第4話 Royal Capital
学園がある王都リーデルンまでは半月ほどの旅程だった。
護衛も引き連れての結構な大移動だったが、道中では野営をしたり領地には生息していない魔物を見る事が出来たりと色々と新鮮な経験が出来た。
有名らしい盗賊団が襲って来た時は、護衛の人達が苦戦してしまったが、私もお手伝いして一人も殺さずに捕縛する事が出来た。
学園生活に胸をときめかせている最中に死体など見せられては堪らないしね。
護衛の人達には物凄く感謝された。
私もずっと馬車の中で座っていたから知らない内にストレスが溜まっていたのだろう。
思い切り体を動かしたからストレス発散にもなったので、護衛の人達には気にしなくて良いよと言っておいた。
王都に付くと引き連れていた盗賊団を衛兵に引き渡して護衛の人達と別れる。
今からまた領地に蜻蛉返りなんてつくづく大変な仕事だと思ったので感謝の気持ちを伝えておいた。
本当は学園まで護衛して貰う予定だったが私からお断りした。
こんな都会で人攫いに襲われる訳は無いし、護衛の人からも大丈夫でしょうとお墨付きを貰った。
何が大丈夫なのか聞いておけば良かったな。
お父様に貰った地図を頼りに学園に向かう。
流石に元の世界の都会と比較すると数段劣るが、王都は人が多くて活気があった。5、6階建ての建物もちらほらと確認出来る。
途中の出店で串焼きを買って頬張っていると、通りの真ん中で騒ぎが起こっていた。
どうやら貴族の乗る馬車に通行人がぶつかったみたいだ。
通行人は足を負傷しているらしく、苦しんで呻き声を上げていた。
そんな通行人に向かって罵声を浴びせるだけの貴族の男。
怪我してるんだから早く助けてあげなさいよ!
私は堪らず駆け出していた……
「おじさん、大丈夫ですか?」
「……うう。……足が痛………くない?」
「おい、女。急に出てきて何のつもりだ?」
「何のつもりはこちらの台詞です。この方は怪我をしているのに何故手当てをしてあげないのかしら?」
「そこの平民が俺の馬車の進行を妨害したのだ。責められるのは当然だろうが!」
「……本気で言っているの?」
「身分が違うのだから当然だろう!」
早速選民主義の人と出くわしてしまったようだ。
「貴方の価値観を変えようなどと烏滸がましい事は申しませんが、目の前で苦しんでいる人を放っておくのは私の主義に反しますのでこの場はお引き下さいませ」
「勝手に横槍を入れて来たくせに何を言っているのだ?そこの平民には迷惑料を払って貰うぞ」
「ひっ!?」
盗賊よりも質が悪い気がする……
「おいくらでしょうか?私が立て替えておきますわ。」
「……金貨10枚だ。それで見逃してやる」
元の世界の価値で換算すると金貨は1枚で10万円ほど。
しれっと100万円を要求してくる辺りは、元の世界に居た肩がぶつかって絡んで来るチンピラを彷彿とさせる。
チンピラに絡まれた事は無かったけど……
「ではこれで無かった事にして頂けますね」
私は財布から金貨10枚を取り出し貴族の男に渡す。
財布の中身は心許なくなってしまったが、先程の盗賊団の首領が賞金首になっていたらしく、捕縛の謝礼として後日金貨50枚を貰えるらしいので心配はしていない。
「……分かった。そこの平民、命拾いしたな!精々この女に感謝する事だ!」
いちいち大声出さないと喋れないのかしら?
貴族の男は終始偉そうにして去っていった。
「貴女様は一体?」
おじさんが呆けた表情でこちらを見ていた。
「ただの通りすがりですからお気になさらず。では、私は先を急ぎますので……」
「せ、せめてお名前だけでも!」
「私はティアと申します。おじさんも今後は気を付けて歩いて下さいね」
学園の場所も未だに分かっていないので先を急ぐ事にした。
去り際におじさんが「聖女様……」と呟いていた。
私が聖女?
聖母神のような笑みを浮かべて奇行に走る女……
凄く恐ろしい存在だわ。