第1話 Let's Try!
淡い光が見える。
目を開けるが、視界が定まっていないのか全てがボヤけて見えた。
誰かが喋る声がする。
何と言っているのかは聞き取れない。
私はどうしてしまったんだろう?
仕事が終わって帰ってる途中で急にハイヒールの踵が折れて、バランスを崩してそれから……
道脇にあった大きな石に頭をぶつけて……
えっ?私死んじゃったの?
でも、呼吸はしてるし心臓の鼓動も感じられる。
もしくは病院かどこかに搬送された?
頭を打ったせいで、目が見えなくなって耳もおかしくなったのかな?
……きっと休んだら元通りになってるよね!
私は一縷の希望を抱いたまま、眠りに落ちた。
目を覚ますが何も変わっていなかった……
体を動かそうとするが、手足が短いのか起き上がれないし寝返りも打てない。
なんか体が小さくなってない!?
すると、ボヤけて見えないが人型の何かに体を持ち上げられた。
そして、そのまま柔らかい何かを口に押し付けられた。
これって……女性の胸?
抱きかかえられて………女性の胸に口を押し付けられて……
もしかして授乳!?
……えっ?待って!私、赤ちゃんなの!?
不安になって泣きたくなってきたので泣いた。
そのまま本能に負けておっぱいを飲んだら落ち着いた……
赤ちゃんじゃん!!
時間が経つにつれて、私は赤ちゃんである事実を受け入れていた。
というか、泣くかおっぱいを飲むしか出来ないので色々と諦めるしかなかった。
そして、一年の月日が流れた……
目もだいぶハッキリと見えるようになり、言葉もハッキリと聞こえるようになった。
言語自体が違っており、英語を学習するかの如く両親や使用人の会話から単語を読み取っていく。
そのおかげもあって、パパとママは言えるようになった。
初めて言葉を口にした時の両親の喜びようは半端なかったわ。
因みに私の両親は、ともに金髪碧眼の美形であった。
私も成長したら美人になるのかしら?今から期待は大きい。
時代は中世なのかな?
家具はアンティークっぽいし、電化製品なども見当たらない。勿論オムツも使い捨てでは無かった。
しかも、両親が変な言葉を紡ぐとランプに勝手に火がついたり、手から水が出てきたりした。
ここが元の世界では無い事が証明された瞬間だった。
私は手と足もある程度動かせるようになったが、行動範囲はこの部屋から出る事はなく、代わる代わる色んな人が私の様子を見に来る程度だった。
そして、それから更に一年が経った。
私は自分の足で立てるようになり、辿々しくも会話が出来るようになった。
順調にすくすくと育っているようで何よりだ。
だが常に思うのは、元の世界に帰りたいと言う願望。
たぶん元の世界の私は死んでしまったのだろうけど、別に生まれ変わりを望んだ訳では無い。
生まれ変わるにしても何故別の世界だったのか?
例え神様の気紛れな悪戯だとしても、私はずっと納得がいかなかった。
そして、ふと思い付く。
転生したのは石に頭をぶつけたのが原因であるなら、その逆もまた起こるのでは?
現在進行形で育ててくれている両親には悪いが、元の世界の両親もまだ健在だったし、別れの言葉一つ伝えられずに死んでしまったのだ。
そう、今の私を占めるのは元の世界への未練だけだった……
部屋には私以外誰も居ない……
目の前には木で出来たテーブル。
私は同じ高さのソファーの手すりから思い切り倒れ込んだ!
ガン!!!
「お嬢様、今の音は?……きゃああああああ!!!」
私付きの侍女が様子を見に来たと思ったら、悲鳴を上げて部屋を飛び出して行った。
私は額に手を当て、生温い液体に触れる。
口に伝う血は鉄の味がした……