間話 アンノウン
◆side:???
「ありゃりゃ……。早まったねぇ〈ファーマーシー〉も」
そうひとりごちながら、ゲーム内掲示板を読み流していく
今私が読んでいる生産掲示板では、〈ファーマーシー〉の元メンバーを名乗る人による事態のあらましの説明と、再就職先を探すような動きが行われていた
高レベルのプレイヤーだろうけど、問題を起こした人かもしれない。クランに入れるのはどこも慎重になるだろうね
面白そうなのがいたら、うちに入れてみるのもいいかな?
「もったいないねぇ、面白くなってきたってときにさ……」
「クランマスター、お客さんを連れてきました」
「お、来たみたいだね」
掲示板を閉じたタイミングで部屋のドアがノックされる
どうやら約束していたプレイヤーが到着したらしい
「失礼、します」
「やあやあよく来たね。遅かったじゃないか!」
「なんか、衛兵さんに、たくさん止められた」
「………え?もしかして正面から街に入ったの?あんなことやっといて?」
「?うん」
「まじか……、よく無事だったね。ほら、こっち座りなよ」
訪問客を椅子に座らせ、お茶を出す。私はその対面に座りながら、目の前にいるプレイヤーを軽く観察する
ぼんやりとした雰囲気で、なにを考えているのかわからない。何が好きで、何が嫌いなのかも
私はそんな彼女……いや、彼を、どうにかしてうちに勧誘したいと思ってる
どう糸口を掴もうか考えていたら、先に相手側から話しかけてきた
「さっそくで、悪いんだけど、ここに入ったら、生産設備とか、使ってもいいって、本当?」
「ああ、もちろんだよ!設備の数も限られてて本来なら順番で使ってるんだけど、君なら特別待遇で最優先で使わせたげるよ!」
「それは、うれしいな。お金がなくて、家、買えなかったから」
「うん?そうなの?君の腕前なら、作ったものを適当に売ればすぐに資金は貯まりそうなもんだけど」
そう私が言うと、目の前の青年は、開いてるのか閉じてるのか微妙な目を僅かに見開いて驚きを露わにしていた
「………その発想は、なかった。全部、自分で、使いたいから」
「な、なるほどね」
「あ、あと、アイテムも、使い放題って、言ってた?」
「うん、言ったね!うちは基本自由だからね。うちに納品されるアイテムは誰でもどれだけでも使ってオッケー───」
「だめですよ?」
「ヒャイッ」
私のアピールトークがフル回転し始めたところで、青年を連れてきたサブマスターからピシャリと忠言をくらってしまった
ちょっと、今いいとこだったのに邪魔しないでよぉ!
でも、彼には逆らえないんだよね…。昨日も私のやらかしを尻拭いしてくれたし
でもしょうがないじゃん?骨といったら骨粉でしょ!思いついちゃったら試したくなるのが人のサガってやつだもん!!
「って、なんでサブマスがお客さんの案内をしてたの?他のメンバーは?」
「クランマスターがまたなにかやらかしそうだったので、私が監視に来ました」
「信頼されてないなぁ、おねーさん悲ちい」
「と、いうのは冗談で、例のもののサンプルを【薬師】組に届けに行った時に偶然彼が訪れたので、私が対応したんです」
「なぁんだ。……って、例のものってあの[魔草]のことだよね?え、もう収穫できたの?まだ1時間ぐらいしか経ってないよね?」
「そうなんですよ!もう収穫できたんです!!」
「ひょわっ!?」
さっきまでクールだったサブマスが、いきなりキャラが変わったかのように目をキラキラさせ始める
しまった、農家キチのスイッチを入れてしまったようだ
「通常の[魔草]は植えてから育ち切るまでに3時間。それが1時間で収穫できるんです!3倍ですよ3倍!しかも収穫量も増えているんです!!」
「そ、そうなんだ……。たしか私たちが進めてた品種改良だと、たまに一株から2本穫れるようになったんだっけ?てことは、確定で2本、いや3本は穫れるようになったりして?なーんて」
「5本です」
「はぇ?」
「5本ですよ、一株から!この意味がわかります?[魔草]1本を『株分け』で二株にして、一株から5本ずつ収穫です。つまり、1時間で10倍にできるんですよ!!サンプルなんか持って行かずに増やし続けたらあと2時間で私たちの畑を埋め尽くすことだって!!!」
「ちょ、待って待って!埋め尽くすのはやめて!!」
狂ったように熱弁を続けるサブマスをなんとか諌めようとするが、全くおさまる気配がない
困ったことに、うちのクランメンバーは大半がこんななのだ
まともなのは私ぐらいだよ、まったくもう!!
しっかし、少し聞いただけでも例のものの規格外さがわかるね。これが、〈ファーマーシー〉がなりふり構わず手に入れたかったものか
サブマスをこんな状態にさせてしまったものの正体。それは〈ファーマーシー〉が依頼を出していた、とあるNPCが保有しているとされる最高品質の[魔草]であった
それがなぜか、うちに持ち込まれたのである
まあ、あそこはプレイヤーキラーお断りだからねぇ
ほとんどの生産クランはPKお断りではあるんだけど、あそこは攻略クランとの結びつきが強いせいか特にPK排除のケが強いんだよね
あんなカルマ値上がること確定な内容の依頼、プレイヤーキラーぐらいしか受ける人はいないってのにね
そんなわけで、数少ないPKオッケーなうちに来た。まあタダってわけじゃなかったけどね
〈ファーマーシー〉が出してた依頼料よりもだいぶ安くしてもらったけど、それでも5000万Gは払わされたね。現在うちのクランは素寒貧だ
でも話を聞くかんじ、すぐにでも元手は取り戻せそうだね!それどころか大儲けできそうだ。うん、よかったよかった!
「収穫だけでもこれほどすごいのです、ポーションにした時の効果はどれほどのものか……!!惜しむらくは、これ以上の改良点が見当たらないことですね。ですが、目標の参考になるものが目の前にあることはとても良いことです。これを目指して、[薬草]などでの品種改良を続けて……」
「どうどう!いい加減落ち着いてって!お客さんの前だよ!!」
「あっ!!す、すみません、つい興奮してしまいました」
「うん、いいよ。おかまいなく」
機嫌を損ねてしまったかと危惧したが、振り返ったところにいたのはマイペースにお茶を啜るお客さんの姿だった
ほほう?うちのメンバーとしてやっていける素質があるね。これは期待できそうだ!
「……ところで聞きそびれてしまったのですが、この方は一体どういった方なんですか?うちに勧誘しようとしてるようですが、私には全く知らされていないんですけど?」
「あーー………えーっとね、アンノウンって聞いたことある?」
「はい?たしか正体不明の指名手配者を指す言葉で………まさか?」
「うん、彼がそのアンノウンだよ」
訪ねてきたのはお尋ね者、なんつって
私とサブマスが揃って彼の方を見ると、そこには茶菓子をもそもそと食べながらどこか上の空な表情をしている、ゆる〜い雰囲気の青年の姿があった
「……とてもそうは見えませんが?」
「そーなんだよねぇ。というのも彼、どうやら自分がプレイヤーキラーである自覚がないっぽいんだよね」
「自覚がないのにプレイヤーキラー、ですか?」
「実は彼、爆弾が作れるらしいんだよね」
「な、ということは……」
「そ。あの火山の地雷、ぜーんぶこの人が作ったものなんだって。プレイヤーを何百人と爆殺してる凶悪犯が、今目の前に!」
「大問題児じゃないですか…!」
「まあまあ、そんな人このクランにはいっぱいいるじゃん?」
「いえ、勧誘することを止めはしませんが……また管理が大変に……」
ああ、それは一理あるね
問題児が増えたら、その手綱を握る私が苦労することになるんだよねぇ
ほんと、勘弁してほしいな!
「でもさ、彼はかなーりすごい人なんだよ?ほら、[煙玉]って作ったじゃん?あれも彼の提供したレシピなんだよ!」
「そうだったんですか?」
「他にもいっぱいレシピもらってるんだからね?いやーほんとありがたいよ!」
「ん、交換条件」
「ごめんごめん、そうだったね」
そう言われて思い出し、私は一つの武器を取り出した
彼から修繕依頼を受けていたそれ
一見弓のように見えるが、銃のような形の台座に横向きに固定されており、引き絞った状態で保持できる留め具が付いている。さらに留め具は下の引き金と連動しており、引き金を引くことで留め具が引っ込み、弓が発射できる構造になっている
これもかなり興味深いんだよねぇ
「アップグレードしてあげたかったんだけど、機構が複雑でね、簡単な耐久値回復しかできなかったよ。なんなのこれ?」
「……十分、ありがとう。これは、ボウガン。いろいろ撃てる」
「いやそれは知ってるんだけどね?どこで拾ったのさこんなの?」
「………えーっと、火薬の作り方、教えてもらった時、ついでで貰った。錬金釜に、素材をポイポイ入れたら、すぐできた」
「ついでって……」
この性能、生産職の護身用武器としてすごく有用なんだけど?
同じようなものを作ってみようとして、それ自体は成功したんだけどさ
必要だったスキルが『木工』『鍛治』『彫金』と、複数あったんだよね。現状いろんな生産スキルに手を出してる私ぐらいしか作れないんじゃないかな
それを一瞬で、か……。『錬金』かぁ、扱いが難しくて放置してたけど、やってみようかな
「これ作った人は相当凄腕の錬金術師のようだね!私も会ってみたいよ」
「…………そろそろ、爆弾、じゃなかった、クランの話、戻っていい?」
「わ、ごめんごめん!話が逸れちゃったね!だからその物騒なものしまおっか!?」
いつのまにか彼の膝の上には、スイカサイズはある真っ黒な球体が鎮座していた。そのてっぺんからは、いかにもな導火線がチョロンと出ている
話が脱線しすぎて焦らしてしまったようだ。目の前にいるのが無自覚PKの超危険人物であることを忘れかけていたよ
「そ、そんじゃ手短にいこーか!このクランに入ってくれるかい!?」
「いいともー」
「意外とノリいいですね」
「オッケークラン入り手続き完了!もう解散していいからね!! ───あっ、最後に改めて自己紹介を。私はクラン〈異世界なんでも工作部〉のクランマスター、「マイ☆」だよ!「マスターマイスター」でも「マイちゃん」でも、好きなように呼んでいいからね!」
「じゃあ、マイちゃんで。私は「カノン」、趣味は爆弾。よろしく、それじゃ、失礼しました」
気持ち口早に自己紹介を終えた私に対し、カノンちゃん──じゃなかった、カノンくんも簡単な返答をする
そしてその勢いのまま、いつのまにか2つに増えていた爆弾を両手に抱えてそそくさと退出していった
危なかった……、あれは長時間拘束したらいけないタイプだね。下手したらクランハウスが木っ端微塵になってるとこだったよ
こりゃまた厄介なメンバーを入れちゃったかな?
これは私がしっかりしないといけないね。このクランで唯一の常識人である、私がね!!
話数ストックが尽きたので、またしばらく休載します
ストックが30話くらい溜まったらまた再開したいと思います。目安は半年後、下手したら一年後かな?
というのも、元々が入試勉強の現実逃避で書き始めた作品なので、それが終わってモチベが限りなくゼロに近い状態なんですよね
打ち切りや疾走するつもりは今のところないので、今後もマイペースに執筆していこうと考えております
……もしも評価ポイントが増えたら、執筆ペースが上がるかも?
マイペースとは言ったけど、評価されるのはそれはそれで嬉しい現実
はい。というわけでよかったら高評価・ブックマークの方をよろしくお願いします




