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我慢の限界


「おいお前!!姫から離れろ!!!」


「え?」


「なっ!?」


「ちょっ!!?!?」



 どうでもいいことを考えていたら、バッドマナー君の1人が俺に向かって声を荒げた

 その声で、俺へと一斉に敵意の目が向けられた



「男が姫に近づくな!!半径5m以内に入るな!!」

「俺たちだって我慢してるのに!!掟を守れ掟を!!」

「姫!そいつから離れてください!!やつはあなたの身体目当てのゲス野郎です!!」

「重要NPCだろうと関係ない!!姫に近づくものは死、あるのみだ!!!」

「「「「「離れろ!!離れろ!!離れろ!!」」」」」


「お、おう………」


「な、なにを言っているのですか!!?彼は私を救ってくれた方なんですよ!?私の恩人に向かってなんて態度を!!!」


「ちょ、まずいって!!ガチまずいって!!!コオロギに喧嘩売るのはめちゃくちゃまずいって!!!?」



 口々にあることないこと捲し立てるバッドマナーたち

 困惑する俺

 代わりに怒ってくれる姫ちゃん

 後ろで何故か焦ってる4人のプレイヤー


 反論したくもあるが、心当たりがないこともないんだよなぁ〜

 がっつり手首を掴んで逃げ回ってたし。落下からキャッチした時なんてガッチリ腰回りをホールドしてたし


 彼らからしたら聖域を穢されたも同然だろう

 怒りすぎではあるけど。でも言い返す気になれん



「ドラゴンから姫を助けてもらったのは感謝しているが、近づいていい理由にはならない!!」

「というかドラゴンが襲ってきたのはお前が原因なんじゃないか?!!」

「そうか!!そうに違いない!!コオロギならなにができてもおかしくないし、ドラゴンを呼び寄せたに違いない!!!」

「空へと至った姫を邪魔に思って妨害したんだ!!!」

「賠償としてそのドラゴンの素材を姫に差し出せ!!」


「えぇ………」



 別に責めるつもりはなかったんだが、こいつら………姫ちゃんがドラゴンを地上までトレインしてしまったやらかし行為を、俺になすりつけようとしてる……?

 あれか?推しの失敗は頑なに認めない厄介オタクムーブか?


 でも、「俺は全く関係ない」って言い切るのも難しいんだよなぁ……


 経験者である俺には、このゲームにおける注意事項とかを説明する義務があった

 タブーなどの「やったら危険な行為」なんかを、前情報もなく右も左もわからない初心者たちに言い広めておくべきだった


 というか、俺が[綿雲の布]を売らなければ空へ行こうともしなかったんじゃないか……?

 いや、考えすぎか。買われたものがどう使われようが生産者の責任にはならんはずだし

 つーかこいつら完全に言いがかりだし


 さすがに言い返したほうがいいかな

 ついでになぜドラゴンが襲ってきたかをちゃんと説明しておこう

 正しい知識を与えないとな




「スカした態度がキモい!」「女の気を引こうとしてるのが丸わかり!」「無精髭が不衛生!」「髪の手入れくらいしろ!」「服がダサい!」「女を見る視線がねっとりしてる!」「お助けとかいって女ばっか声かけてる!」「どうせ粗チン!」「独りよがりなセ××スしてそう!」「風呂入ってなさそう!」「頭悪そう!」



 なんかそんな雰囲気じゃなくなってた

 ドラゴンどうこうの話はもう過ぎ去っていて、いつのまにか俺のディス祭りが始まっていた


 う〜ん、全然心に刺さらない

 前半ちょっとギクッとしたのもあったけど、事実と全く違う言いがかりは怒りよりも呆れが湧いてくる


 ちなみに俺のチンは平均サイズはあると思うぞ?未使用だけどな!現実では!

 おう若いの。未来のフルダイブVRアダルトゲーはすんごいぞぉ?(ニチャア)






「もう………限界………!!いい加減に………してくださいっっ!!!!!」



 いきなり、姫ちゃんが今までにないほどの怒気をはらんだ大声をあげる


 あっごめんなさい、セクハラでした



「なぜあなたたちは!!そう毎回毎回!!他人を傷つける行為を躊躇なくしてしまうのですか!!!それも私の名前を使って!!頼んでもないことを私のためだと言い張って!!!」



 あ、俺じゃなかった。じゃあいいや



「我々は姫に近づく不埒者を排除しようとしただけです!!」

「心優しき姫が厳しい言葉をかけられない代わりに、我々が代行しているのです!!」

「姫の心の嘆きを代弁しているのです!!」

「全ては姫を思ってのことなのです!!!」


「またそうやって!!!私がいつそんなことを言いましたか!?私がいつそんなことを頼みましたか!?むしろやめてと言いましたよね!?やるなと言いましたよね!?いい加減にしろと何度も注意しましたよね!!?」


「なんということだ!姫の言葉を守らない輩がここにいるだと!?」

「炙り出せ!そんなクズはリンチにしろ!!」

「姫の名を使って暴れ回る不届きものを罰せよ!!!」


「なっ!?何故……ここまで言って、(シラ)を切るというの……!?いえ、まさか………自覚がない………っ!!?」



 いるよな〜、お気持ち代弁のつもりで全くトンチンカンなこと言う勘違い信者

 あれ「◯◯はそう思ってる!」って(てい)で主張するけど実際は「自分がそう思いたいだけ、思い込んでるだけ」なんだよな


 しかも本人に注意されても全くやめない。だって自分のことだと思ってないから

 「いるよな〜そーゆーやつ!ほんと迷惑だよね!◯◯を困らせるなんて最低!」と平気で口にする姿は反吐が出る


 そういうやつは名指しで注意してやらなきゃいかんのだけれど、わざわざ一人一人の名前と所業を覚えられるわけがないし

 これで被害者から「監督責任が〜」とか苦情入るのはあまりにも不憫でならない




「もういや!もうたくさん!!これ以上あなたたちの尻拭いをし続けるのはごめんです!!!」


「「「姫……?」」」


「あなたたちの世話をするのは今日で終わり………!!クラン〈ホーリープリンセス〉は────解散しますっっ!!!!」


「「「「「え、ええええええええええええ!!?!!?!?」」」」」



 おおお!!ついに言い切った!!!



「嘘ですよね!?ドッキリですよね!?」

「優しい姫がそんなこと言うはずがない!!」

「どうすんだよ!!姫を困らせるヤツのせいで()()()()俺たちまで切られるじゃないか!!」

「一度解散して膿を出し、また新生〈ホーリープリンセス〉を結成するんですね!!」

「なるほど!さすが姫!聡明だ!!!」


「いいえ!!二度とクランなんて作りません!!!今後もあなたたちが執着するというのなら………私はこのゲームを引退します!!!!!」


「「「「「ええええええええええ!!?!?」」」」」




 え、それは俺が困る。超困る


 自力で『祈り』の習得法を見つけ出したり、空に挑戦してみようとしたりする、チャレンジ精神の塊みたいなプレイヤーがいなくなるのはゲーム全体にとって損失すぎる

 でもそれは、彼女自身が決めることか……


 口々にクラン解散を引き留めにかかるバッドマナープレイヤーたち

 そこへ、ずっと青い顔をしながら何故か俺の顔色を窺っていた、比較的まともそうな4人のプレイヤーも、姫ちゃん引き留めに参加し始めた




「ちょいちょいちょい!!さすがにそれは横暴なんじゃないの?!」

「一時的な気の迷いだよな?結局クラン存続するんだろ?」

「勝手にクラン解散とか決めないでくれよ!俺たちのクランでもあるんだぞ?」

「いくらクランマスターといえど、フレイニちゃん1人で決めていいことじゃないだろ!!」





「………ん?」



 なにか今、引っかかる単語があったような……


 内容は特に気になる部分はない。「たしかに巻き込まれてクランなくなるの可哀想だな〜」くらい

 問題は「単語」だ


 なんだ…?どこに引っかかった…?

 人一倍記憶力が低く、ジジイ化してきた俺の脳細胞が、なにかを思い出そうとしてチッカチッカとニューロンが稼働し始める幻聴が聞こえてくる気がする




「なにが横暴ですか!!彼らがやってきたことに比べれば、これでも温情のある対応です!!!そんなにクランが大事というのなら、私だけクラン脱退します!!!」


「いやいやいやそれはおかしいだろ!!」

「だけどフレイニ!!みんなあんたがいるから集まってきたんだぞ!!」

「クラマスが消えればこいつらもいなくなる!クランじゃなくなっちまうよ!!」

「わかった!こいつらを脱退させよう!そして新しいメンバーを募集しよう!!」


「どうせ同じような人しか集まらないじゃないですか!!悪いですけどフリーにならせてもらいます!!!」





「………んんん??」



 『クランマスターといえ()()()()()ちゃん1人で──』

『だけ()()()()()──』

『悪いですけ()()()()()──』


 ………ど、ドフリーニ!!?!?



 え、まさか姫ちゃんの正体って───Vtuv()erの「フリーニ」!?


 慈愛の天使フリーニ!?

 へっぽこ聖母フリーニ!?

 泣き顔女王のドフリーニ!!?



 た、たしかに、フリーニと言われればどこか面影のある姿をしている………なんで気づかなかったんだ……?

 あっ、種族が違うからか。フリーニといえばいつも[天使族]だった。特徴的な翼がないからわからなかったんだな


 そういえば、フリーニは最初期の名前が「フレイニ」だったらしいな

 なるほど、辻褄が合う



 でも、フリーニは誰かに名前を呼ばれるとき、頭に「ド」をつけられることがある

 「フリーニさん」、「フリーニちゃん」という名前が略しづらく、無理やり略しても他の人のあだ名と被り、そのまま呼ぼうにも微妙に長い

 そこで、無理やり頭に「ド」を付けて、「ドフちゃん」とか「ドっさん」とか呼ばれているのだ。原型ないやん


 「ドジのフリーニ」「ドベのフリーニ」「どんくさいフリーニ」「むっつりどすけべフリーニ」など

 ほとんど蔑称のような愛称だが、呼んでるやつの毒舌さからすればかなりマイルドなほうである



 そう、最初に呼び始めたやつが問題だ



 フリーニの名前に「ド」がつき始めた原因、それはとあるユニット名が元凶である

 彼女がまだ「フレイニ」と名乗っていた時から存在し、その2人が揃えば毎回神回確定な伝説的コラボ


 その名も───






 コラボ名、“テトロ・ド・フレイニ”






 こいつ……!!

 いやこの人……!!!

 いや、このお方は………!!!!!!



 テトロのツッコミ役(ストッパー)だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!?!!?!?


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― 新着の感想 ―
おっとそれは引退させてはいけない
信徒達の行動に今まで「なんだかなー」って思ってたんですが、フレイニさんが切れて突っ込んでくれてやっとすっきりしました(コオロギが冷静に分析してくれたおかげもあるのかな?) それはそうと、天敵のテトロの…
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