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風が気持ちいい



◆side:フレイニ




 どうしてこうなったんだろう



「いや〜、まさか本当にできちゃうとはな〜」


「これぞヒメサマの先見の明!ってやつですな」


「不可能だろって先入観は足枷になるって、クラマスに気付かされたな」


「こりゃ自慢できるぞ?空への進出なんてRPG後半もんだからな!」


「…………そうですね……」



 私の目の前には、私が設立した──ということになっている──クラン〈ホーリープリンセス〉のメンバーが集まっていた

 普段彼らの前に顔を出すことを避けている私が、全員が集まっている場所に姿を見せたのは、ある大仕事を成し遂げてもらったからだ


 ……本当は、成し遂げてもらうつもりはなかったのだけれど。成し遂げてほしくなかったのだけれど

 でも、発言の責任は取らなきゃいけない



「テスト飛行に姫を同乗させるだと!?バカかお前らは!!」

「そうだそうだ!そんな危険なことを姫にやらせるなんて気は確かか!?」

「お前らこそ気は確かか?!のめり込みすぎだ!ゲームで死んだとしても補うことはできるだろ!!」

「危険よりも、姫に最初に空へ到達したプレイヤーという栄誉を授かってもらう方が大切だろ!!」



 また争ってる……

 仕事を与えたおかげで、他プレイヤーとの衝突は少なくなったのだけれど、そのかわりにクラン内での喧嘩が頻発するようになってしまった

 彼らは争わないと生きていけないのでしょうか




 私はあの日、暴走状態の彼らへと目的を与えるため、空への進出を提案した

 競争相手が多いようなことだと、相手との衝突や妨害、嫌がらせが何度も何度も発生するので、誰も目指さないだろうことにした


 もちろん空への進出なんて、ゲームが始まったばかりの現状では到底不可能だろうことは想定していた

 彼らもそのことは薄々気づいていたのだろうけど、それでも()のために尽力してくれると考えてのことだった

 私の思惑が叶った数少ない例です


 彼らが私のお願いよりも、無理難題へと挑むことへの諦めの感情が勝つまで、できるだけこの意味のない挑戦をさせ続けられれば御の字だと考えていた



 でも、彼らは成し遂げてしまった


 空への進出となって、はじめに考えられたのが熱気球だった

 人類が初めて空に到達した手段らしい。複雑な機構も少なく、自由度の高いこのゲームなら再現できるのではないかと話されていた


 もちろん問題も多くあった

 バーナーはどうするのか。燃料はどこから持ってくるのか。人が乗れるほど丈夫なバスケットやワイヤーは作れるのか

 特に、気嚢(きのう)部分に使う熱に強い球皮はどうやって調達するのか。これが一番の難題だったようです


 しかし、これは意外なところから解決した


 メンバーの一人が、偶然マーケットから買ったという[綿雲の布]という素材が、火と水に耐性があった

 これを使った小型模型では、熱で変形することもなく飛ばすことに成功した


 これでほとんどの問題が解決した。他の問題も生産スキルや魔法、火属性の素材を応用したりして次々と解決してしまった


 でも、一つだけ問題が残っていた

 [綿雲の布]がなかなか手に入らなかった


 あの一回以降、マーケットに売られることはなかったらしい。プレイヤーが出品しているはずなので、自分たちでも入手できると探したが、それらしきものは見つからなかった


 さすがに見つからなすぎて、代用品を探そうかという話が出始めたとき……

 昨日、またマーケットに[綿雲の布]が入荷された。それも大量に


 前回よりも値段が高くなっており、それに買うたびにどんどん値段が上がっていった

 それでもほとんどの布を抑え、買い占めることができた。初期メンバーの方たちが、なぜか大量の資金を持っていたらしくて……


 そういう経緯もあって、私が「空を目指す」と言ってからわずか数日で、搭乗可能な気球ができてしまった




 そして今、試乗が行われようとしている

 秘密の作成場所として選ばれた、プレイヤーが立ち入ることの少ない『ファスト』の西の巨蟲エリア、その奥地で私へのお披露目がされていた



「え〜〜……それじゃあ、姫と一緒に俺たち幹部から二人出して乗るってことで決まりでいいか?」


「確か3人は余裕で乗れるんだろ?」


「ぐっ……くれぐれも姫に危険がないよう頼むぞ!」

「姫、ご武運を!」

「どうかご無事で!!」


「……はい、行ってきます」



 何度言っても姫呼びはやめてくれないんですよね……


 クランメンバーに見送られて、気球のバスケットに乗り込む

 既にいつでも離陸可能な状態にセッティングされていた気球は、メンバーの一人が合図を送ると、ゆっくりと上昇を開始した



「うお、おぉ……結構揺れるんだな。操縦大丈夫なのか?」

「うるせぇなぁ、これでも精一杯やってんだぞ?これのために一夜漬けで勉強させられてんだからな?」

「それはすまん。でもできるようになっとかないとあいつらうるさいし」

「それをなんで俺一人に押し付けるかなぁ??揺れるのは我慢してくれ、気球が小さいんだから」


「……………」



 一緒に乗っている初期メンバーの方……つまりクランの幹部の二人が口喧嘩を始める

 彼らは他の方よりは控えめだけど、なかなか口の悪い方たちだ。とても居心地が悪い


 私が黄昏れている間にも、気球は高度をぐんぐんと上げており、もう下にいる人たちが米粒のようになっていた



「おーすげぇいい景色!スクショスクショ」

「あ、クラマスそこ立って?スクショ撮るから」


「は、はい、こうですか…?」


「う〜ん、ピースってよりただ微笑んでるだけってのが絵になるかな?」

「これ送っときゃあいつらも文句言わんだろうよ」



 眼下に見える生い茂った木々に、青い空に白い雲。おそらく私たちがプレイヤーの中で初めて見た景色を写真(スクショ)に収める

 途中で、私の写真も撮られた。どうやらクランメンバーの方たちにお願いされていたようです



「にしても、本当にいい景色だなぁ…。ゲームじゃ目がよくなってるから余計そう感じるぜ」

「そういやお前、現実では眼鏡デブだったな」

「おいデブ言う必要あったか?なんでデブ言ったおいてめぇ」

「眼鏡なしでも見えるようになるのに眼鏡かけてるやついるよな。某ウィザードのインテリ気取りバカとか。あれなんでだ?」

「知らんわスカしてるだけだろ。それよりなんでデブ言ったか答えろや」


「……………」



 できるだけ雑音を意識から遠ざけ、空の景色を眺める。ああ、風が気持ちいい





〈〈お知らせします。空へ初めて到達したプレイヤーが現れました  到達者 「フレイニ」………〉〉


〈ユニーク称号『空の初到達者』を獲得しました〉

〈BPを1獲得しました〉

〈[雷結晶]を手に入れました〉


〈称号『空に憧れて』を獲得しました〉

〈BPを5獲得しました〉

〈スキル『時空魔法』が獲得可能になりました〉




 ああ、束の間の平穏すらも………



「おお!なんかいろいろ来たな!称号の条件は……「高度300mに到達する」っぽいな?もうそんなところまで来てたのか」

「ユニークじゃない方の称号は、高値で情報売れるぞ?!こりゃ儲けもんだな!」

「『時空魔法』の方は食いつかんだろうけど、BP5はすごいな!みんな空に行きたがるぞ?」

「それもそうだが、俺たちだけがゲットできた[雷結晶]とやら……こいつも扱いようによっては大金になるぞ…?!」


「……………」



 ああ、風が気持ちいい



「よっしゃ、このまま街まで行って自慢しようぜ!」

「そうだな!クラマスもそれでいいよな?」


「………あっ、はい。大丈夫です」


「よーし、そんじゃ、操縦任せた」

「だと思ったよ。えーっとぉ?たしかさっき東向きに風が吹いてる層があったから、少し高度を下げて……」



 気球の操縦を任されているメンバーの方が、バーナーの火を調整すると、気球は街のある東の方角へと流され始めた


 ああ、せっかく隔離できていたのに……とてつもなく嫌な予感がする

 私の功績を喧伝するクランメンバーたち。褒め称え崇めよと言うかのように言いふらし、煙たがられるのが容易に想像できてしまう


 でも、それで済むとは思えない


 私たちを見て、真似しようと思う方は必ず出てくる。気球で飛べるとわかれば、後追いが出てくるのは当然のことだ

 この発想は独占できるものではないし、私のものというわけでもない。誰でもやっていいことだ


 でも、彼らはそうは思わない

 他の方が気球を作ろうものなら、姫に許可を取れだの、特許がどうのだの、アイデア利用料を徴収するだの、やかましく騒ぎ立てて衝突するだろう


 全ては()のために

 私の迷惑も考えず、彼らは猛進し続ける



 ああ、頭が痛い。もう既に憂鬱だ

 彼らを抑えて、各方面に謝罪して、忌避の目で見られて………そんな毎日がまた始まってしまう


 そんな未来から現実逃避するように、眼下の素晴らしい景色で心癒されようとし…………





「おい、あれはなんだ?」



 ()()が、来る


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フレイニを助けられるのだろうか…(竜ではなくクソクランからね)
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