縄張り
視界を埋め尽くしていた緑褐色の鱗が、突然消え去る
「え…?ひゃぁあぁぁぁぁ!!?!?」
「くぉぉぉぉぉぉ!!!?」
呆気に取られたのも束の間、俺たちの身体はまたも虫ケラのように吹き飛ばされる
何者かがドラゴンへと亜音速で突撃を行ったため、その衝撃波が周囲もろとも俺たちを吹き飛ばしたのだ
「クソっまたかよ!?『アースボール』『ウィンドアロー』『アースボール』『ウィンドアロー』![大岩]『跳躍』!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!?」
このスピードで木かなにかに激突すれば死にかねないので、また姫ちゃんを抱えて速度軽減技を使いまくる
「よし、大丈夫か!死んでないか!!」
「ほとんど死んでます!!あの、あれはなんなんですか!?まさか、2体目の竜……!?」
「説明は後だ!今はここを離れるぞ!!」
巨大モンスター同士の取っ組み合いだ
人間のようなチビ助は余波だけで死にかねない
奴らから距離をとりながら見えた光景は、ドラゴンと、そいつとタメを張れるほどの体格をもったなにかが、もつれあってゴロンゴロンと転がっている場面だった
ドゴッッ!!!
ズゥゥン!!!!
バキャッ!!!!
キュラキュラキュラキュラ……
ゴスッ!!ゴスッ!!ゴスッ!!
「GUORAAAAAAAAAA!!!!」
ズガガガガガ!!!!
ボォウ!!!!
ベキンッッ!!!!!
バルルルルルル!!!!!
ズドオォォォン!!!!!
「GARUAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
ガチンッ!!!
ミシミシミシミシッ!!!!
ミヂミヂミヂミヂッ!!!!
ブチブチブチブチッ!!!!
「GIIYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?!?!?!??!?!!?」
バツンッッ!!!!!
ブゥォンッッ!!!!
「まずいっ!?伏せろ!!!」
「きゃっ!?」
竜の悲鳴のような鳴き声が聞こえてきた直後、背中を向けて逃げる俺たちの頭上をなにか巨大なものが高速で通過していった
やつらがド派手に暴れ回っているせいで、地面が激しく揺れて木が倒壊し、抉られた土砂が降り注ぐ中をなんとか切り抜けている状況なので、飛んできたものを詳しく観察する暇はなかったが………
もしそれをしっかりと見ることができたなら、それはまるでねじ切られたかのように千切れた、竜の右腕だとわかっただろう
「いっ…!一体なんなんですか!?なにがあの巨大な竜と戦っているんですか!!?」
「あぁ、そろそろ余裕も出てきたし話すか」
嵐のごとき大怪獣バトルから距離を取り続け、ある程度の安全圏にたどり着けたので、姫ちゃんにアレのことを説明する
「アイツはこの森一帯を縄張りとする巨大生物………いわば、この国の「守り神」さ」
「守り神…!?」
「つっても、人間が勝手に庇護下に住み着いたってだけなんだがな」
「勝手に…?どういうことですか…?」
うーん、どこから説明したものか……
というより、どこまで説明していいものか……
うっかり重大なネタバレしちゃいそう
「あ〜〜、まずはだな…………あんたも見た通り、この世界の空はあのバカデカいドラゴンが飛び回っている。あいつらは基本通り過ぎてくだけだが、稀に地上に降り立つやつも現れる」
「竜が、地上に……!?」
「今回はあんたらを追いかけてきたけどな」
「あ……す……すみません………」
「あ、いやいやいや責めるつもりはない!!!正しい知識を身につけて今後もいろいろ挑戦してみてくれ!!!」
先駆者というのはチャレンジャーでなくてはならない
彼ら彼女らの歩みを鈍らせるようなことはするべきではない
「話を戻すぞ?ドラゴンが地上に降りてくる頻度は50年に1回とか100年に1回とかだが、その1回で人間の国が滅ぶのには十分すぎるだろ?」
「そ、そうですね、あれを見れば納得できます」
「人命の方は魂の加護でなんとかなるが、建物や街はそうはいかない。定期的に更地にされるんじゃ住めるもんじゃない」
「え……?あっ、そっちなんですね……」
うん、まだこの世界の価値観に慣れてないと見える
ここじゃ、傷害罪や殺人罪よりも窃盗罪や器物破損罪の方が重い犯罪なんだぜ?
「だが、この大陸には人間の街や国がいくつもある。中には500年以上続く大国もある。なぜかわかるか?」
「それは……まさか、あの巨大なナニカが関わってくるんですか…?」
「その通りだ。ドラゴンに襲われずに今日まで残っている国は、巨大生物の縄張りに建てられた国なんだ。……というより、建国した場所がたまたま巨大生物の縄張りで、運良くドラゴンの襲来を免れたって言った方がいいかな」
「ということは……国の数だけ、あの巨大な生物の縄張りがあるんですか……!?」
「ま、だいたいその考えで合ってるな。一体の縄張りに複数の国が入ってたり、一つの国に複数の縄張りがあったりするがな」
巨大生物にも種類があり、同じ種族はほとんどいない。別大陸に行ったらいるけど
人里から離れたとこに行くときは注意しろよ?ドラゴンが普通に降りてくるからな
「でも、そんなところに住んだら襲われたりしないんですか…?」
「襲ってくるやつもいるが、ほとんどの巨大生物は人間なんざ気にも留めないからな。国を作っても、アリが巣作ってんな〜ぐらいにしか思ってないのさ」
「では、あれは味方なんですか…?」
「いや、味方ではない。刺激しない限りは敵でもないがな」
「刺激…?」
「縄張りを荒らしたり、上空を通過したりな。あんたの気球も、もう少し低い位置を飛び続けてたらあいつに撃ち落とされてたぜ?」
「え!!?」
元々荒野だったこの地に森を生み出したのもあいつってのは、まだ言わなくていいかな
「KOHYUUUUOOOOO……!!!!!!!!!!」
「っっ!!?もうそこまで追い詰められたか!!!」
「ど、どうしたんですか!?」
「もっと距離を取るぞ!!やばいのが来る!!」
世界の終わりかのような破砕音が鳴り響く中聞こえてきた、ドラゴンの間抜けな吸入音
まずい!これは、ドラゴンの「全力ブレス」のチャージ音…!!!
喉を使い潰し、竜の再生力をもってしても半日はブレスが使用不可になるほどの反動がくる、決死の覚悟で放たれる大技だ
その威力は凄まじく、最上級職のタンクでも直撃したら消し飛ぶ規模の極太光線が、数十km先まで伸びていく
あの「守り神」であろうと、至近距離で喰らったらひとたまりもないだろう
「クソっ、こっちには撃たないでくれよ……!?」
下級職の俺たちじゃ、掠るどころか余波だけで死にかねない
というか街の方に撃たれても困る。復興作業めんどいぞ〜?もうすぐ第二陣も来るってのに第一の街『ファスト』がぶっ壊れてるなんてことにはなってほしくない
幸いにも、全力ブレスには長いチャージ時間が必要だ。大体30秒くらいだが……
片腕が捥げ、尻尾は中程から折られ、翼もズタズタで逃げることはできず、顔も半分ひしゃげているドラゴンなら、もっと猶予はあるかもしれない
その隙に、「守り神」がトドメを刺してくれるといいんだが………
キリキリキリキリキリガチンッ!!!
ガゴンッ!!!
「!?まじかよあいつ!!?」
「今度はなんです!?」
「あの野郎………迎え撃つ気だ!!!」
いつの間にか轟音が鳴り止み、巨大な2体の生物が向かい合う構図となっていた
異様な静けさの中、竜の吸入音と奇妙な駆動音のみが耳に入ってくる
「KOOOOOOOAAAAAAAAAAA…………!!!!!」
カッ、カッ、カッ、カッ、カッカッカッカカカカカカカカカスゥィィィィィン!!!!!!!!
「AAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!!!!!!」
ピィィィィィィィィィィイ!!!!!!!!!
「KAtttttt!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バオッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
───ズムンッッッ!!!!!!!
「ひゃぁぁぁぁぁ!!!?!?」
「何回目だこれぇぇぇぇぇ!!!?」
竜の口から、超濃密なエネルギーのビームが発射される
あまりの威力に竜自身の身体が崩壊し、傷口からエネルギーの光が漏れ出ている
しかし、時を同じくして「守り神」からもビームが放たれていた
全力ブレスにも引けを取らない極太ビームは竜のブレスと正面からぶつかり、特大の衝撃波が発生
案の定俺たちは吹っ飛ばされる
実力は拮抗。互いに一歩も引かないビームの押し合いが発生していた
これはもはや、いつまでこの威力を出し続けられるかの体力勝負になっていた────
と、思われた
ガゴンッ!!!ガゴンッ!!!
「あ、非道い」
バオッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
バオッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
「GA─────」
「守り神」側から、更に2つのビームが照射された
それはビームの押し合いを一瞬で押し上げ、ドラゴンの頭を爆散させる
それだけに止まらず、ドラゴンの身体をバラバラに切り裂いてしまった
最後は自身の住処である森を消しとばさぬよう、3本のビームは上へと持ち上げられ、空を四つに切り裂いたところでようやく終息を見せた
「終わったか……」
よっしゃ!!!
ドラゴン素材大量ゲットだぜ!!!!!




