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追憶①

 せっかくエルクと再会出来たのに何でこうなったのだろう……。

 本体に還る事も出来ない。終わる事も出来ない。世界は残酷過ぎる。 

 エルクと一緒にいたあの時が懐かしいな……。





 私はレイダースと呼ばれる村で、平穏に暮らしていた。

 私の村は特に国に属しているわけではなく、そのお陰なのか戦争とは無縁の村。しかし何かあった時の保証とかなく、その為に村が山賊や盗賊に襲われると無力で仕方無かった。

 それでも活気がある村人達がいて、一つ上の幼馴染のエルクがいるこのレイダース村が大好きだ。

 時に近くの町の子供が来て貧乏だってなじられる事はあったけど今よりは全然幸せだった。

 やがてその町は戦争で滅んだと耳にしたが自分達には関係無いと他人事のように思ってはいるが、いつこの平和が終わる事になるか怖くてならなかった。



 私が十歳になったある冬の事。一面は銀世界。空には美しいが怪しい赤き光を放つ満月が浮かぶ。

 これを眺める度にいつまでも平和が続くように願わずにはいられなかったが、この日この美しい銀世界がドス黒い赤き世界にその姿を変えた……。

 海賊達が村を襲ってきた。普段は村の食糧を奪うだけなのに今回は違った。村人達をが次々に殺されていく。

 何故こうなったの? 私達が何かしたの? 



 私がエルクに手を引かれて森の中を逃げた。息が上がろうが、足が痛かろうが、ひたすら逃げ続けた。

 普段は私が矢面に立っているが、この日はエルクが私を守ろうとしてくれた。

 だけど海賊に直ぐ追い付かれ、エルクは逃げろと言って海賊達の前に出る。

 何故私を庇ってくれるの? 普段は私の後ろに隠れているのに……。

 こんな時に恰好付けないでよ。そしてエルクは殺された。正確にはそう思い込んでいた。

 私は混乱のあまり目の前の現実が理解できなかった。エルクは目の前でドス黒い赤き雪の上に倒れる。


 何でこうなるの? 


 わからない。


 わからない。


 わからない。


 わからない。


 わからない。


 私は……誰? 


 この時、私は記憶を無くしてしまった。目の前には横たわる男の子。その前には嫌らしい笑みを浮かべる男達。私も殺されるのかな? 

 何もわからないまま死を覚悟した。だがその時……。


「嬢ちゃん一人相手に野郎共数人が何やってるんだ?」


 突如後ろから声が聞こえ、その声の主は私の前でに出る。私を助けてくれるの? 

 でも何故? 

 そんな事を考えていたのをぼんやりと覚えてる。

 ホリンさんが助けてくれた。この時、私はホリンさんと出逢ったのだ……。


「なんだお前は?」


 海賊がホリンさんに向かって勇む。


「あ~ん?」


 ホリンさんが睨んだだけで海賊達が逃げて行った。今思うとほんとホリンさんは凄い人だなぁ。


「嬢ちゃん立てるかい?」


 ホリンさんが私の手を引き立たせてくれたのをぼんやりと覚えている。ただ私はこの時、目の前の事に着いて行けず、いつ座り込んでいたのかわかっていなかった。


「……嬢ちゃん残念だがコイツは死んでる」


 エルクを見てホリンさんが言う。たぶん私に気を使ってくれたのだと思う。

 エルクは生きていた。でもホリンさんじゃどうしようもなかったんじゃないかなぁ。

 それにこの時の私はエルクの事も忘れていたのでそれどころじゃなかった。


「俺はホリン。嬢ちゃん名前は?」


 移動しながらホリンさんが問い掛け来る。


「……ティア」


 名前だけは憶えていた。


「何処から来た?」

「………」

「何で海賊に襲われていた?」

「………」

「側に横たわっていたボウズは?」

「………」


 今思うと助けてくれたのに失礼だったかもしれない。

 混乱していて名前以外忘れていたとは言え、何も応えないなんて。

 私はホリンさんに連れられフーシャと呼ばれる村に到着した。


挿絵(By みてみん)


 ホリンさんが私の分の宿を取ってくれたのでゆっくり休んだ。

 一日立って私は少しは落ち着き、ある程度起きた事を整理出来ていた。


 コンコン! 


 私が取った部屋にノックが来た。


「……は、い」

「俺だ! 入るぞ」


 ホリンさんの声が聞こえた。


「……ど、うぞ」


 私がそう応えるとホリンさんが中に入って来た。


「あの……昨日は、ありがとうございました」


 とりあえず私は頭を下げお礼を言う。


「いや良い。ちょうど通りかかっただけだからな。それよりティアと言ったか。ティアは何処から来た? 何で海賊に襲われていた?」

「……わかりません」


 今度はちゃんと応えられた。


「あ~ん?」

「何も覚えていないのです……貴方に助けられた所からしか……」

「じゃあ、側に横たわっていたボウズは?」

「わかりません……」


 昨日も聞かれた事を答えるには答えたが、自分の名前以外覚えていないので答えになってなかった。


「……記憶喪失って奴か……考えても仕方ねぇ。メシだ! とりあえずメシにしようぜ」


 ホリンさんはそう言い立ち上がり私を連れて食堂に向かった。

 朝食を済ませるとホリンさんが私を連れ女将さんの所に行く。


「おばちゃん、世話になったな」

「お帰りですか? ありがとうございました」

「ところでおばちゃん。此処って人雇ってないか?」

「雇いたいのは山々なんだけねぇ……何分給金を払う余裕がなくてね」

「だったら、一日三食と寝る場所の用意だけで、この嬢ちゃんを雇ってくれないか?」

「えっ!?」


 何故見ず知らずの私にそこまでしてくれるの? 

 この時の私はそんな事を考えてた気がする。


「ティア、どうせ行く宛てとかないんだろ? だったら、しばらく此処で世話になんな。で、落ち着いたら身の振り方を考えると良い」

「は、はい」

「私はそっちの娘が良いなら構わないよ」

「じゃあ決まりだ。ティア、悪いが俺はやる事がある。此処でお別れだ」

「あ、あの……色々とお世話になりましたホリンさん」

「行きがけの駄賃って奴だ。気にするな」




 美しく降り注ぐ雪。それが地面に溜まり、それはそれは見る者を魅了する銀の世界へ。空に浮かぶ怪しき赤い光を放つ満月が銀世界をより一層輝かせている。

 私の頭の中も雪と同じように真っ白になり、この世の終わりにも思えたがホリンさんがそんな私を救ってくれた。

 ホリンさんはフーシャ村まで私を連れて行ってくれて、生きる道を示してくれる。だけど私は記憶を失っており、何もかもわけがわからなくて自分の殻に閉じ籠っていた。

 それでも生きる為に働いた。何故生きなきゃいけないのかわからからない。これからどうすれば良いのかわからない。

 それでも必死に働いた。いや違う……この時の私は流されていた。きっと成り行きに身を任せていたのだと思う。




 私がこの村の宿屋で、住み込みで働かせて貰って二度目の冬を迎えた。

 今まで働いた甲斐もあって女将さんは、私の為に家を用意してくれた。

 休日の日は特に何もする事なく、その家で一日過ごす。自分が何をするべきなのかわからず、働く時以外は人と関わり合いを持たず寂しい休日を過ごす。

 いや生きながらに死んでる私には、たぶん寂しいなんて感情なかった……。




 更に季節は二つ分過ぎ夏を迎える。

 ある日、一人の男の子がやって来た。歳は私と同じくらいに思える。


「やぁこんにちわ。僕はアレクトリア。気軽にアレクと呼んで欲しいな。君の名前は?」


 陽気に話し掛けて来た。


「……ティア」

「ティアか。可愛い名前だね」

「………」


 どうでも良い。


「ティアは休みの日は何をしてるの?」

「……何も」

「そっかー。じゃあたまに遊びに来て良い?」

「……好きにすれば良い」


 素っ気なく返す。


「うん。じゃあそうさせて貰うね」


 にこやかに返して来た。


 この日を境に私が仕事の休みの時、たまに遊びに来るようになった。

 今思えばこれが間違いだったのかもしれない。来なくて良いって言えば私は剣人族として目覚めずに終われたかもしれないのだから……。

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