同盟
「男……五人目も、男なのか……」
なんか悲しそうにため息をついた。
しかしすぐに深呼吸をして、刀を床から抜き取り鞘に収める。
それとほぼ同時に俺の手のひらから出ていた赤い槍が砂となって消え去った。
全て消え去るのを確認すると、手を下ろして立ち上がる。
「うん。よし!じゃあ自己紹介と行こうじゃないか!俺の名前で、この体の少女の名前は伊地知 澪!よろしくな!」
さっきと打って変わって、とても軽い感じで話しかけてきた。
なんというか折角の厳格な雰囲気が台無しになった感じだ。
しかも『俺』と言い放った。
さっきの発言から考えるに目の前の少女も転生者、ということだろう。
しかも俺と同じ、TS転生者だ。
自己紹介に対して何を言おうか悩む。
何故なら俺はこの少女のことを全く知らない。
少し悩んだ果てに、こう言う。
「えーっと……現状が全く理解できないんですけど」
「ありゃ?説明聞いてない?」
「説明?」
俺が首を傾げたのを見て、澪は少し考え込む。
何かブツブツ呟いているが、イマイチ何を言っているかわからなかった。
「……どうやってこの世界に来た?」
「PCの広告を見て、ダウンロードしようとしたらブワァ!って」
「同じだな、俺もだ。そんときに自称神さまが出てこなかったか?」
「神さま?何も出てきませんでしたよ。急に周りのありとあらゆるものが消えて……『全てのルールは『クレア』の部屋に』って文字が……」
「うーん。イレギュラーってやつかな?……じゃあ俺が代わりに説明しようかな」
俺たちはベンチに座ると、澪がこの世界について説明を始めた。
まず俺たちはこの世界でゲームをしている状態になる。
クリア条件はある男との恋愛、敗北条件はとある敵、もしくは他ヒロインに殺される、或いはヒロインになれなかった場合。
所謂、デスゲームってやつだ。
とある敵に関しては、来たるべき時が来たらわかる。とのこと。
その話を聞いた俺は、とにかく戸惑った。
「……その話を受け入れろって?」
「まぁ無理だろうな。だがその体の、少女の部屋に行けば、嫌でも理解するさ」
とにかく、と言って話を続ける。
俺たちはそれぞれ種族で分けられているらしい。
ヒロインそれぞれ、別の種族ってわけだ。
そしてその種別ごとに、神様から種族能力なるものの説明を受けるらしい。
だが俺は教えてもらっていないから、かなり不利なのは間違いないだろう。
「……ところでその自称神さまは、何を目的にこんなことしてんだ?」
「さぁな、俺たちも分からん。神様の考えてることは本当に分からん」
「言われなかったと?」
「とにかく恋愛して勝ち取れ。とだけ言われたな」
なんとも適当な神様である。
まぁ人間一人なんての神様からしたらくだらないものなんだろうな。
(に、しても適当すぎるだろ。確実に、俺だけ)
もうこの際神様に対する恨み言は言わないことにする。
もう一つ気になることがあるから、そっちを聞くことにした。
「じゃあ俺がアンタに狙われてたのは?」
「澪って呼んでくれ。狙ってたのはある依頼を受けてだな……まぁ、それは建前で、ヒロイン候補減らしておきたかったって言うのもあるな」
「マジかよ……」
「依頼受けたのは本当だかんな!?そこは勘違いするなよ!」
今の発言から何を勘違いしろと言うのだろうか。
俺はそう考えてため息をついてしまう。
澪はわざとらしい咳払いをして、まだ説明を続ける。
次に話したのはヒロインのもう一つの能力についてだ。
神様から授けられる能力、チートみたいなものに近いらしい。
と言っても俺みたいな吸血鬼からしたら大したものではないらしい。
せいぜい人間がバケモノと殴り合いができる程度だと言った。
「俺も持ってるってことか」
「推測だが、多分さっきの槍だな。血液を凝固させるとか?」
「固めるの?操ったりするわけじゃなくて?」
「……どっちもとか」
「おー。それなら納得がいくな」
(あれ、これって結構まずい奴じゃ……)
能力バレ。
こう言う能力系バトルもので一番まずい奴だ。
能力がバレると言うことは弱点がバレるのと同じ意味を持つ。
俺は今、死神の隣に座っているようなものだ。
能力の使い方がわからない今、戦うのはキツイだろう。
警戒をして、いつでも逃げれるようにしないといけない。
「……今できる説明はこんなとこか?」
「うん、大体わかった」
「よし……んじゃま、提案だ。同盟を組もうぜ」
「……同盟?」
「ああ、お前を除いて敵は三人。しかも三人ともくせ者ときた。正直言って勝てるかどうか微妙なラインだ。だがそこで!吸血鬼のお前が仲間になれば、だ」
たしかに俺からしても嬉しいことだ。
同盟が組めれば、それだけ死亡率が減る。
ただ裏切る可能性も考慮しなくてはならない。
「だが俺は弱い」
「そんなの、どうにでもなる」
「敵全員に勝った後は」
「タイマンで殺し合いだ」
「裏切らない可能性はないとも言えない」
「まぁな。だから俺はこの体の少女、澪の誇りにかけて誓う。裏切らないと……それにだお前、断れる状況か?」
「……わかった……殺し合い同盟、ってわけだな」
「そういうことだ」
どうしようもないことを悟った俺は、澪の伸ばした手を取る。
その瞬間、手のひらが光り輝いて見えた。
ただ一瞬だけのため、見間違え、と言う可能性もあり得るのだが。
澪を見ても、何もしていないのだから。
「……よし。じゃあまた明日な!」
そう言って澪はその場から去っていった。
俺は軽く振りながら、考える。
(また明日って……明日も会うのかよ……)
と。