主人公懺悔室の聞き役になる~マニュアルに沿うよう努力する!~
オレの異世界生活は順調だった。
何人もの美女たちに囲まれてクエストをクリアしていく。いつしか強大な悪魔を打ち倒し、アレラムの英雄とまで言われるようになったのだ。莫大な財産、高まり切った名声、器量よく美人なた妻を持てて俺は幸せだ。なんとこの世界の素晴らしいだろうか!!!
・・・と、よく妄想する。
現実はこうだ。アレラムの大聖堂を訪れた俺たちはさっそくクエストを受けようとした。しかし、この、この「アレラムの信仰」はどうやら全く戦闘で役に立たないらしい。ランダム要素が強すぎて戦闘向きじゃないんだとか。まぁそうだわな。
それに加えてアレラムには悪魔やモンスターはいない。モンスターという概念はないらしく、受付のシスターにモンスターを狩りたいと言ったら怪訝な目をされた。妄言をはいていると大聖堂にいた鎧をまとう人たちから笑われたし。
そして今、美女ではなく生意気な堕天使が俺を足蹴に隣に寝ていて、アレラムの人々からは英雄ではなく妄言男と揶揄されている。底をつきそうな財産、落ちてしまった名声、くそ生意気で色気もへったくれもない堕天使が付いてくる。なんとこの世界のつらいものだろうか!!!
しかも「信仰アレラム」をいくら使っても願いは叶いはしない。唯一叶ったのはやるといい仕事を教えてくれという願いだ。大聖堂の求人票を見てみたら、懺悔室のアルバイトの求人票が赤くみえた。チェルになんでこの求人だけ赤いんだと聞いてみると。そいつはゲラゲラ笑いだし、それ赤に見えるの?また妄言ですか?と煽り立てた。お前だけ今日の飯抜きだというと、チェルは泣きついてきてひたすらに謝ったので許したが。
というわけで、俺はいま懺悔室の聞き役をしている。その日給で牛車のおっちゃんのぼろい小屋を借りて、いま目をこすり始めた堕天使と暮らしているわけだ。
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「申し上げたいことがあってきました。」
お!今日は男の懺悔からはじまるのか。珍しいんだよなぁ。男の懺悔は両手で数えるほどしか聞いたことはないんだ。
「えぇ、なんなりと。ここでおっしゃられたことは誰にも知られません。安心してください。」
マニュアルどうりにこたえるおれ。
「実は・・・・私はとんでもない非情なことをしようと思っています。身寄りのない人の住居を奪い去ろうとしているのです。あぁ慈悲のない私をアレラム様はお許しくださるのでしょうか。」
なかなかヘビーなことをしようとしてるんだな。
「本当はこの冬が明けるまでうちの小屋を貸してあげるという約束でしたがそれを破ってしまいます。ひぃぃぃぃぃぃいぃぃ。」
「お・・落ち着いてください。どうか冷静に。」
なんだって!?アレラム教は約束をたがえちゃいけない戒律のはず、この懺悔室マニュアルにも書いてあるぞ。約束・・約束・・・あった!624ページだ。約束を破ろうとする者がいたら→526ページへ。だるっ。526ページ、約束を破ろうとする人がいたら全力で止めなさい。な、なるほど、先ずは理由を聞こうじゃないか。そこから糸口を見つけよう。
「なぜそのようなことをなさるのか。理由を聞かせてくれないでしょうか?」
「アレラムの町の外で男女の二人組を荷車に乗っけてやったんです。そいつらをアレラムまで運んだあとでそいつらとは別れたんですが、その日の夕方ごろに見つけましてね。小川の石橋の上でヘリに腰かけて泣いてたんですよ。二人とも。あまりに哀れになって何をしてるんだととうt
あっれーーー??その男女二人って俺とチャルのことじゃねえか???てことはこの男の人牛車のおっちゃんかよ!!!やばいやばい、住む家なくなる。どうにかして、止めないと。
それで最初は一泊とめさせてやるつもりだったんですけど、金払うからといわれまして・・・・」
「でも、それからというもの納屋に入れてある売り物のキュロットが無くなっていきまして代わりに黒い羽根が数本落ちているんですよ。生活がくるしくなって、とうとう母屋以外はばらして売ろうかと・・はした金でも足しになればと・・・」
オレハスグサマアイツノシワザダトカクシンシタ。
「も、もうキュロットは今日からなくなりませんよー。だから、安心してください。」
おかえりいただいた。牛車のおっちゃんはオレの言葉を聞くと喜んで、両腕を天に掲げスキップしながら帰っていったようだ。
チェルのやつ次会ったら説教してやる!
数分くらいしてまた新たな人が来た。
「今日は相談があってきました。」
「なんでしょうか。アレラムはいかなる相談も許してくれます。」
マニュアルどうりだ。
「実は・・同居している人間が私のことをすけべな目で見てくるんです。小さな小屋に住んでいるんですが、その人と一緒に過ごさざるをえなくて・・きっと私の黒髪とお胸に魅了されたに違いありません。本当にいつ襲われるか心配なんです。」
こいつ・・・チャルじゃねえか。どんな妄想してんだ。殴ってやりたい。しかし今は仕事中だ。これが終わったらキュロットの件と合わせて制裁してやろう。しかし、このまま聞くのも癪だ。
「あなたの同居人は別にあなたのことをそのように感じてはおりませんよ。しかもあなたはきっと黒髪もほどほどにぼさぼさでお胸も小さく、色気なんてまっっっったくない人なのでしょうね。襲われるというのは決してありませんから安心してください。そもそもそのようにうぬぼれるのはいけませんよ。もう少したしなみを覚えてみてはどうですか?」
よっしゃ言ってやった。
「・・・・・・・・・」
なんだ?あんまりにもショックで泣いてしまったか。なんか悪いことしたな。冗談でごまかそう。
「じょ。。じょうだんでs」
「・・・シテヤル・・・・・コロシテヤル・・・・・コロス」
次の瞬間、チャルの鉄拳が懺悔室の仕切りをこえて顔面にクリーンヒットした。懺悔室の壁を突き破り放り出された。
いてええええと喚きながら床を転げまわるオレ。
そのわめきをかき消すように
「ここ!!!懺悔室なんですよね!!!!!!!」
そしてか細く
「相談聞いてくれませんか・・・」
そこには黒い布をまとった露出の多い女がいた。