ケミィとカールの場合
元ネタ。
『魔法薬作りの天才で、金も名声も寿命も思い通りの俺だけど、買った奴隷が思い通りにならない』
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「ドレシーさん、これは?」
「あぁそれ? 結構人気あるのよ。頭に着けるだけで、非日常が味わえるって」
「へぇ……」
「ほら、こんな感じに」
ドレシーが、その装飾品を隣でピンクのフリル付きワンピースを着ている、筋骨隆々の彼氏に装着する。
その姿に何か大きく頷いたケミィは、
「これいただけます?」
「はい! いつもありがとう!」
代金を支払ってその装飾品を受け取った。
「ただいま戻りました」
「あー! お前またドレシーさんの店で何か買ってきたなー!」
ケミィの持つ紙袋を見て、カールは絶叫を上げる。
「もう。いくらハーレムから去った人だからって、お店で買ってくる物にまで過剰反応するのはどうかと思いますよ?」
「ナイーブなところをつついて論点を逸らすな! お前が買ってくる物買ってくる物おかしいから文句を言ってるんだろうが!」
「おかしいって何がですか?」
「たとえばこれ! 『熱さは感じるけど皮膚に跡を残さない温度で溶ける蝋燭』とか何に使うんだよ!」
「『皮膚に跡を残さない』っていう時点で、人体に使うに決まっているじゃないですか」
「理解力が足りない馬鹿を見る目やめろ! こんな物必要ないだろうが!」
「だってご主人様は私に蝋燭を垂らすのに抵抗あるじゃないですか」
「当然だろ!」
「だから跡が残らないなら抵抗感なく使えるのではと」
「跡が残る残らない以前に、蝋燭垂らして熱がる様を楽しむ趣味はないんだよ!」
「やってもみないで何がわかるっていうんですか!」
「世の中試せばいいってもんじゃねぇんだよバーカ!」
「お試しで作ったハーレムは散々でしたもんね」
「諸悪の根源のくせによく言えたなその言葉!」
一通り叫んだところで、カールは紙袋を指差す。
「で、それは何なんだ」
「これは楽しい道具ですよ。夕食の後をお楽しみに!」
「お楽しみどころか嫌な予感しかしねぇんだけど!? おい待て! それをこっちによこせ!」
「ご主人様、私が身に付けるものに興味津々なんですか?」
「うぐ……!」
「今つけろと言うなら、恥ずかしいですけど……」
「待て待て! わ、わかった! 詮索しないから服を脱ごうとするな!」
「そのちょろさはご主人様の一番の魅力ですねー」
「うるせぇ! とっとと夕飯を作れ!」
「はーい」
ケミィは軽い足取りで台所へと消えた。
「さぁ晩御飯ですよー」
「また酒のつまみ攻勢……。そしてまだ残っていたか、貰い物の芋酒……!」
揚げ芋や腸詰めが並ぶ食卓で、しかしカールは不敵な笑みを浮かべる。
「こんな事だろうと思って、今日は酔い覚ましの魔法薬を用意してある!」
「あらら」
「酒の後にこれを飲めば、お前の企みも水泡に帰す! はっはっは! 今日こそお前に」
「あ、冷めちゃうんで早く食べてください」
「え、あ、はい……」
悔しがらないケミィに違和感を覚えながら、それでもカールは勝利を確信していた。
「あぇ……? 何れ、こんなにぽわぽわ……?」
「ご主人様。前酔っ払った時に使い切っていたので、瓶に汚れが付いても良くないなーって、私水を入れてたんです」
「何らと……?」
「中身はちゃんと確かめないといけませんねー。さて! ではではお酒でご主人様がとろとろになったところで!」
ケミィは例の袋から自信たっぷりに取り出すと、頭に装着した。
「どうですか! 猫耳です!」
「ねこ……?」
「そう! 台所の窓を開けておくと、勝手に入って食べ物を荒らす街の厄介もの! これには日頃の恨みと酒の勢いで嗜虐心をそそられるでしょう!」
「ねこら……」
「ご主人様……?」
「……徹夜の命綱の保存食をかじる鼠をやっつけてくえたり、仮眠しすぎそうになると上に乗って起こしてくえたりしたねこら……!」
「え? あれ? ご主人様、猫好き……?」
戸惑うケミィの頭を撫でるカール。
「あぁ、ねこら、ねこちゃーん……」
「ここまで理性が溶けるとは。抑圧が酷いと人ってこうなるんですかね」
「あぁ、いやされるー。ねこー。ねこー」
「……何だか腑に落ちませんが、まぁよしとしますか」
こうしてカールが満足して眠るまで、ケミィはまんざらでもない顔をして、頭を撫でられ続けたのであった。
読了ありがとうございます。
この後ケミィに散々からかわれ、カールは猫耳に軽いトラウマを植え付けられる事になります。
猫の魅力に抗えるわけがないからね。仕方ないね。
ラスト一話で完結しようと思います。
最後までお付き合い頂けましたら幸いです。