2回目の進化
キリのいいとこまで書けたので、今週から水・金・日更新
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◆side:クロート
夜になった。生産レベリングは切り上げて、ミュラの『憑依』の特訓を見るためにハウスへ戻ることにした
「帰ったぞー。サボらずちゃんとやってたか〜〜ぁっぶねぇなおいコラ」
「ーーー!」
「おーっ、結構上達っ、してんじゃんっ、でも俺は的じゃないぞ?」
「ーーー!」
「命中精度もっ、申し分ないっ、なっ!ちゃんと練習っ、しててえらっ、いぞっ!でも俺は的っ、じゃないからな?」
「ーーー!」
「うん、わかったからっ、いい加減俺にフォーク投げるのやめろ」
帰ってきた俺を出迎えたのは、無限に射出される食器類の弾幕だった
食器を投げるんじゃない!お行儀悪いだろ!投げるよう指示したの俺だけど!!
俺がミュラに出した特訓メニューは皿の置き換え以外にも、ナイフやフォークでの的当て、トランプタワー作り、ぬいぐるみダンス、食器同士を割らないようにキンキン鳴らすなど、とりあえず思いつく限りのことをやらせてみた
部屋を見渡してみれば、なぜか天井に刺さったフォーク、一段だけのトランプタワー、割れて散乱したお皿なんかが散らばりまくってる
うんうん、頑張ったんだな。片付けるのめんど
ただ、操作精度が上がったのはいいが、今回の目的はレベルだ
レベルを上げるために熟練度を稼いでいたのであって、ぶっちゃけ操作精度はそこまで重要じゃなかったりする
だって進化したら上位スキル生えるもん
「レベルはどうかな?『鑑定』。おっ、ちゃんと残りの1レベルも上がってるじゃん!ミュラナイスだ!!」
「〜〜〜〜♪」
「よっしゃ、じゃあさっそく進化だ!」
分岐進化に必要だった条件、『憑依』レベルマックスもこれでクリアした
念のため見落としがないかメモを確認し、進化先を選ぶ
進化選択画面を出すと、[ハイゴースト][テラーゴースト][ホーント][ポルターガイスト]の四つの進化先が出てきた
……[ホーント]の条件なんていつ満たしたんだ?まいいや、最初から決まってた進化先をサクッと選択した
「[ポルターガイスト]で」
「ーーーー?」
選択した途端、ミュラの身体にまたも変化が起きる
輪郭はそのままに、外見がどんどん………というか、元の面影が輪郭ぐらいしかない
半透明なゾンビの上半身だった見た目から、かろうじて人型と判断できるモヤのような霊体のようなエクトプラズムのような……なんかそんなかんじのナニカになった
あっ、ダメダメ羽はあかん羽は
羽生えるな羽生えるな羽生えるな〜〜!!
ふぅ、セーフ。ミュラの背中に形作られようとしていたものがまた背中の中に引っ込んだ
危ない危ない。たしかポルターガイストの正体に妖精説があるらしく、そのせいか妖精化することがあるんだよなぁ
そういう特殊変異は、テイマーが強く願ったらキャンセルされるので、望まない変異が来たときは頑張って祈ろう
「ーーー!ーーーー?」
「鏡見るか?」
「〜〜、ーーーー………?」
なんか微妙そう
怖さでいえば、ゴーストのときの方が怖そうだったもんな
今の姿は……ナニコレ?夜トイレに行ったときに佇んでたら漏らすかもしれない見た目かな?
「見た目はまあいいとして、それより新しいスキルを試してみたくないか?」
「ーーー!!」
元気よく手をあげて答えたミュラは、綺麗に重ねられていた皿タワーの前まで行き、その中へ入り込んだ
そして、皿を10枚以上同時に浮かせてみせた
ふよふよと円を描くように浮かんでいた皿は、次の瞬間一斉に飛来してきた。………俺に向かって
「はいっはいっはいっはいっはいよっ!!はい全部キャッチ〜!!」
「ーーー!?」
その全てを割れないようにキャッチし、ポーチへ収納していく
この程度朝飯前だ。でもミュラが面食らっていたので、とりあえずドヤっておく
スキルが進化して俺に当てられるとでも思ったのか?まだまだ避ける必要すら感じられんね
ご主人の強さをとくと思い知るがいい
「初めて使ったにしてはなかなか使いこなせてるじゃん。この調子で頑張ったらもっと上手くなれるぞ?」
「ーーー?ーーー!!」
が、今はモチベーションのために褒めて伸ばす
[ポルターガイスト]の専用スキル───『ポルターガイスト』
種族名と同じこのスキルは、無生物を意のままに操るスキルだ
別スキルにある『サイコキネシス』というアーツとほとんど同じ効果だ。というか全く同じと言っても過言ではない
違う点といったら……[ポルターガイスト]系の種族なら、消費MPがゼロになるってことぐらいかな
強いかどうかでいったら………うーん、弱くはない、かな?
どちらかというと便利系?といっても代替スキルも結構あるから正直微妙……
まあそもそも、[ポルターガイスト]自体が繋ぎの種族だし、性能が微妙なのも問題にはならない
「あと一進化で目的の種族だ。さっそくレベリングにいくぞ!」
「ーー!」
「っとその前に、先にアレを作っておくか」
「ーー?」
次の進化先の条件を満たすためのもの。今はまだ使えないかもしれないけど、一応作っておこう
錬金釜を取り出し、中に木片を適当にどざーっと入れて、クズ魔石を一つ放り込む
後は脳内イメージをコピーアンドペーストする感覚で『錬金』を発動
できたのは、デッサン用人形みたいな木製の球体関節人形、その人間大バージョンだ
そろそろ人型の動きにも慣れていかないとな
「ミュラ、動かせるか試してくれないか?」
「ーー?」
ミュラが木人形に取り憑いて、操作にチャレンジする
床に倒れ込んでいた木人形が、上半身を起こし、腕をスムーズに動かしてみせる
そのまま浮き上がるように立ち上がり、歩いてみせようとするが……
「やっぱまだ無理か」
「〜〜……」
足の動きがぎこちなく、どったんばったんがしんがしんととっ散らかった歩き方になっていた
足をどうにか制御しようとしたせいか、今度は上半身までへんてこな動作になってしまう
しょうがない。レベルが足りないってのもあるけど、ミュラは今まで上半身しかなかったからな
いきなり足をつけられても陸に上がった人魚姫状態だ
「一旦、木人形はおあずけだな」
「ーー…」
「さて、気を取り直してレベリングに行こうか」
「ーーー!!」




