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痛くて危険な魔王討伐はもう古い?  作者: 御前
一章 『魔王領に建国編』
5/7

5.『リオン達のヒモになる』

インディゴが待ち構える魔王城はレトワール王国をずっと北に進み、マルーン山脈を越えた所にある魔王領の中心に位置している。


正方形を描くように聳える四つの砦に囲まれた魔王の居城はインディゴの間を含めた五階層で構成されており、一層と二層はデバフや状態異常を引き起こす厄介な(トラップ)が大量に仕掛けられた迷路のような構造、三層と四層は道こそそこまで複雑ではないもののオーガパラディンやダイヤモンドゴーレムなど高ランクの魔物が徘徊するハードな階層になっており、最上階の五層は全てが魔王の部屋となっている。


しかし、五階層を除いた階層は勇者達が通る場所だけで成り立っているわけではない。


例えば今いるこの部屋は第三層に位置しているらしい。

主に魔王城内の魔物が休憩する為に作られたらしいが、わざわざ移動するのに五階層まで行ってインディゴに許可を取られなければならないので、次第に魔物たちは面倒くさいと思い始め、今はとなっては存在してるだけという形になっている。

ベットが二つとクローゼット、小さめなソファとテーブルがある個室はしばらく使っていないはずなのに埃一つ落ちていない。

誰かが定期的に掃除に入っているんだろうか。


「やっぱり一人は気楽でいいな...」


リオンとアザレアはこの階層の別の個室で一緒。

カナリアは引き続きマホガニーの治療に専念しているが、終わり次第女子グループの部屋に合流するだろう。

マホガニーは既に一人部屋に入っているので俺と同部屋になる事はないはずだ。

いや、正直なりたくない。

俺はともかく相手は初対面だからなかなかやり辛いし...


「喧しいジジイと一緒の部屋とか真っ平御免だ....」


コンコン


「....誰だ」


まさか本当にジジイが来るとかないよな。

あ、もしかしたらリオンか!

さっきのお礼とか言いに来てくれたんだろう。

これはチャンスだ。


ベットから鼻歌を歌いながら起き上がり、ドアを開ける。


「やあ、どうした...」

「おお、カナリアに聞いたらここにいると...」


バタン。


夢だ。

俺の部屋に...モッサモッサの髭ジジイが訪ねてくるなんてあるわけない。


「おい、何で閉めるのじゃ!!」

「あなたと俺は初対面でしょうに!何の用があるっていうんですか」


そして、扉を殴らないで!

衝撃と一緒にメリメリってやばい音がするんだよ...!!


「初対面?何を言ってるんだ...おぬしは」


ピタリと扉を伝う音が止み、扉の向こうから彼が疑問を呈してくる。


「......え?」

「コウタとわしは今まで一緒に戦ってきた仲間じゃろ」












************************









「お茶でも入れるか?」

「気にするな...とっておきの酒を持ってきとるんじゃ。コウタもどうじゃ?」

「いや、俺は未成年だから」

「はっはっは、真面目じゃのう」


ソファにどっかりと腰掛けるマホガニーが酒瓶を軽く勧めてきたのをしっかりとお断りすると、彼はそれ以上は強く勧めず、俺が出してきたグラスに並々と注ぎ、一気に煽った。


「お前、その酒どこから持ってきたんだよ」


インディゴに飛びかかった時には酒瓶など持っていなかったはずだ。


「ぬははは!これは実はな...喉が渇いたもんじゃから冷蔵庫開けてみたら...偶然っ」

「あったから持ってきたと」

「当たりじゃ!いやー、わしの目に狂いはなかった。飲めば分かるいい酒じゃ!!」


大笑いしながら再びグラスに口をつけるマホガニーに俺は苦笑を浮かべながら酒瓶のラベルに目を向ける。

マホガニーは安い酒でも高い酒でも銘柄を伏せればいい酒じゃ!というので彼の言っている事は全くあてにならない。


ただ、見た感じ高級そうなラベルに見えるからこれは本当に良いお酒かもしれない。


「怒られても知らんぞ」

「バレないから大丈夫じゃ...多分」

「そこは自信を持って言えよ!」


何で今更顔を真っ青にしてるんだよ。

まあ、マホガニーの身体は丈夫だからもう一発くらい殴られたところでカナリアが何とかしてくれるだろう。


「はあ、それはいいとして...どうしてお前は俺を思い出したんだ?」


魔王インディゴと対面していた時には少なくとも俺の事を一般人としか認識していなかったはずだ。


それはリオン達も同様だ。


主人公の起こすアクションは問題なく実行出来るのにリオンのパーティーにはいない。

そんな矛盾を抱えているのが今の俺の状況だった。


俺の問いかけにマホガニーは困ったように頰をポリポリとかく。


「それがのお...目覚めた時にはもう戻っていたんじゃ。今になってみるとどうして忘れていたのかわからん...」

「魔王に斬りかかった時の事は覚えているか」

「ああ、バッチリと...あの時は意味のわからぬ一般人を優先するあやつにカッとなってしまった...あれがコウタだと分かっていればそんな事はしなかったのじゃが」

「マホガニーが倒れた後のことは」

「それもカナリアから聞いた。首元にはダサい首輪がついとるし...魔王の下僕にはなってしまうし、わしとしては納得がいかなかったのじゃが...コウタがやったと聞いて安心したわい」


彼が浮かべる満面の笑みはゲームで一緒に冒険したマホガニーの笑顔そのもので、思わず安堵してしまう。

思い出さなければ彼は俺を憎んでいただろう。

こうなったきっかけは間違いなく俺だからな。


「すまんな」

「気にするな。おぬしにはきっと考えがあるんじゃろ?最後に勝利する方法が...」

「.........あ、ああ」


やば、すっかり忘れてた。

やる事は大雑把に頭にあるものの細かい事は全く何も決めてないなど言えないので歯切れの悪い答えになってしまった。


「ならわしはそれについていくだけじゃ...それでコウタよ、わしも確認していいかの」

「おう、構わないよ」

「...リオン達はおぬしを思い出しておらんのか?」

「分からない」


リオンとアザレアは思い出していない気がする。

つい数分前まで一緒にいたが二人で仲良く話してるだけで俺には全く関心を見せなかった。

問題はカナリアだが...。


「リオンとアザレアは微妙。カナリアはどうだ?お前の治療をずっとしてたみたいだけど」

「うむ、多分じゃが...思い出しとらんな。おぬしの名前を出す時『こ、コウタ...さん?でしたっけ』みたいにたどたどしい感じだったからな...本来の彼女ならそんな事はないはずじゃ」

「そうか」


となると思い出しているのはマホガニーだけとなる。

何でリオンが一番じゃないんだよ...。

誰も思い出してくれないよりはマシだけど、ジジイしか覚えてくれないなんてあんまりだ。

せめてアザレアとかカナリアならまだ嬉しかったのにぃぃ。


「.....どうして泣いてるんじゃ」

「....気にするな。お前は悪くない」

「酒の事か!やっぱりおぬしはわしの味方かっ」


俺の胸の内の他所にマホガニーはバンバンと肩を叩いて酒の匂いを振りまく。

濃厚なアルコールと悲しい現実に打ちひしがれて、俺は間違いを訂正する気になれなかった。




マホガニーは酒瓶を丸々空にした後、満足そうに自室へと帰っていった。

足取りが危なげなく顔も真っ赤だったからその辺で倒れてなければいいけど。


「また一人の時間が帰ってきたわけだが...暇だ」


明日からのアイデアを捻り出そうとしてもそもそも魔王領が具体的にどんな問題を抱えているかが分からないからすぐに思考が止まってしまうのだ。


ゲームや漫画は家に置いてきてしまったし、テレビをつけてもロクな番組がやっていない。

特にやる事もなくベットで枕を抱えてひたすらゴロゴロゴロゴロ。


「(そういえばスキルはどうなんだろう...)」


ここは『レトワール戦記』で俺は皆に忘れられているだけで多分主人公だ。

ゲームなら問題なくスキルを身につけられるからここでもスキルの発現は可能なはず。

ただ、剣術とか魔法とかの戦闘系のスキルはなるべく学習したくない。

なぜなら。


「そんな事したら戦わなきゃなんないじゃん...痛いじゃん、怖いじゃん」


正直、魔法には憧れているのだ。

炎とか出したり、風とか自在に操ったりしてみたいと思う。

ただ、それを習得してしまうと必然的に『戦力』と分類されてしまう。

戦いの場に駆り出されるのだ。


身につけなければ永遠に守られる立場でいられる。

リオン達に守ってもらえるから痛い思いも怖い思いもしなくていい。

そもそも俺は異世界人なのだから無理に戦力を持たなくてもいいのだ。


俺はリオン達のヒモになる。


「そうすると...実用スキルか」


スキルには大きく二つの種類分けがされている。

一つは戦闘系スキル。


これは主に魔物との戦闘や対人戦などで使われる事の多いスキルの剣術、槍術、斧術、魔法などが該当する。

使用すれば使用するほどスキルレベルが上がっていき威力、技を繰り出すまでの速度も上昇し、新しい技を習得する事も可能になる。


それだけではなく最大まで上げると一定条件を達成して上位スキルへと転生も出来る。


例を挙げるとリオンのスキル『聖剣術』と『神魔法』はそれぞれ剣術、魔法から派生するとても希少な上位スキルであり、聖剣術は勇者限定の特殊スキルだ。


また、カナリアの使う体力を回復させる『回復術』やステータスの一部を一時的に上げるバフ『能力上昇術』やアザレアの逆にステータスの一部を一時的に下げるデバフ『能力下降術』、行動を制限する混乱や麻痺などを扱う『状態異常術』などの魔物などに直接の大きなダメージはないものの戦闘で多く用いられるこれらも戦闘系スキルである。


もう一つが俺の言った実用スキルである。

料理、鍛治、馬術、栽培など戦闘に直接役に立たないものの習得しておくと生活の中で非常に役に立つスキルがここに分類される。


戦闘系スキルが冒険者や兵士などが多く持つのに対し、これらは民衆が持つ事が多い。


そして、戦闘系と比べて様々な種類がありゲームでもまだ全てが解明されていないほどだ。


『レトワール戦記』はストーリーの進行上、戦いに重きを置いているため戦闘系を多く習得する形にどうしてもなるのだが、自分だけの農場を作れたり、商売を始められたりという楽しみ方も出来るようになっているため実用スキルも豊富に用意されている。


「俺が習得してたのは...鍛治、栽培...あと料理とかだったかな」


最初こそはストーリーを進めるために剣術、魔法と言った戦闘スキルで埋まっていたのだが、インディゴ戦がなかなかクリア出来ないために気分転換として実用スキルで埋めたりした事もある。


これが結構楽しい。


世界に一本しかない武器とか作れたりするし、農場で栽培スキルを用いて作物を大量生産して商売して儲けたり、料理スキルで新たなレシピを開いていったりとストーリーとは関係ないもののなかなかハマってしまう。


そんな楽しかった日々に思いを馳せながら今、習得出来そうなスキルを絞る。


「鍛治はレトワールとかだったら楽に習得出来るんだけど...今回はパス。栽培は畑を耕して作物の種を植えれば確実に取れるから明日以降やってみるとして...料理かな」


マホガニーが言っていたがこの城には厨房があるらしい。

夕食の時間も近いし、誰かがいるだろうからその人に許可でも貰って食材とキッチンを貸してもらおう。


「本格的な料理を作ってみたいけどレベル1からだろうから...卵焼きくらいかな」


甘めにするか塩辛めにするかでステータスの上がりが異なるんだよな、どうしよ。

卵焼きの味付けについて考えながら俺は個室から出て厨房を探すことにした。




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