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カトリア戦記  作者: 山水香
共和国へ
20/21

大使館にて~後~

頭が痛い。一体さっきの奴は何だったんだ?


再び目を覚ましたが相変わらずさっきと同じ異様な場所にいた。


先ほどと風景は変わらないが一つだけ違ったところがあった。


目の前にいた謎のフードの奴は消え、代わりにそこには着物の女性がいた。


その瞬間自分が忘れていた記憶が脳の中を駆け巡った。


目の前にいたのは琴だった。


「驚きだね。まさかもうそんなところまで到達していたとは」


琴は呆れたようなうれしいような不思議な顔をしていた。


「いいかい。お前さんがさっき見たのが神だ」


神?今見ていたのが神なのか。


でも神らしい見た目ではなかったけどな。


そういえばさっき何か言われたけど全く意味が分からなかったな。


「さっき何か言われたんですけどあれって何を言ってるんですか?」


するとたちまちのうちに表情が変わり、ものすごい剣幕でまくし立てた。


「知ってはいけないよ。あれは人間が聞いちゃいけないものだ。でないと私みたいになる」


あまりの剣幕に僕は乗っている船から落ちるところだった。


「まったく。あぶなっかしいったらありゃしない。」


そう言うと琴はまじめな顔になった。


「今は私が防いでいるから大丈夫だけどいつまでも持つわけじゃない。」


そして、琴はおもむろに服の裾から何かを取り出し僕に差し出した。


それはオリーブの葉を咥えた鳩が彫られたペンダントだった。


「それを持ってこの川に飛び込みな。そしたら現実に戻ることができる。ほらさっさと行った」


「えぇっ!そんないきなり言われても、、、いや、そんなに押さないでください。まだ心の準備が―――」


じれったいと思ったのか琴は僕を船から飛び降りさせようとグイグイ押し始めた。


「早く行きな。私の気は短いんだ」


待って強すぎない? 琴の力はとても強く抗うことができそうもなかった。


「ちょっと待ってほんとに落ちるから―――」


「早く落ちろーーー!!」


そして、僕はなされるがまま川に落ちてしまった。





「わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。何も来てくださらなくともこちらから参りましたのに」


俺は応接間でソファに座りある人と向かい合っていた。


彼はマイケルの父親ことジョゼフ・フーシェ殿である。


ネロの部屋から一階に降りて王国から届いた書類に目を通していると突然やってきたので応接間に通したのである。


ジョゼフさんはマイケルとは似ても似つかない老紳士のような顔で俺をみつめていた。


「いえいえ。息子のこともありますから、これくらいのことはさせてください」


「マイケル殿は本当に穏やかにすごしていただいています。それくらいのことはお安い御用です。それで今日は何の用事でしょうか?」


俺がそう促すと、ジョセフさんはじっと僕を見ると息を吐き、やがて観念したように話し出した。


「それが、同盟の締結なのですが延期することになりました」


まさに青天の霹靂であった。この一か月、同盟締結のために奔走してきたというのになにがあったというのだ?


「何か問題がありましたか?こちらの問題ならできるだけ対処いたしますが」


「いえ王国の問題ではありません。実は加盟国であるアドリア公国の全権大使が来国できない状況だそうで」


なるほどそういうことか。しかしまずいことだ。


ロンバルキア同盟に加盟するには会議での全加盟国の承認が必要なのである。前回の会議で王国の加盟の打診をしたがそれはあくまで方針だけのもの。


実際に加盟するにはまた新たに会議で議決をしなければいけないのである。


「アドリア公国に何か問題があったのでしょうか?」


「どうやらここにきてアドリア公国内で王国の加盟に反対の意見が増えているようなのだよ」


かなりまずい状況である。寄りにもよって反対勢力の台頭が原因だとは、これでは延期どころか同盟締結の話そのものが立ち消えになる。


これがそこら辺の小国のやっていることなら無視すればいいだけなのだが問題はアドリア公国が同盟内では比較的影響力を持った国であることだ。


もし無視して強引に会議を開こうものなら最悪同盟が崩壊してもおかしくはない。


しかし同盟の話がなかったことになれば王国はその国家戦略を根本から変えなければいけない。


選択肢の少ない王国にとって非常にまずい状況である。


俺は藁にもすがる思いでジョゼフさんに尋ねた。


「来国のめどは?」


ジョゼフさんは黙って首を横に振った。どうやら最悪の想定が現実となる可能性があるな。


とりあえず本国に急いで連絡をしなければ、これはもうこちらで決めてよい範疇を越えている。


俺がそんなことを考えていることを察してか、慌ててジョゼフさんは続けて言った。


「とはいえ我々としては王国の加盟は賛成の立場なので約束した援助は継続するつもりです」


これはありがたい。とはいえ共和国としてもこの対応は当たり前か。共和国にとっては王国と敵対する理由はないからな。


「ありがとうございます。とりあえずは本国に連絡を取り判断を仰ぐこととします」


しかし俺たちのできることなどたかが知れているだろう。後は神にでも祈るしかない。


そんなふうに俺が考えていると部屋のドアをコンコンとノックする音がした。


「誰だ?」


「私でございます」


この声はこの屋敷の使用人の声だ。


「お部屋の掃除をさせていただきたく」


「今はだめだ。先に二階の部屋を掃除しておいてくれ」


「かしこまりました」


そう言うと使用人は二階に向かったのかコツコツという音が遠ざかっていった。


「そういえばマイケルは二階にいるのでしょうか?」


「そうです。大使の部屋で大使の容態を案じてくれております」


まあ嘘だけどな。父親の手前それなりに褒めておくべきだろう。


「あまり邪魔をしていなければいいのですがね・・・」


「大丈夫ですよ。そんなことはしておりません」


実際何もしていないしな。手助けすることもないが邪魔をすることもない。


「息子は人の懐に入るのがうまくてですね。それでモーデンベルク殿にも気に入られて、いさめることができずにいるのです。今回のことも申し訳ありませんでした」


そういうとジョゼフさんは俺に頭を下げてきた。


「いや大丈夫です。こちらの落ち度でもあるので。ですからどうか顔を上げてください」


「すまないね。どうにかしたいのだが」


これはちょっと話を変えたほうがいいな。ジョゼフさんの気を使わせてしまっている。


そう思った俺はふとした疑問をなげかけた。


「そういえば最近モーデンベルク様にお会いしていませんが何かあったのでしょうか」


「いえ大丈夫です。ただいろいろとほかにも忙しいことがあるようで。実は今回の同盟は私に一任されているのでそもそも会う機会がないのかもしれません」


「といっても同盟の締結の時には出席いたしますよ―――」


「キャーっ!!」


突然上の階から叫び声が聞こえた。おそらくあの声は使用人のものだろう。


ふと最悪の予感が俺の中を埋め尽くした。


「どうしたのでしょうか?」


「おそらくネズミが出たのでしょう。一応私が見てくるのでジョゼフ様はここにいてください」


そう言うと、俺は返事も聞かずに駆け足で二階に向かった。


あの馬鹿(マイケル)まさか変なことしていないだろうな。もしそうだったらどうするか。


階段を勢いよく駆け上がり、ネロの部屋の前まで来るとドアの前で腰を抜かしている使用人が見えた。


それをまたいで部屋に入るとマイケルとラシャはさっきと変わらず椅子に座ってこちらを見ていた。


しかし変わっていたところがあった。ネロが起きていたのである。


そして、ベッドの上に全裸のマッチョがネロをまたぐようにして座っていた。


次回は木曜の予定です。

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