国境紛争
やあ、親愛なる詩の愛好家のみんな。
初めましての人は初めましてそうでない人はお久しぶり。
僕の名前はネロ・ユリウス。気軽にネロって読んでほしいな。
チャームポイントは大きな目。女の子からもここだけはきれいってよく言われるんだ。
趣味は詩を詠むことで、最近はグラディウス山の山頂で自分の詩を詠むのにハマってるよ。
澄んだ空がよく見える場所で誰にも邪魔されないというのがたまらないんだよね。
まあ最近はそうゆうこととはめっきりご無沙汰なんだけど。
せっかくこの前いい詩を思いついたから、早く帰りたいんだけどn…
ヒュンッ
風を切る音とともに一本の矢が僕の顔の真横をかすめた。
おかげで僕は妄想の世界から一気に現実に引き戻された。
「・・どうやら奴らもうこちらに気付いたようだ。急いで移動するぞ」
またこれだ…。僕らは潜んでいた茂みから移動し始めた。
僕のいるアナトリコン半島はつい先日までネルファ朝の奴らに大体占領されていたのだけど、なぜかこの間全て撤退していったんだ。
それをカトリア王国の斥候部隊が発見してから5日、奪われた領土を取り返しに出陣したわけだ。
その結果、よくわからない軍勢と戦闘状態になってからかれこれ1ヶ月…僕らの軍はこんな昼間から山の中でゲリラ戦を行っている。
移動は馬があるから楽とはいえ真夏に甲冑はきついものがある。それにいい加減腹も減ったし限界だ。
「すいませーん。この戦争っていつ終わるんですか?」
僕は斜め前にいた部隊長に問いかけた、部隊長は何も言わずにものすごく怖い顔で睨んできた。
隊の士気に関わることをするなってことなんだろう。
でも今ので僕の士気は無に等しくなってしまった。
「おいネロ。そんなだらしないこと言ってるとまたお前の父さんに怒られるぞ。ほんとにお前は俺と同じ十六歳なのか?」
僕がまた妄想の世界に入ろうとすると、同輩のセドリックが僕に話しかけてきた。
この男はセドリック。僕の腐れ縁の男であり僕が彼女ができない理由である。
今まで僕が好きになった子たちはみんなこんなナルシストのことが好きだとか言う理由で僕のことを振った。
一体なんでこんな男のどこがいいんだ。
たしかに僕には及ばないけど顔は整っているし身長も大人くらいある。
でもこいつよりも僕の方がかっこいいし、こいつの茶色の髪より僕の黒髪の方がきれいじゃないか。
でも、女の子は皆この横の男に夢中になる。
「いいよ、どうせ怒ったところで何時間かしたら収まるんだし」
「はぁ…まったく。いいか、何度もいうがこの戦争は半島を取り返すまで続くんだ」
「それって具体的にいつまでするんだよ」
「そんなもん目的が達成されるまでなんだから分かるわけないだろ」
「えぇ…。僕、秋になるまでには帰りたいんだけど」
「はあ、お前ほんとにカトリア王国人か?お前が国王の息子じゃなければ俺はお前のこと殴ってたぞ。だいいち…」
「いい加減自分たちの職務を全うしようとしないなら、隊長権限で2人とも二度と王国の大地を踏めなくしてもいいのだぞ」
「「すいませんでした。隊長殿!!!」」
少し話しすぎたようだ。セドリックは不満そうにこちらを見ているが、元々お前が吹っかけてきたんだろ。
あー・・・。早くこんな戦場からおさらばしたい。グラディウス(さん)はいつもきれいだけれど秋になると紅葉が綺麗なんだ。
なぜかあそこの付近でしか起こらない現象なんだけど…。
「あれ?」
ふと現実に戻ってくると周りにいた仲間がいない。
「やばい、はぐれた」
つい言葉に出てしまったが、事実それほどまずい状況だ。ゲリラ戦において味方とはぐれるのは死を意味する。
何しろ味方はあっちこっちに移動する上、現在僕らは敵から逃げている真っ最中だ。
僕が王族とはいえあの合理主義の隊長が戻ってこようとするわけがない。
奇跡でも起こらない限り再び合流するのは不可能だろう。
よし、まずは落ち着こう。焦っては最善の選択は出来ない。
さっきも言った通り再び合流するのはほとんど不可能…。
そうだ、そんな僅かな可能性に賭けるよりも王国に帰る方がまだ可能性があるんじゃないか。
そうだそうだ、かなり怒られるだろうけど死ぬことよりはましだ。
いや~しかしこんな展開で帰ることができるとは思わなかった。
帰ったら久しぶりに趣味に時間をかけられるし、いいことだらけじゃないか。
王国への最短ルートは少し来た道を戻らなければならない。
僕は王国に帰るために、馬を進めた。
しかし、現実はそう簡単にうまくいくはずがなかった。
この時代は中世をベースに考えています。