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バタフライエフェクト


 配信者「フリーニ」

 彼女はVtuverの中でも、元々「VRtuver」というジャンルの人間だった


 VRtuverとは名前の通り、VRゲームのみを実況配信するYourTuverのことだ

 動画配信プラットフォームとリンクしているVRゲームなら、配信器具や配信用アバターなどの用意がなくとも誰でもお手軽配信者になれるのだ


 その手軽さと、顔や声も自在に変えられる匿名性、ビジュアルの良さで、一時期爆発的にVRtuverが流行った


 フリーニもVRtuverの1人だった

 そのうちキャラアバターをゲームの外にも持ち出して、バーチャルの身体でVRゲーム以外のことも配信する「Vtuver」へ変化していった経歴を持つ



 フリーニは、俺が知っている中で一番有名な配信者だ

 ………といっても、俺は配信者界隈あんま詳しくないけど

 俺が見る動画や配信は、ほぼ全て『AWR』関連のものだからなぁ……


 『AWR』、つまりこのゲームを結構ディープにプレイしてくれている配信者の中でも、フリーニは一番知名度が…………

 あっごめん、前言撤回。知名度一位はぶっちぎりのやつがいたわ


 え〜っと、そう!チャンネル登録者数が1番多い!

 だから知名度は2番目に高い!多分!

 知名度一位のアイツは登録者はそんなだけど、悪名がエゲツないからなぁ………というか、なぜか自分から登録解除促してるらしいし


 まあディープといっても、彼女は『決闘鯖』の住人ではないんだけどね

 どうしても「ジェノサイドルート」をプレイしたくないらしい。そりゃそうだ




 う〜む、彼女が未来の有名配信者かぁ……

 たしかに集客性はありそうだけど、とても配信者になれるようには見えんぞ……?


 たった数十人の信者の暴走に振り回され、心労を覚えてしまった人が、さらに信者が増えるような配信者になるようには思えん


 こっからどうなって、彼女が配信者として歩み始めるんだ……?

 配信者になる未来は確定してる。でもどうやっても今の状態からの結びつきが感じられない。ミッシングリンクってやつか……?


 いや、待てよ?

 俺は「未来は確定してる」ってなんの疑問もなくそれを前提として考えていたが………


 もしかして、「未来が変わってしまった」という可能性はないか………?



「まずいな……」



 聞いたことがある。タイムトラベルしたものが過去でなにかしらの小さな変化を起こした結果、未来が大きく変わるタイムパラドックスが起きてしまうことを

 なんだっけ?バ……バタフライなんとかってやつだ


 そして、この状況に当てはまる存在がいる


 未来から来て、過去を変えようとしてる輩───俺だ


 うわぁぁ〜!まっずいことになってるかもしれん!!

 俺がやった行動のどれかがなにかしらの連鎖反応を起こして、姫ちゃんこと未来の有名配信者をここまで追い詰めている可能性が出てきた!!


 こっからなんとか道筋を戻して、彼女を配信者にすることはできるか……?

 できることなら配信者となってテトロと出会ってもらい、ストッパーとしてアイツの暴虐性を抑えてもらいたいんだが……


 まあ暴虐性が収まる理由は、周囲へ無差別に向かってるヘイトが全部フリーニに行くからなんだけど。やっぱ未来変わってよかったかもしれん

 でもフリーニの方から突発コラボを持ちかけるくらいには仲良いはずだし、なにより今の状況よりよっぽどいいはず


 う〜〜ん、俺はどうするべきなんだ………?






「くっ!何故、こんなに慕っている我々を無下に扱うんだ!!?」

「そうか!今までずっと騙していたんだな?!」

「気持ちを弄び利用し、搾取していたんだな?!!」


「え…?は…?え…???」



 ままならない状況に俺が1人悶えている中、クラン解散のいざこざは新展開を迎えていた


 なんと、あれほど姫さまマンセーしていたバッドマナーたちの一部が、逆にフレイニを口撃し始めたのだ

 特有の思い込みの強さから、事実とかけ離れた結論を導き出し、勝手に納得してキレだしたのだ


 反転アンチの誕生である



「吸い取るだけ吸い取ってポイか!!このクソアマ──」

「女のヒスキモすぎ。こいつも所詮カスだったな──」

「売女め!俺たちの心を弄びやがって──」

「訴えてやる!!賠償金を──」


「意味がわかりません!理解不能です!何故そうも事実を捻じ曲げ──え?」



 口々に暴論を吐く元信者たち

 それにフレイニが言い返そうとし………いきなり彼らが消滅した



「奴らようやく本性を見せましたね!!」

「姫はこれが狙いだったのか!!流石です!!」

「すかさず我々がGM報告入れてやりましたよ!!」

「ざまぁみやがれ!姫に心労をかけさせたことを死んで詫びろ!!」


「は…………?????」



 あ、BANされたのか

 珍しいな〜、目の前でBANされるのが見れるなんて

 このBANが一時的なものか(永久)BANか知らんけど、これで少しは空気が綺麗になったな


 というかこいつら、フレイニがあんだけ啖呵切ったってのに、まだ自覚ないのかよ



「あの酷い言葉の数々も、奴らを炙り出すための演技だったのですね!!」

「心を鬼にして醜いセリフも言えるなんて、流石は姫!!」

「真にお慕いしている我々は、あんな言葉では揺るぎません!!」

「これは我々へのテストでもあったのですね!!!」

「これで膿は排除できました!!クラン〈ホーリープリンセス〉も再出発ですね!!!」



 なんとも都合の良い解釈をし、あれだけ拒絶されてもまだフレイニに粘着しようとする信者たち

 聞いているだけで不愉快だ


 これにフレイニも本当の限界を迎えてしまったようだ

 わなわなと震えていたフレイニの身体がさらに大きく震え出し、息もどんどん荒くなっていき………






「もう…………いや…………だれか助けて…………」


「「「「「姫!!?!?」」」」」



 ついに、泣き出してしまった



 なにを言っても無駄という事実に気付かされ、完全なメンタルブレイクが起こってしまった

 白々しく心配する声をかけているが、お前らのせいだからな??


 こりゃ、配信者なんて絶対ならんだろうな

 クッソ腹立つ。この胸糞悪い勘違い野郎共さえいなければ、彼女はここまでボロボロになることなんてなかったのに………

 テトロの抑え役もパーになってしまったし……!!


 無意識に、奴らへ向ける目が鋭くなってしまう




「え?───」

「なっ!?───」

「あっ───」

「ちょっ───」


「「「「ファッ!?」」」」



 すると突然、残っていたゴミも全員消滅してしまった


 え?誰かGM報告した?

 ここに残ってるのは、俺と、(こら)えるように泣くフレイニと、あの4人組だけ

 もちろん俺はやってないし、この状態のフレイニがやったようにも思えん。残るは4人組だが……



「そりゃそうだよな!?重要NPCの前だもん!!運営が監視しててもおかしくないよな!?」

「まっず!?俺にも警告文来たんだがぁ!?」

「や、やべぇ!!今度はこっち見てやがる!!?」

「早いとこずらかるぞ!!俺たちはフレイニに暴言なんて言ってないですよ〜〜〜!!!!」



 慌てたようにどこかへ走り去ってしまったので、彼らでもないだろう

 何故あんなに焦っていたんだろうか?なにか後ろめたいことでもあったのか……?


 で、だ

 泣いてる少女との2人きりになってしまったんだが……

 え、これなんか声かけるべき??


 泣いたり落ち込んだりしてる女の子を慰めるクエストは、NPC相手に腐るほどやってきたけどなぁ………リアルの女性相手になんて言ったらいいかわからん

 というかそのクエストも、攻略サイトに載ってる台本そのまま読んだだけだし。自分で言葉を紡いだ経験はほぼない


 どうすればいいの……?俺も泣きたい




「ぐすっ………、ひぐっ………───」


「あっ」



 とか悩んでたら、俺の目の前でフレイニも消えてしまった


 これは多分BANじゃない、ログアウトだな

 それも感情の昂りによる強制ログアウトだ


 時間加速システム搭載型のVR機器のバイタルチェックは、メンタル面のケアはだいぶ厳しいからな

 たった2.5倍の世界でも、強制ログアウトさせられるぐらいメンタルがやられてしまったらしい



 で、取り残された俺

 結局なにもできなかった



「帰ろ………」



 無力感に苛まれながら、『リターンホーム』でその場を後にした













 自覚のないゴミが掃除され、自覚あるゴミは退散し、悲劇の少女は現実へと帰され、なんかいた変なおっさんはお家に帰った


 混沌としていたその地には静寂が戻り、その場には異質なオーラを放つドラゴンのドロップアイテムのみが残されていた



 いや、もう一つ存在があった




「ありり?結局誰も取らないんだ、ドラドロ」



 破壊されつくした森に、僅かに残る小さな物陰の中

 そこに、怪しく紫色に光る、2つのリングが浮かび上がる



「しょうがないな〜、じゃあ私が預かっといてあげようじゃないか!」



 まさに神出鬼没

 陰から姿を見せる、とても小さな体躯の少女

 頭上に浮かぶ、目立つ「配信中」の文字は表示されていない。配信外のようだ



「にしても、明らかに前より強くなってたな〜、アメイジングカマドウマン」



 灰色の髪の側頭部に、どう染めたらそうなるんだというような青紫のリング状のアクセントカラーを一つずつつけた少女は、不敵に微笑む



「私の予想もあってそうだね。再戦が楽しみだ」



 未来からの乱入者によって歯車は狂ってしまったのか

 それとも、運命は惹かれ合うものなのか


 その答えがわかるのは、思ったよりも近いのかもしれない


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