです。………そういう狙いで上が彼を放出したのかもしれませんが」


「自分もどちらかと言えば釈然としない派っスかねぇ。自分は開発陣じゃないっスけど、それでも頑張って作られた謎解き要素の答えだけを吹聴されるのはなんかモヤモヤするっス」


「お前らプレイヤー観察だけじゃなくて、仕事もちゃんとやれよ?」


「大丈夫です!ユーザーの監視も業務の内ですから!」



 などと言いながらも、椅子やお菓子を出現させて本格的に歓談する体勢に入る社員達




 そんなとき、部屋の一角からなにやら不穏な声が聞こえてきた




「………ん?あれ?これ、大丈夫なやつなんだっけ?あーまずいかも」



「おん?どうした?不具合か?」


「不具合じゃないですけど………いや、もしかしたら不具合が原因かもですけど………」


「パッとせんな、ハッキリ言ってくれんか?」


「あーー………まあ、見たらわかると思いますよ……?」



 歓談に参加せずに黙々とユーザー監視を行なっていた、複眼の阿修羅とでも形容すべき姿をしている社員が、腕の一本で頭の一つをポリポリと掻きながら一つのスクリーンを拡大する


 黒板並みに巨大化したスクリーンに映し出されたソレを見た社員達は、皆一斉に己の目を疑った



「………うせやろ?」


「なんてこった………よりにもよって、なんでコイツが……!?」


「たしかにコレはまずいヤツっスね。下手したら今週中に()()()()()()っスよ?」


「そんなことはわかっている!それよりも、コイツが解放された原因はなんだ!?コイツらには厳重なロックが掛かっていて、そう簡単に解放条件が満たされないはずだろ…!?」


「わ、わかりません……。なにしろ、コレらの情報は閲覧制限が多く、私たちが手出しできる案件ではないので……」


「ん〜〜、多分これじゃないですかね?」



 その場にいた誰もが、降って湧いたような災厄であるソレに釘付けになっている中、「システムを大体覚えた」と豪語していたイソギンチャクが、思い当たるデータを呼び起こす



「……なるほど、コイツの存在理由にも合致している」


「この子の役割、「プレイヤー間の競争を促進させる」ですもんね。劇薬すぎるのが(たま)(きず)ですけど」


「最悪だ。まさか───『ユーザー総数に対するプレイヤーキラーの比率が一定数を下回る』なんて条件があったなんて…!!!」



 この部署のまとめ役らしきのっぺらぼうが、頭を掻きむしる。表情は見えないが、もし顔があったら眉間に皺が寄りまくっていたことだろう


 そんな上司を横目に他の社員たちは、なぜかあまり慌てた様子はなかった



「だから言ったではないですか、プレイヤーキラーへのペナルティが重すぎると。開発陣に修正を求めるように言いましたよね?」


「いや、提言はしたんだが、あっちは『変えるつもりはない』の一点張りでな……」


「もう手遅れっスよ。だって今のユーザー、異様にPKへのヘイト高いっスもん。PK緩和してもそう簡単に増えないと思うっスよ?」


「クレームやGMコールの大半がPK関連ですもんね」


「なぜだ……このゲームではPKがあまり暴れられない環境なのに……」


「いろんな不幸が重なったっぽいっスけど、一番の原因は多分これっスね。とある攻略クランのメンバーのほとんどが、MMOはこのゲームが初らしいっス」


「この前やったアンケートの結果?……あれ匿名じゃなかったっけ?」


「そんなのアカウント管理してるGMならなんとでもなるっスよ〜」


「わっるぅ」


「MMO初心者が攻略組…?よくそこまで行けたなぁ」


「なるほどですねぇ、元々興味はあったけど実際にプレイするほどではなかった層が、最新技術の超大作発売を機に満を持して参加してきたってわけですか」


「んで、その興味を持った理由の大半はおそらくアニメや漫画………、ほとんどの作品で「PK=悪」として描かれてるっスね」


「うわぁ、それで必要以上にPKに攻撃的になってるわけですか。『悪いやつにはなにを言っても許されるし、むしろそうすることが正義』とか勘違いしてる………イヤですねぇ〜」



「お、お前ら、脱線しまくってるようだが、喫緊の問題は「アレ」だぞ!?」



 いきなり出てきた災厄をそっちのけにして別の話題で盛り上がってる社員たちに、のっぺらぼうが再度関心を促す


 しかし、それでも社員たちにはあまり響かなかった



「問題って言いましてもね〜。うちはプレイヤー対応専門なんで、あの子の直接的な対処は部署違いというか……」


「これでも一応仕事っスよ?なんでアレが出てきたかを確認して、それがまた起きないようにするための会議みたいなモンっス」


「それにいざとなったらのプランもあるじゃないですか。……プレイヤーの不満を対応しなくてはならない私たちからしたら、あまりやって欲しくはない手段ですが」


「むっ、そ、そうなんだが………繋ぎ役も兼ねてる俺のこともちったあ労ってくれよぉ…」


「ご愁傷様で〜す?」



 どうやら一緒に苦悩してくれるやつはいないらしい

 のっぺらぼうは、あの意固地な開発陣をどう説得して動かすか、1人で悩むハメになるのだった



「……はぁ、とりあえず、開発側が手動でアレを再封印する方向で説得を───」







 ズシィィィン!!!!!


「ガロロロロロロ!!!!!」


「おいゴラァ!まだいるじゃねぇか!!さっさとこのアク、アクロンサウルスだかなんだかをしまえ!!」


「違います!こいつはカルカロドントサウルスです!!」


「なんでもいいわ!俺が開発部署から帰ってくるまでに邪魔なもんは全部消しとけ!わかったな!?」




おしらせ


 明後日にもう一話投稿したら、またしばらく休載します

 再開は新章になります。話数ストックがある程度溜まったら再開しようと思ってます

 と言っても、すでに結構書けているので、早ければ2,3ヶ月後には再開できるかな?できるといいな


 次章はちょっと短めになるかな?

 できれば、プロローグに仕込んだ残りの伏線を回収できるといいな〜と思ってたり

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