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1.

見切りで発車します。

よしなにしてください。

目が覚めると真っ白な空間だった。

家具や調度品は一切なく、どこまで続くかわからないただ真っ白な世界。

その床といっていいのかどうかもわからない場所で難波健斗は目を覚ました。

寝ぼけているんだろうか? 健斗は胡坐を組んで座り込み、改めてあたりを見回す。

白い空間以外は何も見当たらない。


健斗はとりあえず寝る直前のこととを思い出そうとした。

いつものように仕事を終え、ささやかな晩酌をして眠りについたはず。

そんなに深酒をしたわけではない。

現状をかえりみて、二日酔いというわけではなさそうだ。

当然、酔っている感覚はない。

眠気も全くないところを見ると、寝ぼけているわけでもなさそうだ。

立ち上がってみる。

周りを見回してみる。

一面が真っ白いだけ。

距離感や平衡感覚が失調しそうである。

困惑しながら考え込んでいると、背後から声をかけられた。

「お目覚めですか?」


驚いて振り返ると、いつのまにか女性が立っていることに気が付いた。

年のころは20前後か、プラチナブロンドの髪をショートにした美女だった。

トーガのようなものを身に着けていた。

身長は少し高めか。170cmくらいだろうか。

すらりとしたスタイルが美しい。

じっとこちらを見つめる瞳には、何故かしら真摯さが込められているように思われた。


「これは夢か?」

健斗は思わず問いかけた。

明晰夢ではないかと危ぶんだからだ。

「夢ではありません。」

女が答えた。


「これは現実です。」

「あなたは誰?」

「私はメルと申します。」

「メルさんですか。」

「メルと呼び捨てにしてください。」

「いや、初めて出会って呼び捨てはないでしょう?」

「重ねてお願いします。メルと呼び捨ててください。」

「いや、それはどうかと。」

「重ねて重ねてお願いします。メルと呼び捨ててください。」


健斗は溜息をついた。

この件に関してメルは強情らしい。

「わかった、メル。俺はなぜここにいる?」

「私が呼び出したからです。」

「ここはどこ?」

「時空のはざまです。」

「時空のはざま?」

「はい。私の世界と貴方の世界のはざまです。」


よくわからない。


「説明してくれるかな?いろいろと。」

「はい。ご説明します。世界は複数存在します。私の属する世界と、貴方が属する世界は別物で、隔たっています。」

「パラレルワールドのことかな?」

「その認識で間違いありません。通常、それぞれの世界は行き来することができません。」

「ここは2つの世界を繋ぐものだと?」

「その通りです。私の属する世界と異なる世界を繋ぐために作られた一時的な空間です。」

「俺がここにいるわけは?」

「貴方に私の世界に来てもらうためです。」


メルは居住まいを正して説明を続けた。


「私のマスターは、名をクロヴィス・デュメリーといいました。」

「ふむ。」

「マスターは魔術を極めた方でした。その力で栄華を極め、知らぬ人のないほどでした。しかしながら後継者に恵まれず、寂しい晩年を過ごすことになりました。マスターはそれを憂い、すべての力を受け継ぐことができる人物を探し求めるため、私をお創りになりました。結局、生きている間に後継者を探し出すことはできず、御年536歳で天に召されました。」

「随分と長生きされたようで。大往生といったところ?」

「ただ一つの望みを除いては。」

「その望とは後継者を得ること?」

「はい。マスターは得た技術や知識、技能を託すことなくこの世を去りました。そのため後継者を探し出すことが私の使命でした。マスターが崩じたあと400年近く、あらゆる場所、あらゆる世界を探しました。」

「そんなに長い間探してたのか。」

「マスターと同じ魔力パターンを持つ方を、長いこと探しておりました。マスターの後を継いでいただくためです。そして貴方を見つけました。」


メルは一息つくと、懇願するように言った。

「マスターの遺産を受け取ってください。そして新たなマスターになってください。お願いします。」


「受け取るって、どうすればいいんだ?」

「貴方の魔力パターンの適合度は問題ありません。マスターの魔法のすべてを受け取ることができるでしょう。しかし魔力量が少なすぎます。生まれた場所を考えれば仕方がないことです。貴方には一回生まれ変わってもらい、魔力量を増大させてもらいたいのです。」

「生まれ変わる?そんなことができるか?」

「できます。魔力量は幼少からの訓練で飛躍的に増加させることができます。」

「待ってくれ。生まれ変わるって、そんなに急に言われても。第一俺にも生活がある。」

「残念ながら貴方は亡くなりました。」

「はい?」

「つい先ほど睡眠中に心臓が止まり、そのまま亡くなりました。ブルガダ症候群でした。」

「まさかあなたが殺した?」

「違います。貴方を見出してから、ずっと見守っていました。魔力量の不適合は予想されたため、転生を行う必要があることはわかっていました。貴方が自然死するまで見守り、死後に貴方に要請するつもりでした。それが今現在の状況になります。」

「そうか。あんたが殺したわけではないのか。そして俺は死んだのか。」

「はい。苦しまずに亡くなりました。」


健斗はしばらく考えた後言った。

「わかった。遺産とやらを受け取ろう。後継者にならないと俺はこのまま死んでしまうのだろうし。」

メルはパッと喜びの表情をした。

「ありがとうございます。」

「で、どうすればいい?」

「そのままお眠りください。それで転生します。必要な知識は転生時に転写されます。魔力の増加方法も一緒に転写されますので、転生後に実行してください。どこに転生するかは現時点で分かりませんが、必ず見つけ出し、おそばに参ります。」

「わかった。よろしく頼む。」

「では、しばしお休みください。貴方の人生に幸多からんことを。」


こうして健斗は転生した。


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