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胡椒ポジ




◆side:クロート




「………ただいまぁ〜」


「ーーーー!!」


「はぁ〜〜クッソ、油断してた。物欲センサーめ、クソみたいなタイミングで顔出しやがって……」


「ーーー?」



 ゲーム内で深夜。日もとっぷり暮れたなんて表現もだいぶ遅い時刻。這う這うの体でハウスに帰還した俺をミュラが出迎えてくれた


 目的のものは手に入れた。手に入れるまで粘った。粘った結果、こんな時間になってしまった

 予定じゃ昼過ぎには終わって、夜になるまで生産レベリングの続きでもしようと思ってたのに……


 レアボスのレアドロップ。レアが2つ続いて気遅れしそうだが所詮は序盤の凡レア

 確率にしたらレアボス20%のレアドロ10%を同時。2%もある。試行回数50回ほどで理論値が出せるはずだった。が……


 今回俺が『森の洞窟』を周回した回数、150回超え

 クソすぎる



「もう深夜1時、15時間もやってたのか…。現実(リアル)は20時か……。めんどいけど、先に飯食わないとな」



 あーめんどくさい、このまま続けたい。でも夕飯食べないとバイタルチェックが……あーめんどくさい


 フルダイブ型のゲーム機器が登場するに当たって危険性がどうのこうの騒ぎまくられた結果、健康管理やリミッターとかのあれやそれやがゴリゴリに強化された

 特に時間加速は精神状態にモロに影響が出る。昔のゲーマーは飯抜き徹夜三昧なんてあったらしいが、現代のゲーム廃人はしっかり三食取って夜には寝るようになった


 一食くらい抜いてもバレないけど、そういうのが積み重なって1日フルダイブ禁止を突きつけられたりする。あの虚無感はなんとも言い難い



「すまんミュラ、あと30分ほど──こっち(ゲーム)じゃ1時間くらい追加で待っててくれない?」


「ーーー!?」


「ごめんごめん、すぐ戻るから!」



 そうして俺はミュラに謝りながら、そそくさとログアウトした






 適当に飯食って再ログイン


 ……よく考えたら、今はそこまできっちり健康に気をつける必要はないのか?

 時間加速システムはたしかこの頃に出たばっかで、バイタルチェックもそこまで重くなってないはず

 それにその時間加速も、まだまだ()()()()2.5倍だからな


 うん、今度からもうちょい甘めにしてみよう



「ーーーー!!」


「おう戻ったぞ。さっそくレベリングに………行きたいところなんだが、まだちょっとやりたいことがあるんだ」


「ーーー!?」



 おあずけ食らわせ続けてるミュラには悪いが、もう少しやることがある

 せっかく15時間も粘ったんだ。その成果はさっさと出しておきたい



「すぐ終わるから待ってろって。さてと、とりあえず『ジョブチェンジ』。メインジョブを【農家】に」



 作業に入る前に、ちょっと前にカンストしたばっかりの『無魔法』のアーツ『ジョブチェンジ』で、既に就いたことのあるジョブの【農家】に再転職する


 一回の使用で最大MPの半分が持っていかれる、結構重めの魔法だ

 ちなみに、最大MPが200未満のときは100MP使う。序盤じゃあんまり使いたくない魔法だな



「よし、まずはロープを用意しまして……」



 俺は取り出したロープを持って畑に向かい、一本の(うね)に植っている作物と作物の間を測りとり、ロープに印をつける


 この畝は『栽培』のアーツ『畝立て』を使って作ったものであり、そこに備わった作付けポイント間の長さは、作物がしっかりと成長できる最短の距離である

 これ以上距離を縮めて植えると、成長に時間がかかったり品質が落ちたりしてしまう


 また、この長さは、配合・品種改良を行うのに最適な距離でもある



「次に、ここら辺を整地してと」



 畑の端っこの作物を収穫し、畝を(なら)して平らな場所を作る


 そしたら、均した場所の真ん中らへんに印をつけて、そこを中心に、さっき測りとったロープを使ってぐるっと円を描く。そこにスキルなしの手作業で円形の畝を作る


 さらに、その円上にロープを使って6つの印をつける。この印同士を結んだらちょうど正六角形になる位置に、だ



「よし、うまく作図?ができた。あ、言い忘れてた、魔法陣完成〜!なんつって」


「ーー?」


「ごめん今の忘れて」



 これで、隣り合った印同士、そして印と中心の距離が全て、配合に最適な距離となった円形の畝、通称「畑の魔法陣」が完成した


 これは通常の配合では使われない、3種以上の植物を同時に配合する時に使用される特殊な畝だ


 2種類の掛け合わせなら直線の畝でいけるし、3種類でも、2種ずつ順番に掛けていけばいいものがほとんどだ

 しかし、たまにこういう()()()配合しなきゃできないやつが出てくる。そのために編み出された魔法陣だ


 噂では、このやり方はゲーム内でヒントと答えがあったらしいが、それが発見されるより先にプレイヤーが開発したとかなんとか。すげーな先人達



「さてと、そんでこの畝に掛け合わせるものを植えていきまして……」



 その次に俺は、円形の畝につけた6つの印のうち5つに、いままで手に入れた作物を植えていく


 [初級ポーション]の材料の一つである[三日月草]

 [初級マナポーション]の材料の一つである[満月草]

 [初級スタミナポーション]の材料の一つである[半月草(上弦)]

 [初級まんぷくポーション]とかいう、使いどころがほとんどないマイナーなポーションの材料の一つである[新月草]


 そして、昼にハイエナ獣人のPK、ネムと協力して手に入れた[半月草(下弦)]

 使い道は上弦とほとんど変わらない、同じものと扱っても支障のないものだ。だが、これらは一応、別種扱いされている


 これらを丁寧に植えていく。6つ目の印は今回は使わない、5種の同時配合だ


 そして最後に、円の中心にあるものを埋めるべく、それを取り出す



「見てみろミュラ!これが15時間、15時間もだぞ?中盤以降じゃカスアイテムになるものに15時間も粘って手に入れた、ライトサーペントのレアドロップ…………[光結晶]だ!!!!」


「〜〜〜………」


「ああ、ミュラはアンデッドだからこれちょっと無理か」



 うっすらと光ってる白い水晶みたいなそれをぐいっと見せつけると、ミュラは臭いものでも近づけられたかのように顔を遠ざける

 あ、鼻つまんでる。本当に臭そう


 これを手に入れるためにどんだけ無駄なことさせられたか……


 いや、たった一つのアイテムを手に入れるために何十時間も、なんなら何百時間も周回し続けるなんてことは珍しくない


 でもなぁ、後になったらポロポロ手に入るもののために、適正レベルの数段下のフィールドを周回し続けるハメになったことはなかなかに堪える

 経験値も他ドロップもそんなに美味しくないっ!!


 まだまだスタートダッシュにカウントできる期間に、15時間を無駄にして手に入れた努力の結晶を、円の中心にズボッと埋める



「よし、最後の仕上げだ」



 あの時にネムに教えた、「五つの月、一つの結晶、夜の光」。あれはゲームで出てくるヒントそのまんまだったりする


 これ、そこそこ序盤の方に出てくる文章なんだけど、何についてのヒントかもわからず随分謎のままになっていた

 ゲーム側としては、「畑の魔法陣」の答えがわかったあたりで追加のヒントを出してひらめきを与える予定だったらしい。その前にプレイヤーが発見しちゃったけど


 さておき、これでやることの3つのうち2つが完了した。5種類の「月」がつく草、結晶は[光結晶]でしかできない


 残りは夜の光、つまり月の光だ

 都合のいいことに今日は綺麗に月が出ている



「何時間分必要なんだっけ?20時間だったか50時間だったか……まあいいや、できるまでやればいいか。『作製加速』」



 重要なのは「夜の光」ってとこだ。月は昼間にも出ているが、夜に出ている月の光でないといけない


 それを()()()、何十時間も当て続けなくてはならない


 普通では不可能だ。これを行うなら、環境が〈極夜(きょくや)〉や〈常夜(とこよ)〉の場所でやるか、今俺がやってるみたいに『作製加速』を使うしかない


 タバコをすっぱすっぱ吸いながら『作製加速』をかけ続ける。すると、3本目のタバコを使い始めたあたりで、[光結晶]を埋めたところからピョコっと芽が出てきた



「お、20時間だったか。50時間は花の方だったな」



 そのままムクムクと成長していき、黄色みがかかった白い葉っぱが生えてきた



 これこそ俺が、寄り道してでも手に入れたかったもの、その名も[月光草]だ



 あと2,3週間待てば簡単に手に入る[光結晶]をわざわざ今入手しに行き、カルマ値を上げてまでNPCから[半月草(下弦)]を盗み出してまで欲しかったもの

 その性能は、苦労を払拭してあまりあるものである


 その使い道は、ポーションをはじめとした薬品系を製作するときに使うと、その効能がどちゃくそ上がる。デメリットなしで


 基となる薬の効能で強化度合いは変わってくるが………たしか[初級◯◯]系だと、3〜4倍くらいにブーストされるんじゃなかったかな?


 オーバースペック?おっしゃる通りで。本来こんな序盤に入手できるものでもないし

 本来登場するタイミングだと、主要な薬は[上級◯◯]系だった。それに[月光草]を使っても1.5倍程度だ。元の回復量からすると十分えぐいけど


 そんなブースティングアイテムが、廃人による検証によって、最序盤に入手条件が全部満たせることが判明してしまった



「いやぁ〜やっぱあれくらいの回復量はないとな!やっと調薬が始まるってかんじするわ〜」



 周回勢にとって[月光草]の早期入手は基本中の基本。[月光草]を使わない初級回復薬は頼りなさすぎる


 そう、料理でいったら水ぐらい重要………水は言い過ぎか。えーっと……胡椒くらいには大事かな?

 A5和牛みたいなそれそのものが高級食材ってわけじゃないけど、でも高級料理には必須級で、しかも家庭料理にも使えるような

 薬における胡椒ポジションが[月光草]だ


 ……我ながらナイスな例えだったんじゃないか?ほら、胡椒は昔同じ量の金と同価値とか言われてたらしいし





「ま、本当のチート級アイテムはこっから花咲かせなきゃいけないんだけどな」



 [月光草]が花をつけたら、もっとバケモノじみた効果となる。できるなら今すぐにでも欲しいくらい


 だが、今はその条件を満たせられない。花を咲かせるには、【農家】の()()()が必要だからだ



「あ〜さっさと下級職時代突破してぇ〜」



 下級職は自由度が低い。結構自由にやってるように思えるが、上級職以降と比べれば、ただ決められた筋書きを辿っているようなものだ



 なんてったってAWRは───「下級職コンプまでが()()()()()()()」と言われているからな


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― 新着の感想 ―
お、おかえりなさい 1年待った甲斐がありました
更新お待ちしてました!これからも楽しみにしてます!
更新再開だヒャッホーウ!ありがとう、ずっと待ってた!
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