表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【オムニバスSS集】青過ぎる思春期の断片

今日の私が最悪なら、明日の私はきっとマシ

作者: 津籠睦月

 今日の私は、最悪だった。

 言うこと、やること、全部裏目に出て、空回からまわりするばかりだった。

 こういうことって、結構けっこうある。

 口をはさむタイミングとか、言葉の選び方とか、何だかいろいろ不器用ぶきようで、ヘタクソで、上手うまくいかない。

 ヘンな空気を作ってしまったり、上手く話がみ合わなかったり……。

 微笑わらって誤魔化ごまかしながら、こっそり心の中だけで(へこ)む。

 私、ダメだ。こんなことで周りから好かれるわけない……って。

 

 今日の私は、最悪だった。

 心がささくれて、ちょっとしたことが気にさわって、親の何気なにげない一言に、キツい言葉を返してしまった。

 悪いのは私の方だって、ちゃんと分かってる。

 何ていやな子なんだろうって、自分で自分がきらいになる。

 上手く行かない日って、なぜだか、とことん上手く行かない。

 不幸や不運や不調って、何でかさなって来るんだろう。

 嫌なことの後には良いことが“かわりばんこ”に来てくれれば、きっとだれも死にたい気持ちになんてならないのに。

 

 よく、「私はこういう性格」って、ハッキリ言える人がいる。

 たまに、自分の長所や短所を、自己紹介プロフィールに書かされることがある。

 だけど、私には、私のことが分からない。

 どういう性格なのか、何が長所で何が短所なのか、ハッキリ言えない。

 

 だって、“私”は毎日(ちが)うんだ。

 毎日コロコロ変わる、日替ひがわりの“私”なんだ。

 

 昨日は上手くこなせたことが、今日は何でか、上手くいかない。

 昨日なら何のためらいも無く言えたことが、今日は何でか、言うのに勇気がる。

 私の性格は、一定じゃない。

 毎日いつも少しずつ、何かが違う。できることとできないことも、日によって違う。

 だから、ハッキリ言えない。

 私の性格はこれだとか、長所や短所が何かとか。

 

 まるで毎日、ルーレットで“今日の私”を決められているみたいだ。

 今日の私は“怒りっぽい”。別の日の私は“傷つきやすい”。そしてまた別の日は“自信が無くて、臆病者おくびょうもの”……。

 

 ごくたまに“何もかも上手くいく、自分史上最高の私”になれることもある。

 だけど、そんな幸運は本当に、時々にしかおとずれない。

 

 こんなにコロコロ、メンタルが変わるなんて、私、まだ“人格”や“自我”が、ちゃんと完成してないのかな。

 それとも「天気によって気分が変わる人もいる」ってくらいだから、実はこれも、普通のことなのかな。

 

 どっちにしろ、私はいつもこの“今日の私ルーレット”に苦しめられる。

 ものすごく積極的に、何もかもどんどんやってしまえる日もあれば、急に不安になって「あれはやらない方が良かったんじゃないか」って落ち込む日もある。

 昨日の私が、今日の私を苦しめる。

 かと思えば、今日の私が昨日の私の悩みを、一瞬で吹き飛ばしてしまうこともある。

 

 昨日だとか一昨日おとといの“過去の私”を、別人のように思うことが、よくある。

「何で昨日、あんなこと言っちゃったんだろう」とか「何で一昨日は、あんなに上手く言いたいこと言えたんだろう」とか、自分で自分を不思議に思うことが、よくある。

 全部、同じ“私”のはずなのに、ダメな子だと思う“私”もいれば、何てスゴいんだと思える“私”もいる。

 大嫌いな“私”もいれば、大好きな“私”もいる。

 私の心は、“ひとつ”じゃない。

 パズルみたいに複雑に、いくつもの“私”が組み合わさって、私になっているんだ。

 

 何でもできる“私”、大好きな“私”だけを集めて、私を作れたらいいのにって、思う。

 そうすれば、どんな人生だって、スイスイ渡っていける気がするのに。

 今のこの人生は、“今の私”にはちょっと、難易度が高い。

 

 人間関係って、ほんのささいな言動ひとつで、コロッと変わってしまったりする。

 周りの会話に上手く入っていけないと、一緒いっしょにいても、妙に居心地いごこちが悪かったりする。

 だけど、私のコミュニケーション能力は、日替わりで、一定じゃないんだ。

 

 周りはきっと、こんな風にコロコロ変わる“日替わりの私”のことなんて、理解してくれないんだろうなって思う。

 きっと、“嫌な子の時の私”の嫌な言動が、いつもの私だと思われてしまう。

 あるいは、すごい気分屋だって、あきれられているかも知れない。

 

 “嫌な子の時の私”のことは、私だって好きじゃない。

 “ダメな子の時の私”のことを、私自身、認めているわけじゃない。

 変わりたいって、思う。

 私は、“私の好きな私”になりたい。ずっと、そんな私のままでいたい。

 だけど、どうしたらそうなれるのか分からない。

 

 今日の私は、最悪だった。

 私の中の、ダメな所ばかりが表に出てしまっていた。

 周りのノリに合わせたつもりが、何だか何かがズレていた。

 笑ってもらいたくて大ゲサに行ったことが、変にスベって空気をおかしくした。

 気にしてないフリで微笑わらっていたけど、心の中では(へこ)んでいた。

 そして、さとった。

 ……あぁ、今日は、ダメな子の方の私だったんだ……って。

 

 今日の私は、最悪だった。

 私の中の嫌な部分が、言葉で出て来て、きっと相手を傷つけた。

 こんな嫌な部分が私の中にあったんだって、改めて思い知って、余計に自分が嫌いになった。

 今日の私は、嫌な子だ。

 “私の嫌いな私”の日だ。

 

 夜、眠る前のひとときに、いのるように思うことがある。

「明日の私は“デキる私”でありますように」「明日の私は“私の好きな私”になれていますように」……って。

 私の性格は日替わりだ。自分では選べない。

 明日の私がどんな私なのか、明日になってみないと分からない。

 

 だから、ただ願うんだ。

 明日の私が、今日のダメな私とは違う私であるように。

 今日は上手くいかなかった会話を、明日は上手くわせるように。

 今日ひどいことを言ってしまった親に、明日はちゃんとあやまれるように。

 

 私の性格は、ルーレットだ。

 悪い日もあれば、良い日もある。

 だから、きっと大丈夫。……そう思うことにする。

 

 今日の私が()悪なら、これ以上は悪くなりようがない。

 だから、きっと大丈夫。

 どんな私が明日に来ても、きっと今日よりマシだから。

 

 そう、自分に言い聞かせて、私は今日も眠りにく。

 そうやって、嫌な日の今日を乗り越えて、明日を迎える準備をする。

 気まぐれなルーレットでいつか巡って来る、“最高な私”の日を待つ。

 どうか明日は、上手くいく日でありますように……。

 どうか明日は、優しい私でいられますように……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ