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エンカウントドラゴン


「おい、あれはなんだ?」



 メンバーの一人が何かに気づき、指を指す

 その指先は横方向を向いており、地上の何かを発見したわけではなくて、同じ高度にあるなにかだということがわかった



「あれってどれだよ?」

「あれだよあれ。向こうのほうに見える点だよ。ほら動いてる」

「鳥かなんかじゃねぇの?」

「いや、普通の鳥にしてはなんかでかくね?てか、あれめちゃくちゃ遠くにいるような……」

「ほ〜、じゃ鳥の魔物だな」


「え………それって、襲われたりしないでしょうか……?」



 この空中で、上下移動以外は風に流されるしかない気球。もし襲われたら逃げることはできない



「あ〜、まあ襲われるだろうね」


「なっ、なぜそんな冷静なんですか!?」


「いやだって、ゲームなんてそんなもんだろ?」


「そ、そうですが……でも、皆さんが協力して作ってくれた気球が破壊されるかもしれないんですよ!?」


「あぁ、たしかにそれは問題だなぁ」

「でもぶっちゃけ、称号情報と名声で収支はプラスになると思うんだよなぁ〜」


「そ、そんな……皆さんの努力の結晶を……」



 できれば完成して欲しくなかったとは言ったものの、それでも私のために作り上げてくれたものだ。簡単に失いたくはない

 彼らならすぐに許すかもしれないけど、私が許せない



「ま、たしかに壊されないに越したことはないし、できる限りの迎撃はするぜ?」

「でも今から焦ってもしょうがないじゃん?戦闘になったら回復よろしくな」


「わ…かりました……」



 あまり腑に落ちませんけど、彼らの方がゲーマーとして一般的な考え方なんでしょうか……?




「でも、あいつ全然近付いてくる気配ないぞ?動いてはいるけど」

「魔物とかじゃなく、空島だったりしてな」

「こういう時のために望遠鏡も欲しいな」

「あっ、俺『望遠』持ってたわ」

「おい何やってんだよ、()よ見ろ()よ見ろ」

「急かすなって、今やるよ『望遠』」



 未だに動く黒い点でしかない空の異物

 実はあれは危険な魔物などではないのではないか


 しかしそんな淡い期待は、メンバーの一人が『望遠』を使った瞬間打ち砕かれた



「ん…?あ、あのシルエット……!?」

「おい、なにかわかったんなら言えよ」

「あぁ、やべぇ!マジすげぇぜ!?とんでもねぇもん見つけちゃったぜ!!なんてたってあいつの正体は………あっまず、こっち見た」

「は?」


「え?」



 だから何が見えたんだ

 もう一人のメンバーが再度そう問いただそうと口を開き………しかし、言葉が発せられることはなかった


 遥か遠くに見えていた黒い点

 それが急激に膨張し、巨大化していく


 それが、急速に私たちへ向かって接近しているのだと気づいた時には、既に目の前まで迫っていて……




 ゴォォォウ!!!!!!!


「のわぁぁぁあ!!?!?!?」

「うおおぉぉお!!?!?!?」


「きゃぁぁぁぁ!!!?!!?」



 突風


 巨大物が高速飛翔したにしてはとても小さな凪だったが、私たちの乗る気球を激しく振り回すに余りある空気のうねりが発生した



「ぐぉぉ……一体なんだってんだ……?」

「お、おい!外見てみろよ!!」

「あん?なんだ………うおっ!?」


「ひっ!?」



 バスケットから振り落とされないよう姿勢を下げ、耐える

 揺れが止み、籠から顔を出して見えたものは………




 巨大な瞳が、私たちを覗いていた




「な、なん、なん、な……」



 爬虫類を想起させる縦長の瞳孔に、黄色く透き通った虹彩。瞬膜がぬるりと動き、目の乾きを潤す


 私は身がすくみ、蛇に睨まれた蛙のようにその瞳から目が離せなくなってしまい………






〈〈お知らせします。竜種と初めて接触したプレイヤーが現れました  遭遇者 「フレイニ」………〉〉


〈ユニーク称号『竜との初遭遇者』を獲得しました〉

〈BPを1獲得しました〉

〈[竜警の玉石]を手に入れました〉


〈称号『愚かなる小虫よ』を獲得しました〉

〈BPを10獲得しました〉

〈スキル『上級隠密』が獲得可能になりました〉





「………はっっ!?……はぁっはぁっはぁっはぁっ!」



 いきなり視界を流れたログ。それが気付けとなり、無意識に止まっていた呼吸が再開する




「ま、まじか、ドラゴンで確定かよ……!?」

「ふおぉぉ…!リアリティやべぇぇ…!クソ、画面に全部写りきらねぇ…!?」



 巨大な瞳の主──超巨大な竜が、気球の籠からゆっくりと顔を遠ざける

 そのまま、興味深そうに気球の周りを優雅に旋回し始めた

 まるで、珍しい虫ケラでも観察するが如く


 いつ竜の気が変わって攻撃されてもおかしくない

 人間どころか、この気球すらも一口で飲み込めそうな顎が開かれた時こそ、私たちの終わりだろう


 でも、そんな規格外な存在に目をつけられているにも関わらず、同乗者の2人には危機感が感じられなかった



「でけぇぇぇ…!!デカすぎんだろ…!?」

「羽の生えたラオシャ◯ロ◯サイズだと思ってたけど、体長はジエ◯・モーラ◯はあるんじゃねぇか……!?」


「ちょ、ちょっとあなたたち!?なぜそう冷静でいられるんですか!?」


「クラマスゥ!これが冷静に見えるかよ!!大興奮だぜ?!」

「ドラゴンだぞドラゴン!!しかもバカデカい!!最高すぎる!!」


「えぇ……」


「なんつーリアル!なんつークオリティ!!なんか威圧感っぽいのもビリビリくるし、最高!!」

「バンジーのジャンプ前みたいな恐怖感あるよな!!目の前のドラゴンも合わせて最高すぎる!!」



 興奮で語彙がなくなっている……

 どうしましょう、怖がっているのは私だけかもしれません



「で、でも!この竜に襲われる危険性は考えないんですか!?」


「え?いやぁ……今更?」

「ドラゴンに殺されるのも、そこらの雑魚魔物に殺されるのも別に変わらんし」

「襲われても勝てないし、今はこの状況を楽しもうぜ?」

「そうそう、映像情報大事!スクショスクショ!」


「そ、そういうものなんでしょうか……」



 たしかに、圧倒的な力に押しつぶされるのも、ギリギリの戦いで競り負けるのも、同じ「死」ということには変わりない

 そしてゲームでは、たった一度の死の価値はとても安い。彼らの方が正しいのかもしれません……


 私がモヤモヤしてるうちに、竜の興味が、籠の中にいる小虫から、気球の気嚢部分へと移った

 熱された空気で膨らんだ球皮を見て、竜は前腕にある長く鋭い爪を一本だけ突き出し………



「「「あっ」」」



 ぶすっ、と


 まるでプリンを突っつくかの如く突き破ってしまった


 気嚢に巨大な穴が空き、勢いよく空気が漏れ出ていく。バランスが崩れたことで、下にぶら下がっているバスケットもぐらりと傾き……



「まっず!?お、おわぁぁぁぁぁ───」



 スクショを撮ろうと身を乗り出していたメンバーの1人が、籠から落ちてしまった



「あぁ〜、こりゃまずいかもな……」


「どうしましょう、このままでは私たちも墜落してしまいます!!?」


「いや、それよりももっとやばいことになるかも」


「え…?もっと、やばい…?」


「今あのドラゴン、落ちてったあいつを一瞬()()()()()()んだ」



 落ちたメンバーを、竜が追いかけようとした…?

 それが、なぜもっとやばいということになるのでしょうか…?



「多分こっちの方が2人で人数多かったから戻ってきたんだろうけど、もしこのまま墜落したら……」


「ま、まさか……!?」


「地上まで、ドラゴンをトレインする(引き連れていく)ことになるかもしれん」



 そ、そんな……!?

 私たちが死に、気球が壊されるだけでなく、この巨大な竜が地上で暴れ回るかもしれない……!?



「ど、どうしましょう!?これ以上にないほどの大迷惑がかかってしまいます!!?」


「さすがにまずいな。でもただの予想だし、杞憂で終わる可能性も………」



 ボフゥッ!!



「あっ──」


「あ、あああああ!!?!?」



 いきなり吹いた突風に、残っていたメンバーも飛ばされて落ちていってしまう

 その突風は、顔を近づけた竜の鼻息だったと後になって気づいた


 そして竜は、あの方の懸念が当たってしまったのか、落ちていくメンバーを追いかけるように下降を初め………



「い、行ってはだめです!『ライトウィング』!!」



 まだ上空にいる私に目を向けさせるよう、竜の背中へ攻撃を放った

 竜はまるで、矮小な存在が自分に歯向かったことに心底驚いたような様子で振り返り……



「GUORURURURURU……」


「ひぃっ!!?」



 苛立ったような目で、私を睨みつける

 この不遜な虫ケラをどういたぶってやろうか、そう考えてるかのようだった


 低く腹の底に響く唸り声を鳴らしながら一時(ひととき)ほど睨まれたのち、おもむろに身体を起こし、前腕を振り上げ……



「あぁ………」



 ザシュッ!!!


 空に、四本の斬撃が(はし)

 巨大で強大な竜は、ただ軽く腕を振るうだけで斬撃波を生み出してしまったのだ


 その巨体故か指の間隔が広く、私に直撃することはなかったが……乗っていた気球は、バラバラになってしまった



「あ、きゃぁぁぁぁ!!?わぷっ!?」



 遅れてやってきた突風に吹き飛ばされ、私も落下する………と思ったら、なにか布のようなものにぶつかる

 これは……竜に刻まれて輪切りになった、気球の気嚢部分……?



「うっ、そっ、外がっ、見えっ、うぶぅっ!?」



 なんとか外に顔を出そうとするも、強風で布が体に張り付いて思うように動けない

 なにもわからない恐怖に支配されながらも踠き続ける。竜がついてきていないことだけを祈り………





「ナイスキャッ……チィィ!!?」


「きゃあっ!?」



 いきなり横からの衝撃がくる


 急に晴れた視界では、目まぐるしく移り変わる景色と、私を救出してくれたのだろう男性の顔が映っており………



「設定変更![大岩]『跳躍』!!」


「ひゃっ!?」


「あ、だめぽ」


「ええええっ!!?」



 ほんの少し和らぐ落下速度

 そしてなぜか諦めの表情をする男性



「んぬおぉぉぉ!!!!」


「ひゃぁぁ!!?」



 と思ったら、唐突に真上へ放り投げられる

 理解が進まないまま、下から連続で吹き飛ばされ、と思ったら癒しの光が飛んできて────






「「よかった、無事だった」」



 思わず敬語が抜け、素で喋ってしまう

 どうやら、2人とも無事に地面へ降り立つことができたようです


 落ち着いて助けてくれた方をよく見たら、最近話題になっている「コオロギ」というNPCの方でした

 いわゆる「お助けキャラ」だそうで、攻略のヒントを売ってくれたり、ピンチを救ってくれたりするそうです


 居住まいを正し、しっかりとお礼を言おうと思い………




 ズゥゥゥゥン!!!!!!!!



「ひっ!?」


「っ!!もう来たか!!」



 安心感から忘れていた。ソレの存在を


 最悪だ。想定する最悪の事態となってしまった

 地上まで、ソレを引き連れてきてしまった



「はっ、早くっ、早く逃げてください!!あ、あれが、あれがきます!!?」


「どうどう落ち着けって。緊急事態(エマージェンシー)なことくらい、あんたが空から降ってきた時点で把握してるから」


「ど、どうしよう、また私のせいで…!!」



 また私のせいで、大勢の人に大迷惑がかかる

 それに、私を命懸けで救ってくれたこの方も犠牲に………



「GOAAAAAAAAA!!!!!!!!」


「ひぃっ!?む、無理です!いくらあなたでも、あれは……!!」


「わかったから!走れ!!」



 いくらピンチを救うお助けキャラでも、あれを相手にできるとは到底思えない

 だって相手は、最強生物ドラゴンなのだから



「ド、ドラ、ドラ……!!!」


「えも……!!」



 ドラえも……?


 コオロギさんの突然の冗談に、少し緊張が緩む

 それを見計られたのか、私は半分引きずられるように手を引かれて走り出した



 ちなみに


 ラオシャソロソ:体長約69m

 ジエソ・モーラソ:体長約111m


 シロナガスクジラ:体長約25m

 ジャンボジェット:全長約70m


 モンスターヴァース版G◯DZILLA:体長約120m

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