エピソードマウリ 2
それは僕が植物園に寄った後、厨房から部屋に戻る途中のことだった。
学内にアナウンスが流れた。
「学生マウリさん、至急職員室まで。
繰り返します、マウリさん、至急職員室まで」
何の変哲も無い、拡声魔法を使ったアナウンスだが僕たち学生にとってはとても奇妙なものだった。
学生が行方不明であるということ。
そしてそれがあのマウリであるということだ。
そして同時に僕の右腕にはまっている『マジックバングル』が音を鳴らす。この音はメッセージ受信の合図だ。
差出人は僕の数少ない友人の一人ハンチョだった。
『マウリさんが行方不明だそうです。
しばらく部屋にも帰っておらず、先生方も姿を見て
いないとかで。学院を出ていることもあり得ないそ
うです、門番も確認しています。
行方不明だというのは学生には隠されています。僕
たちは彼女といることが多々ありましたので、先生
から聞かされました。
見つけたら教えてください ハンチョ』
マウリが行方不明、か。
もちろんそう聞かされたところで実感など湧かない。
学内で行方不明だなんて恥もいいとこじゃ無いかと思ったりもするわけだが、聡明なあいつのことだ、止むに止まれぬ何かがあるのかもしれないし。
本当に行方不明なのか、僕には判断もつかないのだがしかしこれが真実ならあまり甘いことは言っていられないだろう。
友人として、というか元ライバルとして、僕は彼女を探すことにした。
「にしても、手がかりがないんだけどな」
何せ一緒にいることが、学生の中では確かに多かったけれど、でもそんなによく話したわけでもない。
彼女が普段何をしているかなんていうのは僕にはよくわからないこと……、あ、いやそうでもない。
ライバルとして覚えていることはあった。
彼女はとにかく本を読むのだ。
暇さえあれば本を読み、暇がなくても本を読み、覚えた知識は使いたがる、とにかく勉強熱心なやつだ。
高等部に上がってもそれは同じではないだろうか。
ということならば図書室か。
いや、図書室にいるなら既に見つかっているはずだろう。先生たちが行方不明だと言っているからには、そんなところは既に探されているはずだ。なので却下。
では、本を探しに街に出ている、ということもない。
学外には出ていないのだ。
そもそも行方不明だということは数日に渡って人の目に触れていないということではないのか?
ならばそんな、人の目に触れないところを探すべきだ。
いや、この際総当たりして学内を人海戦術で探しまくるのはどうだろうか?
数日に渡って一人、人の目にも触れていないというのは問題だ。行方不明になってもう何日なのか僕は知らないけれど、でもそれはまずい。人のいないところにライフラインは通っていないのだから。彼女の身のためにも早々に人海戦術なり何なりを試すべきだろう。
何、学院が広いとは言っても学生全員を動員すればあっという間だ。
今日の僕は冴えているようだ。