ブチギレウサちゃん
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「うおわぁぁぁ!!?」
「ちょ、こっちくんな!!」
「お前トレイン行為でGMコールするぞ!!」
「いや仕方ねぇだろ!一番近いやつに勝手にタゲるんだから!ウゴッ──」
「誰か知らんけど殺されちゃった!!」
「このひとでなし!って言ってる場合じゃねぇ!?今度は俺ぇ!!?」
「だからこっちくんなって!」
「俺のそばに近寄るなぁぁぁぁ!!!」
「ギキュゥゥゥゥ!!!!!」
「「「「うわぁぁぁ!!!!??」」」」
……なんか騒がしいな
魔力茸をもう2本確保した俺は、森を抜けてスライムエリアを転々としていたところ、この騒ぎに遭遇した
草原にいるプレイヤー達が蜘蛛の子を散らすようになにかから逃げている。よく見ると、それは黒いモヤを身に纏ったデカい一角ウサギだ
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激怒した一角ウサギ Lv.25
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『鑑定』結果はこんなかんじだ。こいつは名前の通り、一角ウサギの激怒個体だな
激怒個体は、同じフィールドで同種族のモンスターを短期間に数十万体と倒されると出現する、いわゆるお仕置きMOBだな
徘徊型ボスとも言われるが、ボス判定ではないのでボス特効は効かないぞ。だが、その強さは周辺フィールドのボスより2回りほど強い。お仕置きだからな
さて、俺は今迷っている。何を迷ってるかって、こいつを倒すか無視するかだ
激怒個体はその強さの分、ドロップアイテムもかなり美味しい。あと討伐称号も貰えるため、他プレイヤーも強くなって取り合いになる前に倒しておきたい
だがさっきやらかしたばっかりだ、自重するべきなのは理解している。しかもここは人の目も多い
どうしたものか……手持ち無沙汰な俺は、腰のヘビちゃんポーチをいじる。これ結構かわいいな
ふと俺は、ポーチに入ったとあるアイテムを思い出す。これなら……
◆Side:とある女性プレイヤー
「今よピョン太!突進して!」
「キュー!」
「ピキーッ!」
私のテイムモンスターである一角ウサギのピョン太が、その角で瀕死のスライムを突き、見事ポリゴンに変えた
「いい子ね〜ピョン太!えらいえらい」
「キュウキュウ!」
うちのマンションはペット禁止なので、ゲームの中で思う存分モフモフを堪能する
運良くこの『AWR』の第一陣になれた私は、テイマーとしてまったりプレイをしていた
本当はワンコがよかったんだけど、ウサギもなかなかかわいい。でもワンコを諦めたわけじゃないわよ?いつかモフモフ軍団を作ってやるんだから!
「──ろ!逃げろーー!!!」
「ギキュキュゥゥゥ!!!!」
「え?」
モフモフしてたら周りが騒がしい。振り向くと、大きなモフモフがすごい速さでこっちに向かって来てる!?
「キュウ!」
「ピョン太!?だめ!」
「ギキュゥゥ!!」
ピョン太が私を守ろうと巨大モフモフとの間に立ちはだかってくれたけど、どう考えてもやられちゃうわ!
「そんなことならいっそ私も!」
「キュ!?」
そんなの耐えられない!!私はピョン太を抱きしめて丸くなった
「ギキュゥゥゥ!!」
ごめんね……こんなモフモフに負けないくらい、ピョン太も強いモフモフにしてあげるからね…………でっかいモフモフ、ぐへへ──
「───『狙撃』」
「ギキュゥ!?」
──あれ?
前を見ると、巨大モフモフが立ち止まっていた。私から見て右の何かを警戒している
一体何が……?私もそっちを見てみると、真っ黒なローブに身を包んだ人が、弓をこっちに向けて引き絞っていた
「『ホーミングアロー』」
「ギュゥ!ギュゥゥ!?」
そのローブの人が放った矢を、巨大モフモフはすごい速さで避けた。が、その矢は途中で軌道が曲がり、モフモフの足にグッサリ刺さった
「ギュゥゥゥァァ!!!」
怒ったモフモフはジグザグのステップを踏みながらローブの人に突進していき、私からは離れていってしまった
た、助かったの……?でも……
「モフモフ!帰ってきてーー!!!」
「キュゥ……」
◆Side:クロート
フッ、人助けをしてしまったな
俺はウサ公に背を向けて、全力疾走する
「ギュゥゥゥゥ!!!」
「やっぱ追いつかれるよなぁ!?」
が、距離は一向に離れず、それどころかどんどん縮まっていく
さすがは激怒個体。しかもウサギは元々AGI寄りのステなため、俺に追いつくぐらいの速さになっていた
だが、俺が走っていた理由はこいつから逃げるためじゃない。ギャラリーの目から遠ざかるのが目的だ
ここらへんでいいか?遠巻きに見られているが、この程度なら問題ない
黒蛇のレアドロップの一つである[黒大蛇の外套](フード付き)を翻し、ウサ公と対面する
「ギキュゥゥッ!!」
「あっぶねぇな!『強射』!」
「ギュゥッ!」
「避けんなクソボケ!うおっ!?」
追いかけてきたスピードそのままの頭突きを躱す。お返しの『強射』を放ってみたが、簡単に躱された上に反撃の蹴りをお見舞いしてきやがった
「こりゃ当てるのに一工夫いるぞぉ…?」
ウサ公はウサギとは思えないようなサイドステップを踏み、こっちの出方を窺っている
俺が当てた攻撃といえば、遠距離からの不意打ちの『狙撃』と、『弓』Lv.15アーツ『ホーミングアロー』の2つだけだ
『ホーミングアロー』は名前の通り自動追尾機能があるが、クールタイムがそこそこ長く、連発できるものではない
このレベル帯で激怒個体と戦うのは地味に初めてかもしれない。堅実にやれば負ける気はしないが、どうしても耐久勝負になってしまう
時間をかけるのはあまり良くない。見物していたプレイヤーが近づいてきて、助太刀という名の乱入をされたら面倒だし、なにより俺の顔がバレる危険性がある
なので、一気に決めさせてもらう
「『狙撃』、『ダークボール』、『ライトボール』!!」
「ギュゥゥ!!?」
手始めに、弓と魔法による3WAY攻撃をしかけてみた
ウサ公は驚いていたが、すぐに横へスライドする。全部避ける気のようだが、そうはさせない
「曲がれ」
「ギュゥゥ!?」
俺はウサ公に一番近い位置を飛んでいた『ライトボール』を、『魔力操作』を使って操り軌道を曲げる
ウサ公は反撃の用意をしていたが、急に動きの変わった『ライトボール』に対処しきれず、直撃した
「一角ウサギは元々MNDが高くないんだよなぁ?お前でも結構痛いだろ?」
「ギュゥゥゥゥ!!!!」
「おっと、まだまだ行くぜ?『連射』!」
次の一手として、スタミナと矢の続く限りすごい速さで射撃を続ける『連射』をばら撒いた
1発あたり1ST、そして初心者用の弓は木の矢に限り矢が無限だ。今の俺なら145連射までできるな
その場から動けないというデメリットがあるため、ウサ公は俺を中心に時計回りに回って避け、ジリジリと距離を詰めて来る
だがそんな単調な動きをしてていいのか?
「『ダークボール』『ライトボール』」
「ギュゥゥッ!?」
俺は『連射』を維持したまま、進行方向に向けて魔法を放つ
びっくりして動きの遅くなったウサ公の足に『連射』が1発直撃する。一瞬固まったところに矢が次々と飛来し、ザクザクと命中していく
「ギュゥゥゥゥ!!!」
我慢の限界を迎えたウサ公は、ダメージも気にせずこちらへ突撃してくる
「『身体強化』、『瞑想』」
予想通りの行動だ。俺は最後の仕上げをする
俺はウサ公が走って来るのをじっと待つ。といっても『連射』と『身体強化』のせいでスタミナがつきかけてるせいだが
「ギュゥッ!!!」
ウサ公はさっきもやった頭突きを放ってきた。その鋭い角で串刺しにする気だろう
スタミナ切れの俺には避けるすべがない。無理矢理避けたとしても、〈息切れ〉になって次が避けられなくなる
絶体絶命のように思えるが、これを簡単に解決する方法がある。それは──
「『インパクト』ォッ!」
──パリィだ




