聖遺物
わけがわからなかった。
いきなり人が出てきたと思ったら突然変なことを言い出して、次の瞬間にはアテネが攻撃されていた。
おかげで僕らはろくに反応することができず、アテネをすっぽり覆ってしまうくらい大きな閃光がそのままアテネに直撃した。
「アテネ!」
アテネの安否を確認したいが衝撃で舞い上がった砂埃のせいでアテネがよく見えない。
「ゲホ・・・安心しろ。私はこれくらいではやられない」
よかった。どうやら無事みたいだ。
とはいえどの程度かはわからないがそれなりにダメージは受けたようだ。
これ以上ダメージを受けるのは危険だろう。
僕は建物の階段から見下ろしてくるこの男をにらみつけた。
しかし、あの男がいきなりアテネを攻撃したのもそうだが、あのお札のようなものは一体何なんだ?
最近現実離れしたことが起きすぎたせいで違和感がなかったが、よく考えるとおかしい。
「いつもと違ってしぶとい。だが結果は同じことだ」
そう言うと男は再び攻撃しようと懐からお札を取り出した。
まずい。そう思って僕が止めようとする前に動いた人間がいた。
「ちょっと待ってください。もしかして、誰かと勘違いしているのではないですか?」
セドリックはアテネの前に立ちはだかり男にそう問いかけた。
「どうして邪魔をする?それ以前にお前たちは何者だ?群島の女神の下僕というわけでもなさそうだが」
男はひとまず攻撃をやめたのかお札を持つ手を下ろした。
「先ほども言いましたが人違いでは?僕らは昨日この国に来たばかりで、この場所に来たのも今日が初めてですよ」
セドリックにそう言われ、男は僕らをまじまじと見つめやがて僕と目が合うと目を大きくさせてこう言った。
「もしかして、あなたは噂のカトリア王国大使様ですか?」
「えっああそうだ。僕がその噂のカトリア王国大使だ。」
僕がそう言った次の瞬間その男は僕の目の前に飛び降りて地面に頭をこすりつけた。
「本当に申し訳ありません。まさか大使様の一行であったとは。弁明の余地もありません。」
まさかこんなに頻繁に人の土手座を見ることになるとは思わなかった。
ってそうじゃない。なんでこいつはいきなり土手座してるんだ。
「ちょ、ちょっといきなりどうしたんですか?とりあえず・・・とりあえず顔を上げてくれませんか?」
「いえ、今回のことは私の勘違いが原因顔を上げることなどできません」
男はさらに頭をぐりぐりと地面にこすりつけた。石畳の道なのになんというやつだ。
というか、これじゃあ話にならない。
僕らはどうにか男を落ち着かせるしかなかった。
◇
「いや、本当に申し訳ありません。改めてお詫び申し上げます」
「間違いは誰にでもあるからな。今回は許してやろう」
あの後も男は10分くらい土手座をし続けた。
そして今もまだアテネに向かってぺこぺこしている。
現在僕らは男に建物の中に案内され見たことない作りの部屋に座っている。
なんだろう、この床は何か乾かした長い草で編まれているように見える。
けど案外座り込こちはよい。
「あの、そろそろ話をしてもよいですか?」
「ええ。どうぞお話しください。あ、申し遅れました。わたくし易文といいます。どうぞお見知りおきを」
そう言うと易文という人はこちらを向いて深々と頭を下げた。
僕が本題を話そうとすると横からセドリックが入ってきた。
「早速本題なんですけど、実は昨日ここの寺で買ったというお守りをもらったらこの子が見えるようになったんです。
何か理由を知りませんか?」
セドリックがちらっと僕の方を見た。
こういうことは俺にまかせろってことなんだろう。僕は易文さんの方に向き直った。
「なるほど。その前にどのようにしてこの子が現れたか教えてください。それによって理由は変わってきます」
セドリックはアテネと出会ってからのことを男に話した。
「なるほど。大使様のイメージが具現化した姿ですか」
易文さんはしばらく考えるそぶりを見せた後、話し始めた。
「もしかすると。アテネさんは聖遺物に近い存在なのではないでしょうか。
だから見えるようになった可能性があります」
「聖遺物?」
「はい、聖遺物とは現実ではありえないことを可能とするものです」
彼は一呼吸置いた後続けていった。
「まず、聖遺物は道具であることがほとんどです。
何が原因で存在しているのかはわかりませんが一説には我々の願いが生み出したものと言われています。
それと、ものにもよりますが強い効果を持つものなら一つで大国ほどの力を持ちます。
当然その分数は少ないですが弱いものに関してはその限りではありません。例えば…」
易文はセドリックの持っていたお守りを指さした。
「例えばそのお守り、実は私が作ったのですが存外簡単に作ることができます。」
「どのようにして作ったのです?」
そう言われた易文はうれしそうな顔で説明し始めた。
「お守りを作ること自体は普通の工程で大丈夫です。
しかし、作る過程で祈りを込めなければいけません。
ちなみにそのお守りは持つ人の安全を願って作られています。」
易文はおもむろに懐からお札をとりだした。
「このお札も聖遺物です。お守りよりも作るのは難しいですがその分強力です。」
にわかに信じることはできなかった。
しかし、先ほどアテネを襲った閃光の事もあって完全に否定しがたいものだった。
彼はお札を戻した後、そしてと言いながら真剣な目つきで話し始めた。
「ここからが本題なのですが、聖遺物を所有している者にしか見えない聖遺物がまれに存在するのです。
もしかしたら、アテネさんはそれなのかもしれません」
彼の言うことが正しいならアテネは聖遺物ということになる。
なるほど、いままで見える人がいなかったのもつじつまが合う。
「おとぎ話の中のような話ですね。なかなか信じがたいです」
セドリックはそう言った。
「それはそうでしょう。私も初めて知ったときは信じられませんでしたからね。
それに、聖遺物は相性が良くなければ効果を発しません。
これもあまり知られていない理由でしょう」
そう言うと、彼はさっき僕らにも持ってきたお茶を一気に飲んだ。
「すいません。こんなにも一気に話すのはひさしぶりでしてね」
そう言うと彼はフーッと息を吐いた。
「とはいえ、私が知っているのはこれくらいです。」
僕たちは驚くしかなかった。
まさかそんなに珍しい存在だとは、アテネについて調べようと思ったことがなかったとはいえこうなるとアテネがどういった存在なのか気になる。
「たしかにそのとおりです。とりあえずそれが正しいと信じましょう」
セドリックもとりあえず彼の言うことを信じるようだった。
その様子をみた易文はアテネの方をちらっと見て言った。
「私もアテネさんのような存在を見たのは初めてです。
しかし、とてつもない力を持っていることは間違いありません。
そばに置いておいた方がよいですよ。大使様はなおさら。
・・・少し話過ぎましたね。私がお話しできるのはここまでです」
「ありがとうございます。」
話はひと段落ついたがまだ一つ疑問が残っていた。
「そういえば、どうしてアテネを攻撃したんですか?」
そういわれて易文さんはおでこに手を当ててうなった。
「いや~。あれは本当に申し訳ない。」
そう言うと彼はまたアテネにぺこぺこし始めた。
「過ぎてしまったものはしょうがない。それよりどうして私を攻撃したんだ?」
攻撃されたというのにアテネは全く気にしていないようだ。
すごいなこいつ。僕だったらしばらく根に持つのに
「これも話せば長くなるんですが・・・。
実は私の生まれはこの国ではなくここよりはるか南からやってきたんです。
色々あってこの地に流れ着きこうやってお寺を立てたのですが問題がありまして…。
この共和国には守り神がいるんです。それに目の敵にされておりまして。
しかし、私以外の前には姿を現さないので誰にも信じてもらえず。」
そこで彼はピタッと話すのをやめ一瞬僕の方を見た。
「実は昨日の食事会、私も招待されていたんです。」
「え、来てたんですか?」
「ええ。そこでどうにか対処してもらおうと思ったのですが誰にも信じてもらえなかったのです」
まさか来ていたなんて。でもちっとも見かけなかったような。
「はい。私も大使様に挨拶くらいはしようと思っていたのですが。その…」
「なにかあったのですか?」
「その、大使様をお見かけしたのですが、隣にいた女性の方と随分と熱心に話をしていたもので声をかけることができなかったのです」
途端に僕は二人から冷たい視線を浴びた。
「なんでさ。何もしなくていいって言ったのはセドリックじゃん」
「普通それくらいするのは常識だろ」
僕はセドリックの方を見てむっとした顔を見せた。
しかし、セドリックに軽くあしらわれたのでさらにむっとした顔で文句を言った。
「いいじゃんかそれくらい。ピラミッド壊れてたの黙ってたやつに言われたくないよ」
「それは関係ないだろ。確かにそれを言われると何も言えないが」
僕らが言い合っていると易文さんが止めに入ってこう言った。
「まあまあ、喧嘩はそれくらいにして。それより聞きたいことはそれくらいですか?」
「はい以上です。すいませんこんなに教えていただいて」
「いえいえ。久しぶりに人とまともに話せたのでこちらもうれしいです。」
そう言うと易文さんはパンッと手をたたいてこう言った。
「そろそろお昼ですがみなさんおなかはすいていますか?」
途端に僕らのおなかがぐう~となった。
なんてタイミングのいいおかげで僕らは三人とも顔を赤くした。
そんな僕らに易文さんは優しい顔をしながらこう言った。
「実は最近参拝してくださった人からいい小麦をいただいたので、私の故郷の料理をふるまいましょう」
「「「ありがとうございます!」」」
こうして僕らは易文さんの手料理をごちそうになったのだった。
◇
一時間後
三人は易文さんの家でお昼をいただき、帰ろうとしていた。
「ほんとうにありがとうございます。色々教えてくださった上ごはんまでいただくなんて」
「どういたしまして。またいつでもきてくださいね」
「はい。また絶対来ます。ではまた」
そういうと三人は街へ帰っていった。
後に残された易文はしばらくニコニコしていたが三人が見えなくなると恐ろしいほど冷たい顔になった。
そして、誰もいないはずの境内でつぶやいた。
「想定外だ。近い将来神が降臨するかもしれない」
火曜日ぶりの更新です。今回はかなり説明が多く長くなりました。わかりにくかったらすいません。
次回は土曜日になるとおもいます。
追記 致命的な描写の欠陥があったのでかなり改稿しました。申し訳ありません。