足を取られるなら足を入れなければいいじゃない
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『ファスト』の西のさらに西
虫系魔物の潜む森の奥地。そこは、柔らかな土が敷き詰められた土壌の緩い土地であった
幼虫や地中に潜む魔物が生息しており、地面から飛び出してくるマップとなっている
また、魔物が掘った穴に柔らかな土が降り積り、天然の落とし穴になっている場所もある
本来はそんな場所であるが、今は一風変わった姿を見せている
緩い土壌に雨が降り、一時的な泥沼へと姿を変貌させているのだ
人が足を踏み入れれば、膝下あたりまで沈む泥が一面に広がっているだろう
この泥の部分には地面判定がなく、踏みしめることができない。足が沈み切った場所が地面扱いとなっており、強制的に動きが制限されてしまう
踏み出した足がズブズブと沈みきり、反対の足をズボッと引き抜いてまたズブズブと泥下の地面まで沈めさせる
その繰り返しとなるため、歩き状態になってしまうのだ。スピード型には地獄だな
そういう俺もスピードメインだ
防御はほとんど考えておらず、一応パリィや『バリア』で防ぐ方法もあるが、基本的に攻撃を真正面から受けれるような性能はしていない
なので動きが制限されるようなことはしたくない
ということで、対策をした
スコーーン!スコーーン!スコーーン!
「うん、竹馬最強!!」
底面積の小さな竹馬でスコーーン!と一気に地面まで突き刺す
その後は、抵抗の少ないまっすぐな竹馬をスポッと抜いて、またスコーーン!とぶっ刺す
まっすぐ刺してまっすぐ抜く。なかなかコツのいる歩き方だけど、泥沼を直接歩くよりは全然マシだ
ぶっ刺したあとに足を乗せるのが安全だぞ。一時的に一本に両足を乗せれるよう、足場はぐるりと円形になるように付ければ安定性もある
「竹馬便利で安価すぎるんだよなぁ」
竹馬以外にも、地面を凍らせたり固めたり、水上歩行のできる魔法や靴を使うって対策法もある
でも、最序盤からできてとても安上がりで済むのが竹馬だ
特別な材料も特別なスキルもいらないのに、竹馬の汎用性が高すぎる件
泥沼や一部のダメージ床などのフィールド効果、感知式の罠まで無効化できる優れものだ。10フィートの棒ならぬ10フィートの竹馬だな
正確には地面から足裏までが3メートルなので、竹馬全体の長さは5メートル弱だけどね
「っと、また来やがったな」
突然、ゆるゆるの泥地面がボコボコと隆起し、ボフォッと巨大な魔物が顔を出した
土色の体色をした細長い胴体をもつミミズの魔物、その名も[タイニーワーム]
まさかのダンジョン15層目のボスが登場した
「グロロロロロ…」
「よっしゃ、サクッと狩りますか!」
え?こんな竹馬装備でどうやって戦うのかって?
もちろんやり方は存在する。さてどうするでしょーか?
「グロオッ!!」
「離脱!!」
ミミズが口を開けて襲いかかってくるのを、竹馬を蹴って避ける
正解は竹馬を捨てるでした〜!
取り残された竹馬は、ミミズが体当たりしてボキッと破壊されてしまったが、あんなの元から消耗品扱いだ
弓矢の矢くらいポンポン捨てても大丈夫だ。下手したら矢よりもコスト低くなるし
「着地!『ウィンドストーム』!」
「グロロロッッ!!」
新しい竹馬を取り出して、高さがあるうちに真下に向けてズボッと着地。ミミズが振り向く前に『ウィンドストーム』で反撃をしておく
「グロロォ!!!」
「あらよっと、『エアカッター』!」
「グロォ!!!」
「よいしょっ、『エンチャント・ウィンド』『ウィンドアロー』『激射』!!」
「グロロロッ!!」
「外れっ!『ウィンドアロー』『豪射』!!」
避けては攻撃、避けては攻撃の繰り返し。いつも通りだな
魔法を直接放ったり、『ウィンドアロー』を弓につがえて放ったり。クールタイムがあけたものからバンバンぶっ放していく、MP消費を気にしない戦い方をしてみた
[月光草]を使ったタバコのおかげで、1秒に3MP、1分で180MPも回復してるからな
むしろどんどん消費しないと過回復になりかねない
「これで、とどめ!!」
「グロォォ──」
1分と経たずミミズがポリゴンへと還る
まだタバコの効果時間が残ってるのに……もったいない
とりあえずタバコの火を揉み消す
こうすることで残りの効果時間を保持できるが、1分ほど削れてしまう。吸い続けるか揉み消すかはその時の状況次第だな
今回はエンカウント率が低いので、揉み消して保持することにした
非戦闘時でも何もないとこに魔法を撃って消費することはできるけど、それじゃ経験値あんま溜まらんしもったいないんだよな〜
エンカが2,3分に一回とかなら吸い続けるのもありなんだけど……
「そろそろ出ないかな〜、『解体』」
ミミズのドロップアイテムをヘビポーチで回収
破壊された竹馬たちも、修理して再利用できるので回収しておく
「お、おおお?」
しかし、事態が急変する
急いでヘビポーチを呼び戻し、タバコに火をつけ直す
さっきと同じタバコだが、一度吸うのをやめたことで別判定になり、クールタイム中に同種の薬を使ったことで〈中毒-レベル1〉が発生。10秒ごとに最大HPの1%が削れていく
泥がボコボコと隆起する、さきほどのミミズと同じ現象が起こる
ただ、その数が違った
ボフォッッと姿を現した[タイニーワーム]。その数………4体
仲間の敵討ちってわけか
さらに、それで終わりではなかった
「ようやくお出ましってわけか……!!」
一際大きな泥飛沫をあげて飛び出した、普通の[タイニーワーム]の倍、いや3倍はある巨大なミミズ
その名も[マッドワーム]。魔物の格としてはマーダーベアと同等かそれ以上の魔物だ
そんなやつが取り巻きを4体も引き連れて出てきやがった
対してこちらは竹馬。なかなか厳しい戦いになるだろう
まあ、ここに来た目的はこいつを討伐することなんでな。想定内だ
さて、サクッと倒させてもらうぜ!




