ディアン・オブシの場合
元ネタ。
『小心貴族と竜の姫』
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「やぁ我が弟子」
げ、師匠!
何で屋敷に来てるの!?
五日に一回城に顔は出しているのだから、話があるならそこですれば済むのに!
……嫌な予感しかしない……。
「おや、どうした? 顔色が優れないようだね?」
「いえ、そんな事は……」
師匠を見たから、とは言えない。
かと言って嘘で乗り切れる相手でもない……。
「……最近は考えないといけない事が多いですから、その所為かも知れませんね」
「それは良くない。考え詰め過ぎると、良い考えも浮かばなくなるからね」
「そうですね」
あなたがその結構な部分を作っていらっしゃるのですけど、自覚はありませんかそうですか。
「そんな我が弟子に丁度良い魔法がある。心身共に休養出来る素晴らしい魔法だ」
「ご厚意感謝致しますが結構です」
やばいやつだ! 間違いなくやばいやつだ!
何としてでも逃げなくては……!
「大丈夫。人間に試すのは初めてだが、命の危険は多分無いし、我が弟子は死んでも竜に転生するだけだから」
ほうほう。
つまり何か魔法を思い付いたけど安全性が多分程度だから、死んでも竜に転生する魔法を竜皇陛下にかけられている私で試してみようと、そういう事か。
嫌だあああぁぁぁ!
命の危険が勘定に入ってる時点で大丈夫では無いんですよおおおぉぉぉ!
「それに、ほら実際大丈夫ではないかね?」
「にゃ?」
い、いつの間にか師匠が大きく!?
いや、周りの家具の大きさなどから考えるに、私が小さくなっているのか!
身体が縮む魔法!? いや、何か違和感が……!
「にゃっ!?」
何だこれ! 手が、肉球!?
慌てて全身を見ると、わ! 茶色の毛に覆われてる!
そして自分の喉から出た声……!
まさか今私は……!
「猫になれば難しい事を考える必要もないし、身体も柔らかく凝りとも無縁。存分に休むと良い」
何本人の了承も無く、危険な魔法をかけているんですか師匠!
「にゃー! にゃー!」
「はっはっは。そんなに嬉しいとは、相当疲れが溜まっていたようだね」
駄目だ! 文句が全て鳴き声になる!
これいつ解けるの!?
まさか死んで竜に転生するまでとか言わないよな!?
「ちなみに我が姪は小動物全般が好きだ。存分に可愛がられると良い」
「にゃっ!?」
くそ! それが狙いか!
ルビナとは想いを伝え合い、恋人関係になる事を決めてはいるが、未だ口づけを交わしただけに止まっている!
師匠は竜と人との間に子どもが産まれるかを早く確認したいのだろうから、私の抵抗感を猫の身体で世話されたり撫でられたりする中で突き崩すつもりか!
そうはいかない!
魔法が解けるまでこの屋敷から離れれば良いだけだ!
「あぁ、ちなみにこの魔法は、私以外の魔力の干渉を受け続けると解ける。我が姪に触れていれば半日と経たずに解けると思うが、離れたらいつ解けるか分からないよ」
そうですよねえええぇぇぇ!
師匠は私が想定する事くらい、余裕で手を打っていますよねえええぇぇぇ!
「では我が弟子。良い猫生活を」
「にゃ……!」
そう言って師匠は去った。
……え、これ、どうすれば良い?
魔法を解除するには、ルビナに触れる必要がある。
しかし事情を説明しようにも言葉は鳴き声になる。
つまり私は何の説明も抵抗も出来ず、猫として撫でられたり膝の上に乗せてもらったりする、と……?
生き地獄……!
「あら? 猫……? どこから入ったのかしら……?」
ぎゃあ!
考えがまとまらない内にルビナが!
「……そして猫に絡みついているディアン様の服……。ディアン様が服をこのように脱ぎ散らかす事は無い……」
え、あの、ルビナさん?
服を畳みながら、何を?
わ! 抱き上げられた!
「そしてこの匂い……。もしかしてディアン様ですか?」
うおおおぉぉぉ! 奇跡だ! 奇跡が起きた!
匂いで分かられたのはちょっと複雑だけど……。
何度も頷くと、ルビナは首を傾げた。
「でもどうしてディアン様が猫の姿に?」
あぁ、説明したいけど出来ない!
でも人が猫になるなんて異常事態の選択肢は狭いんだから、分かるよなルビナ!
「! まさか! 前に私から吸い取って下さった魔力の所為では……!?」
違う! 師匠の所為だから!
ルビナは何も悪く無いから!
「ディアン様! 私はディアン様が元のお姿に戻るまで……、いえ! 例え戻らなくても生涯お世話を致します!」
そこまで思い詰めなくても良いんだよルビナ!
とにかく触れていれば良いんだから!
「にゃー」
「何ですかディアン様! え、ベッド? ……分かりました」
私が鳴き声と共に前足で示したベッドを見て、ルビナは頷いた。
そうそう。そこに腰掛けて膝にでも乗せていてくれたら、
「一緒にお昼寝をされたいのですね」
違あああぁぁぁう!
いや、まぁいつも一緒に寝ているから、そう誤解するのも無理はないけど……。
もういっその事、読心魔法で心を読んでよ!
……私が許可しないとやらないだろうなぁ……。
「では」
そんな私の願いも虚しく、ルビナは私を胸に抱いたまま、布団をめくって横になった。
うわ、身体が小さいから、全身にルビナの柔らかさが……!
でも、何だろう……。
すごく心が安らぐ……。
もしかして、これが、母の胸に、いだかれると、いう、こ、と……。
「はっ!」
目を覚ますと、身体は元に戻っていた。
良かった! 助かった!
隣を見ると、ルビナは眠ったままだ。
起こさないようにベッドを抜け出し、ルビナが畳んでくれた服の元に……!
今私は全裸だ。こんなところをラズリーにでも見られたら……!
「ディアン? シルルバ様から夕方頃に君の部屋を訪ね、返事が無かったら入るように言われたんだけど、何かあったかい?」
しぃぃぃしょぉぉぉおぉぉぉ!
まさかここまで策を巡らせていたとは……!
後少し目を覚ますのが遅かったら……!
「待て。少しだけ待ってくれ」
努めて冷静にそう答えると、私は大急ぎで服を身に付けた。
あぁ……、あの安らかさの余韻をもう少し味わっていたかった……。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
やはり最後はメイン連載で締めたいと、こんな話になりました。
「野郎が猫化して何が楽しいんだ!」というお叱りには全面的に同意します。
ノリと勢いで書き始めた小品集でしたが、完結した作品の続きを書けたり、懐かしさを感じたりして楽しかったです。
読んでくださった方も楽しんでもらえたなら幸いです。
二日に渡る猫の日企画、お付き合いまことにありがとうございます!
∧ ∧
(=^ェ^=)にゃー!