第7話 Academy③
「では、先ずは攻守を決めてからの打ち合いね。私が合図するまで攻める人はずっと攻め続けて、守りの人はそれを防いでみて!じゃあ、始め!」
リース先生の合図を皮切りに皆が打ち合いに身を投じた。
剣術の心得がある男の子同士などは随分と本格的な模擬戦闘をしている。
逆に女の子同士とかはきゃっきゃっとお喋りしながら遊んでいるようだ。
「ねえ、ライナス先生に聞いたんだけど。貴女の頭一体どういう構造してるの?」
聞き取り方によってはただの侮辱にしか聞こえないわね。
「小さい頃からずっと硬い物に頭を打ち付けて来たんです。怪我をしてもすぐに回復魔法で治療を繰り返していたから、皮膚と骨が頑丈になったんだと思います」
「ハーベスト家って凄い教育をしてるのね」
不味いわ!
私は正直に話したつもりなのに、お父様達に風評被害の可能性が出てきた!
「……でも頭突きに適性があったのは私だけだったので、他の家族は至って普通ですわ」
「そうなんだ……」
ふう……何とか乗り切ったわね。
リース先生を納得させた所で、話を切って打ち合いに戻る。
「じゃあ、ティアさん。好きに打ち込んでみて。剣筋を見れば相手の癖や修正して欲しい所もある程度分かるから」
凄いわ!流石リース先生ね。そんなのもう剣の達人の領域では無いの!?
私は先生の言葉通りに思い切り剣を振った。
自分目掛けて……
バキッ!!
模擬剣がまた折れた。
「ちょ、ちょっと!ティアさん何してるの!?」
「すみません。うっかりいつもの癖で……」
「ティアさんが何を言っているのか分からないんだけど!」
「日頃から棒状の物を自分目掛けて振り下ろしていたんです。物は速度と比例して質量が増しますから」
「……そうだけど!私が聞きたかった答えとは違うわ!!」
例えば同じ石でも手元から落とした石と高い所から落とした石では落下の衝撃が違う。
硬い物も勢いをつける事によって更に硬度が上がっている気もするしね。
実際にそんな事は無いんだろうけど。
その後、リース先生に呆れられつつ授業は終了した……
休憩を挟んで次は魔法の実技よ!
攻撃魔法自体は普通に見た事はある。
盗賊団や護衛の中にも使っている人がいた。
だが、実際に自分が使えるとなれば俄然話は違ってくる。
高い硬度の鉱石を発見した時みたいに好奇心が抑えきれないわ!
授業をして下さるのは、宮廷魔術士も勤めた経歴があるホワン先生だ。
一見普通のおじいちゃんにしか見えないが、数々の修羅場をくぐり抜けて来たに違いない。
「あ~、先ずはこの中に魔法が使える者はおるか?手を上げなさい」
私の他にも何人かが挙手した。
同い年なのにもう魔法が使える人がこれだけ居るのね。
放課後に魔法の秘密特訓なんてするのも楽しそうだわ!
……まあでも、友達を作る方が先ね。
私が脳内で一喜一憂している中、ホワン先生の説明は続く。
「既に魔法が使える者はそれに見合った称号持ちの筈じゃ。今使える魔法を極める事に注力しなさい。その方が更に自身の飛躍が望めるじゃろう。勿論アドバイスは惜しまないからの」
えっ?攻撃魔法は?
私は思わず再度手を挙げていた。
「……お主が噂の令嬢じゃな」
入学初日に噂が立つのも気にはなるが、今はそれ所ではない!
「ホワン先生!私は攻撃魔法が習いたいです!」
「……過ぎたる力は身を滅ぼすが道理。回復魔法が得意なのじゃろう?それでは満足出来んのか?」
「私の回復魔法は手で触れただけで傷や欠損が完治してしまうんです。攻撃魔法みたいに格好いい詠唱をしたいとずっと憧れてました!」
「お主は何を言っておるのじゃ?触れただけで効果があるなぞ……。ちょっと待て、今から儂に使ってみろ」
言われた通りにホワン先生に触れると、先生の体が淡く輝き出した。
「おお!うおおお!持病の腰痛と膝の痛み、体の不調が全て治っていくぞ!!!」
光が収まった後には先程よりちょっとだけ若く見えるホワン先生が立っていた。
「こんな若々しさは久しぶりだ!今なら途中だったあの魔法の研究が出来るぞ!」
ホワン先生は笑いながら学舎へと走り去って行った。
「先生!授業は!?」
周りからの視線が痛い。
これからどうしたら良いの!?
私が窮地に追い込まれていると、学舎からリース先生が歩いて来るのが見えた。
「ホワン先生が物凄い勢いで走ってたから様子を見に来たけど。ティアさん、また何かやらかしたの?」
「うわ~ん!リース先生、助けて下さい!」
私はリース先生に泣きついた。
初日にこんなにも精神的に追い詰められるとは思っていなかったのだ!
その後、リース先生は皆に指示を出してくれて、自習の監督までしてくれた。
リース先生は本当に良い先生だ。
これからは恩師として敬愛して行こうと決意した。
そんな私の決意を余所に、リース先生の難病が治っていた……